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2023箱根駅伝(往路)観戦記

2023年駅伝観戦三昧の二日目は、第99回東京箱根間往復大学駅伝競走(往路)の観戦記です。

レースの見所

優勝候補の筆頭は、出雲、全日本を連勝し、悲願の三冠を目指す駒澤大学です。最終学年を迎えた大エース田澤選手を軸に選手層が厚く、名将・大八木監督も自信を漲らせています。

駒澤大学を追う各校も強力です。前回王者で戦力充実の青山学院大学、出雲・全日本と連続2位で初の戴冠を狙う國學院大學、各学年に核となる選手が揃い古豪復活著しい中央大学、前回2位で虎視眈々の順天堂大学、留学生の大砲エースを持つ東京国際大学・創価大学らがハイレベルに拮抗しています。

第1区 21.3㎞ 大手町〜鶴見

1区での出遅れは絶対に許されないため、優勝を狙う各校は、トラックの10000mで28分台前半の記録を持ち、過去に1区での実績もある確実性の高い選手を起用してきました。

晴天に恵まれ、緩やかな追い風の吹く絶好のレースコンディションです。スタートから有力チーム同士の牽制によって、超スローペースの滑り出しとなりました。単独で飛び出したのは、関東学連選抜チームの主将で、10000m28分20秒台の記録を持つ新田選手(育英大学)でした。チーム戦略の思惑から過剰な牽制によってスローペースが続く集団を尻目に、快調に2分55秒前後のラップを刻み、一時は後続に400m以上の差をつけ、気持ちよく首位を独走していきます。

10㎞を過ぎて、新田選手を追う後続集団のペースもようやく3分を切るペースに上がってきましたが、レース後半になっても依然として大差があります。レースが急激に動き始めたのは六郷橋を渡った後でした。実力者の明治大学・富田選手が猛然とペースを上げ、反応して追走する駒澤大学・円選手を振り切ると、ぐんぐん新田選手に迫っていきます。残り1㎞でかわして首位に浮上すると、そのまま首位で2区に中継しました。

駒澤大学・円選手は、冷静な走りで9秒差の2位を確保し、優勝を狙うチームの大事な1区の重責を果たしました。粘った新田選手は3位(参考記録)を守り、以下法政大学・松永選手(16秒差)中央大学・溜池選手(18秒差)と続く大混戦で中継となりました。

区間賞 富田峻平(明治大学4年)1時間2分44秒

第2区 23.0㎞ 鶴見〜戸塚

各校のエースが鎬を削る『花の2区』に、今年は例年以上に豪華なメンバーが揃いました。中盤のポイントとなる権太坂のアップダウンを使った駆け引き、ラスト3㎞からの戸塚の壁での激しい首位争いが展開されます。

絶好の位置でタスキを受けた学生長距離界No.1ランナー、駒澤大学の田澤選手(調整がうまくいかず、思うように調子が上がらない状態だった模様)は、前半は抑え気味で、明治大学をかわして一時は首位に立つものの、4位でタスキを受けて追い上げてきた中央大学・吉居大和選手に序盤は先行を許す展開となります。7位からスタートしてきた、青山学院大学のエース、近藤選手もひたひたとその後ろに詰め寄ってきます。しかし、田澤選手は、コースの中盤を過ぎてからじわじわと差を詰め、権太坂を過ぎる頃には再び逆転して首位を奪回したのはさすがでした。

しかし、残り3㎞からの戸塚の壁で再び差を盛り返した吉居選手が、中継所手前での壮絶な争いを制し、田澤選手に3秒先着。区間賞を獲得しました。駅伝では無類の強さを誇ってきた田澤選手が、日本人学生選手に先着されるシーンは非常に珍しい光景でした。激闘を繰り広げた吉居選手、近藤選手、田澤選手は、揃って1時間6分台をマークし、留学生ランナーを抑えて区間上位を占めました。

注目されていた順天堂大学・三浦選手は、先頭と19秒差6位の好位置からスタートしたものの、前半から走りに精彩を欠き、9位まで順位を下げ、区間12位タイの記録に終わりました。これで、三年連続区間二桁順位となりました。赫赫たる実績を誇る天才ランナーも、箱根駅伝だけは鬼門のようです。昨年3区区間賞の東京国際大学・丹所選手も区間11位、エースの松山選手に代わって起用された東洋大学・石田選手も、初めての箱根駅伝に区間19位と苦しみました。

区間賞 吉居大和(中央大学3年)1時間6分22秒

第3区 21.4㎞ 戸塚〜平塚

トップに立った中央大学は、吉居選手と並ぶダブルエースの中野選手が、追ってくる青山学院大学・横田選手、駒澤大学・篠原選手を、じわじわと引き離していきます。湘南海岸沿いの国道134号線に出てからも安定した走りは変わらず、区間賞の好走で手堅く首位をキープしました。

2位争いは、残り3㎞で前に出た篠原選手が制し、首位との差を10秒にとどめました。青山学院大学は3位を死守したものの、首位からは36秒差とやや広がりました。1分40秒差の4位には、國學院大学四本柱のひとり、山本選手が2人抜きで上がってきました。早稲田大学のエース、井川選手が9人抜きの活躍を見せ、5位に進出してきました。

