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『少しだけ無理をして生きる』を読む

本日の読書感想文は、城山三郎『少しだけ無理をして生きる』です。

作家、城山三郎

城山三郎氏(1927/8/18-2007/3/22)は、1927年名古屋市の生まれ。元々は愛国少年で、17歳だった1945年4月に海軍の少年兵に志願入隊しますが、広島県にある呉海兵団で終戦を迎えます。この時の腐敗した軍隊での内部体験が、氏が好意を寄せて取り上げた人物や作風にも影響していると言われています。 

戦後日本を代表する大御所作家の一人であり、「経済小説」という新しいジャンルの小説を切り拓いた功労者でもあります。多くの印象深い作品を残しており、「城山三郎賞」という文学賞まであります。

氏のファンは政界・官界・財界にも多く、2007年のお別れの会には、多くの著名人や各界の大物が参列したと言われます。

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城山作品の思い出

城山作品は、大学時代のクラブの尊敬する先輩から薦められて知りました。私がまだ読書家修行を開始したばかりの頃から、その作品に親しんできた付き合いの長い作家です。

多くの好きな著作がありますが、先輩に薦められた『男子の本懐』は感動的な一冊です。ライオン宰相と呼ばれた浜口雄幸と浜口内閣の蔵相として支えた井上準之助の物語は、じんわり感動しながら読んだように思います。

その熱量を受けて、続けざまに読んだ『落日燃ゆ』にも心を揺さ振られました。太平洋戦争を巡る東京裁判でA級戦犯として処刑された7名の内、唯一の民間人であった広田弘毅の高潔な生き方にも心が動かされました。

20代で出会ったこの2冊の主人公達の生き様は、「人はどう生きるべきか」を学ぶモデルとして、私の価値観形成に大きな影響がありました。

城山氏は自身の小説は「組織と個人」という視点が重要なテーマになっていると言っています。取り上げる人物は様々ですが、家柄や出自に恵まれないものの刻苦勉励で頭角を現し、国の行く末を心から憂慮して、私心なく行動できる国士的な人物に、氏の思い入れは強いように思います。

本書の魅力

本書は、はじめにと10の随筆から構成されています。

『1.初心が魅力をつくる』はなかなかはっとさせられる内容です。その人の魅力を作っているのは「初心」ではないか、という内容で、

初心を持ち続ける=自分に安住せず、自分というものを無にして、人から受信し、吸収しようとする生き方(P17)

自分の意見を主張する発信機能ばかりが肥大して、人の意見を聞かない受信機能が故障してしまっている人に否定的です。

『2. 人はその性格に合った事件にしか出会わない』では、自身の小説『雄気堂々』で取り上げた渋沢栄一を、受信機能・発信機能が驚異的なレベルで優れていた偉人の代表として紹介しています。渋沢栄一を「吸収魔」「建白魔」「結合魔」と評しています。

タイトルの『少しだけ、無理をして生きる』は5番目に収められています。前半は氏自身の生涯の回想で、後半は広田弘毅に関する記述です。広田弘毅のことはお気に入りのようで、続く『6. 自ら計らわず』でも取り上げて、清廉さを讃えています。「自ら計らわず」(=自分の利益になるようなことは求めない)を生涯貫いた理想の人だったようです。徹底的に自分に利することをしない態度は感動的ですらあります。

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