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2022箱根駅伝(往路)観戦記

駅伝観戦三昧の二日目は、第98回東京箱根間往復大学駅伝競走(往路)の観戦記です。

第1区 21.3㎞ 大手町〜鶴見

戦前の下馬評では、駒澤・青学・東京国際・創価の四強を中心に史上最高の戦国駅伝になるという予想でした。近年は各校戦力が、ハイレベルで拮抗しており、1区での出遅れは絶対に許されません。このため、有力校の1区に起用されるスターターには、トラックの10000mで27分台~28分台前半の記録を持つのが当たり前になってきています。

気温こそ低いものの、緩やかな追い風の吹く恵まれたレースコンディションです。スタートしてしばらくは、牽制による超スローペースになるかに思われましたが、昨年3区15位の汚名返上に燃える中央大学の二年生エース、吉居選手が決意を持って先頭に出ると、1㎞2分50秒を切るハイペースで集団を引っ張りはじめます。

5㎞過ぎで後続集団を引き離すと、その後も全く緩めることなく、区間新記録を上回るペースで突き進んでいきます。10㎞通過は27分台。膝下が綺麗に伸びる美しいフォームが国道15号線に躍動します。吉居選手は、疲れの出る後半になってからも集中力を切らさず、15年前に佐藤悠基選手(東海大学)が樹立した区間記録を26秒も更新する区間新記録を樹立しました。

後続集団では、四年連続一区出走の國學院大学・藤木選手、トラック10000mで27分台の記録を持つ早稲田大学・井川選手、1区のスペシャリスト東洋大学・児玉選手らを中心に進みますが、勝負所の六郷橋の上りで集団がばらけ、中継では、駒澤大学・唐沢選手が2位を確保。以下東海大学・市村選手、専修大学・伊藤選手、青山学院大学・志貴選手が秒差で続きました。

区間賞 吉居大和(中央大学2年)1時間0分40秒=区間新

第2区 23.0㎞ 鶴見〜戸塚

外国人留学生が史上最多の5名エントリーされました。各校とっておきのエースが顔を揃えた『花の二区』では、今年も激しい順位変動が繰り広げられました。

39秒差の2位と絶好の位置でタスキを受けた学生長距離界No.1ランナー、駒澤大学の田澤選手は、リラックスした走りで、首位の中央大学・手嶋選手を追い上げていきます。7㎞過ぎでかわすと、その後も2分50秒を切るハイペースを刻んでいきます。ラスト3㎞からの難所、『戸塚の壁』を苦しみながらも乗り切って、見事に区間賞を獲得しました。優勝を争う他チームに対し、圧倒的な存在感を示しました。

一方、爆走が期待されていた区間記録保持者の東京国際大学・ヴィンセント選手は、1分9秒差の7位でスタートしたものの、昨年程の爆発力は見せられませんでした。タイムも1時間7分台の区間4位に終わり、チーム順位を4位まで上げるのが精一杯でした。後方から来た国士舘大学・ヴィンセント選手(区間2位)に追い付かれてからは並走となり、最後は先着を許しました。

青山学院大学の新エース、近藤選手が区間7位にまとめて1分2秒差の2位へと上がり、3位に国士舘大学、4位に東京国際大学と続き、5位には中村選手が粘った帝京大学が入りました。1区で16位と出遅れた創価大学は、期待のムルワ選手が区間3位の好走で、6位まで挽回してきました。昨年も好走した東洋大学・松山選手が区間5位で走破し、チームを8位へと押し上げました。

注目のオリンピアン、順天堂大学・三浦選手は、18位でタスキを受けると、6秒遅れの19位でスタートした日本体育大学のエース、藤本選手と並走しながらレースを進めていったものの、見せ場は作れず、区間11位の記録に終わりました。

区間賞 田澤廉(駒澤大学3年)1時間6分13秒

第3区 21.4㎞ 戸塚〜平塚

エースの快走でトップに立った駒澤大学は、安原選手が落ち着いたペースで進めます。この区間では格上と見られた東京国際大学・丹所選手が、1分19秒差の4位から激しく追い上げてきます。17秒前に出た青山学院大学のルーキー、太田選手を引き連れ、浜須賀の交差点を右折して湘南海岸沿いの国道134号線に出ると、12.9㎞地点で安原選手に追い付き、三人でのトップ争いとなります。

追いつかれた安原選手はまもなく二人から引き離されてしまいました。さらに中継点までに帝京大学・遠藤選手、國學院大学・山本選手にもかわされ、5位まで転落するブレーキ(区間16位)となってしまいました。連覇を狙う駒澤大学としては想定外の誤算でしょう。

首位争いは、18.3㎞ではじめて前に出た太田選手が、実力者の丹所選手を引き離し、青山学院大学が首位で四区に中継しました。丹所選手も12秒差にとどめ、出雲、全日本に続く三連続区間賞の快挙を達成しました。この区間に四年連続出走の遠藤選手は、ラストランでも三人を抜く区間4位の活躍を見せ、帝京大学は3位に進出してきました。

一区、二区と振るわず、17位に低迷していた順天堂大学は、力のある伊豫田選手が七人抜き、区間3位の力走を見せ、10位まで挽回してきました。

区間賞 丹所健(東京国際大学3年)1時間0分55秒

第4区 20.9㎞ 平塚〜小田原

四区は、細かなアップダウンが続き、相模湾からの海風と箱根からの山風の両方の影響を受ける難コースです。

ルーキーの好走で首位に出た青山学院大学は、主将の飯田選手がその勢いを引き継ぎます。悲願の区間賞こそ逃したものの(区間3位)、五区中継では2位を守った東京国際大学・堀畑選手に1分37秒差をつける殊勲の走りでした。3位には、エース格の中西選手が好走した國學院大学が、帝京大学をかわして上がってきました。