区間賞 中野翔太(中央大学3年)1時間1分51秒

第4区 20.9㎞ 平塚〜小田原

4区は、コース序盤から細かなアップダウンが連続してペースが掴みづらく、相模湾からの海風と箱根からの山風の両方の影響を受けるため、想像以上に走り辛い難コースと言われます。

ダブルエースの連続区間賞の活躍で首位を快走する中央大学は、吉居大和選手の弟で、大物ルーキーの吉居駿恭選手を起用しました。10秒差で追う2位の駒澤大学は、10000m27分台の記録を持つ準エースの鈴木選手です。力と経験に勝る鈴木選手は、吉居選手に早々に追いつき、鈴木選手が引っ張る形でレースが進んでいきます。

後方3位の青山学院大学・太田選手がひたひたと迫り、残り3㎞付近で先行する二人に追いついて割り込むと、吉居駿恭選手は引き離され、中継点まで太田選手と鈴木選手の抜きつ抜かれつの接戦が展開されました。最後は意地を見せた鈴木選手が1秒先着したものの、見応え十分な競り合いでした。

後方では、東京国際大学の怪物ランナー、ヴィンセント選手が自身3つ目の区間新記録を目指して爆速の走りを見せていました。12位スタートから先行する各校を瞬く間に抜き去り、4位まで進出。これまでの区間記録を30秒も更新する驚異的な新記録を打ち立てました。これで、2区、3区、4区の区間記録保持者となりました。いずれも簡単には破られそうもない大記録です。

区間賞 Y.ヴィンセント(東京国際大学4年)1時間0分00秒=区間新

第5区 20.8㎞ 小田原〜芦ノ湖

山上りの5区を担当するのは、駒澤大学がルーキーの山川選手、青山学院大学が当日変更で入った四年生の脇田選手です。ルーキーながら、全日本4区で区間賞を獲得し、先輩で昨年の5区経験者の金子選手を押しのけて起用された山川選手の実力が一枚上で、距離を踏むほどに、両校の差は開いていきます。

3位に下がった中央大学は、昨年この区間を5位で走って躍進の立役者となった阿部選手が走ります。青山学院大学をレース序盤であっさりかわすと、箱根山中で駒澤大学の背中が見える15秒差まで追い上げていきました。このまま後半の下りで、首位逆転も期待されたものの、山川選手は下りも強く、逆に差を開いて、駒澤大学の19年振りの往路優勝のゴールに飛び込みました。2位の中央大学に30秒差、3位の青山学院大学とは2分3秒差となりました。4位は國學院大学、5位は早稲田大学が入りました。

2年前の5区で好走した城西大学・山本選手が区間新記録をマークして区間賞。優勝候補の一角に挙げられながら、ここまでやや歯車が噛み合わないレースが続いていた順天堂大学は、四釜選手が区間記録を更新する区間2位の力走で5人を抜き、順位を6位まで挽回しました。

久々に出場の立教大学は、最下位ながらタスキを芦ノ湖まで繋ぎ切りました。

区間賞 山本唯翔(城西大学3年)1時間10分04秒=区間新

往路成績

① 駒澤大学 5時間23分10秒
② 中央大学 5時間23分40秒(+30秒)
③ 青山学院大学 5時間25分13秒(+2分3秒)
④ 國學院大学 5時間27分10秒(+4分00秒)
⑤ 早稲田大学 5時間27分33秒(+4分23秒)

勝手に寸評

今年は目まぐるしく順位が変動し、かなり面白いレース展開になりました。最終的には、地力を発揮した駒澤大学が19年振りの往路優勝を飾りましたが、中身の濃いレースでした。

駒澤大学は、区間賞獲得者ゼロながら、往路を走った全員が区間4位以内の安定した走りを披露し、底力を見せつけました。苦労しながらも、総合力でもぎ取った往路優勝でした。30秒差はセーフティリードとはいかないものの、復路にもタレントが揃っており、往路・復路・総合の完全優勝に王手がかかりました。

2位の中央大学は、主力を往路に注ぎ込み、往路優勝狙いのオーダーだったので、悔しい結果でしょう。復路は、三年連続6区の若林主将の走りが鍵を握りそうです。

3位の青山学院大学は、随所に見せ場を作りました。2区の近藤選手、4区の太田選手の追い上げは見事でした。最後は力負けした格好ながら、2分3秒差はまだ射程圏内です。復路にも実力者が登場する為、6区の出来がポイントでしょう。

4位以下も実力校が入ったものの、トップとは4分以上の差がつき、上位に余程のアクシデントが起きない限り、逆転優勝は難しそうです。しかしながら、シード権争いを含む順位変動は激しくなりそうです。10位な創価大学と11位の東洋大学との差は1分27秒差ですし、シード圏外にも明治大学、東海大学、帝京大学という常連校がひしめいているので、明日も油断できない闘いになりそうです。

今年も出場校の戦力が拮抗し、一つの区間のミスも許されない群雄割拠駅伝です。

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駅伝観戦歴40年以上の経験を活かし、中長距離、マラソン、駅伝に関する観戦記や備忘録のnoteを書いております。ご興味があれば、私の書いた記事を集めた『Markover 50の中長距離・マラソン・駅伝コラム』というマガジンもご覧下さい。


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