後方では、創価大学の日本人エース、嶋津選手が軽快なピッチでぐんぐんと追い上げていきます。11位から先行するチームを次々と抜き去り、区間賞の走りでチーム順位を5位まで挽回してきました。

この区間で追撃したかった駒澤大学は、当日変更で主力の花尾選手を起用したものの、今一つ波に乗り切れないまま区間9位の走りに終わり、創価大学にもかわされて、6位に転落してしまいました。先頭の青山学院大学の差は更に拡がり、2分55秒になりました。

順天堂大学が、石井選手の区間2位の好走で、10位から7位へと浮上してきました。前評判の高かった早稲田大学(10位)、予選トップで実力者揃いの明治大学(15位)、上位常連の東海大学(18位)は、ここまでなかなか見せ場を作れないまま下位に低迷しています。

区間賞 嶋津雄大(創価大学4年)1時間1分10秒

第5区 20.8㎞ 小田原〜芦ノ湖

ここまで理想的な展開で首位に立った青山学院大学は、ルーキーの若林選手を抜擢。山上りの適性ありと原監督が太鼓判を押す逸材は、速そうに見えないフォームながら、帝京大学・細谷選手、國學院大學・殿地選手、創価大学・三上選手、東洋大学・宮下選手ら、実績ある選手達の追随を許しません。区間3位の走りで、往路優勝のテープを切りました。

2位には、細谷選手の二年連続区間賞の頑張りで、帝京大学が過去最高順位で入ったものの、首位との差は2分37秒差となりました。金子選手が踏ん張って、3位まで挽回した駒澤大学も首位とは3分28秒差となり、復路の逆転優勝が厳しくなりました。以下、4位國學院大學、5位順天堂大学、6位中央大学、7位東京国際大学、8位創価大学、9位東洋大学、10位東海大学とここまでがシード権圏内ですが、11位早稲田大学も1秒差で続いています。

ここまで苦しいレースで下位に低迷していた東海大学は、1年生の吉田選手が区間2位の快走、7人抜きでシード権の10位まで盛り返してきました。初出場の駿河台大学は、最下位ながらタスキを芦ノ湖まで繋ぎ切りました。

区間賞 細谷翔馬(帝京大学4年)1時間10分38秒

往路成績

① 青山学院大学 5時間22分06秒
② 帝京大学 5時間24分43秒(+2分37秒)
③ 駒澤大学 5時間25分34秒(+3分28秒)
④ 國學院大学 5時間25分49秒(+3分43秒)
⑤ 順天堂大学 5時間26分10秒(+4分04秒)

勝手に寸評

青山学院大学としては、狙い通りだったでしょう。鮮やかなレース運びで快心の往路優勝となりました。

一区は5位と好位置で滑り出し、二区ではエースが期待通りに順位を上げ、三区は秘密兵器のルーキーが巧みなレース運びでトップに立ち、四区の主将が安定した走りで差を広げ、五区のルーキーが終始落ち着いた走りで差を広げました。区間賞こそゼロながら、全員が区間上位(5位-7位-2位-3位-3位)でまとめるミスのない駅伝で、名将・原監督の采配が冴え渡りました。

青山学院大学の強みは、選手層の厚さと区間配置の妙です。各学年にトラックの10000mで28分台、5000mで13分台のランナーが複数揃い、他校ならばエース格でもおかしくない選手が、16名の登録メンバーにすら入れません。そんな『史上最強軍団』が揃う厳しい環境の中で、選手同士の切磋琢磨が行われています。今回は、チーム内の厳しい選抜を経て3区・5区の主要区間に起用されたルーキーが、他校の名のあるエースランナーたちを圧倒する活躍を見せました。

エース級の選手をまだ残している復路は、余程のアクシデントがない限り、圧倒的有利が予想されており、往路・復路・総合の完全優勝の公算が俄然高くなってきました。往路のレースを終えたライバル校の指揮官からは、既に諦めムードのコメントもみられます。

出場校の戦力が拮抗し、一つの区間のミスも許されない群雄割拠駅伝になってきています。優勝を狙うチームは、一区間でも区間二桁順位のブレーキがあると挽回は至難の業となります。

今年の往路では、各区間で前評判の高かった選手が額面通りに快走し、区間賞を獲得しました。1区で独走し、区間記録を更新した吉居選手、2区で1時間6分台で走破した田澤選手、3区区間賞の丹所選手、4区区間賞の嶋津選手は、将来を嘱望される注目のランナーです。一方、不発に終わったものの、ヴィンセント選手、三浦選手は、大学駅伝の範疇にとどまらず、世界レベルでの活躍を見据えるランナーです。箱根駅伝には、こうした飛び抜けた能力を持つ選手の圧倒的な走りを見る楽しみがあります。

その一方では、学生チームスポーツとしての強化と成長の軌跡、四年間での成長物語を追う楽しみもあります。大砲ではないものの、着実に繋ぎ区間での役目を果たしてチーム目標に貢献する選手、チームを縁の下で支える補欠選手、チームをまとめる主将や監督の人間性やエピソードも見逃せません。

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私(Markover 50)は、駅伝観戦歴40年以上の経験を活かし、中長距離、マラソン、駅伝に関する観戦記や備忘録のnoteを書いております。

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