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「脳内お花畑経営」を戦略的に分析してみる

以前私自身の経営スタイルについて「お花畑経営」として記事にしたことがあります。

脳内お花畑経営で利益は上がるのか?|意識低い系経営者 坂田純|note

この記事とは異なる観点で今一度「お花畑経営」について考えてみたいと思います。
改めて考えてみたいと思った理由。それは今、日本の多くの企業は苦しんでいて、給料が上がらない社員の人たちは勿論、給料を上げられない社長さんもまた苦しんでいる現実があると思うからです。
そんな現実の中、みんながラクできて儲けられる「お花畑経営」がどうして実現できたのか、それを自分なりにもう一度振り返ってみようと思ったわけです。
一般化できる考え方とは思っていないですし、数々の幸運と偶然の結果であったと思いますが、それでも一定の成果を上げることができた理由はなんだったのか?を自分なりに振り返ってみたいと思います。

業界特性に恵まれた?

まず初めに。私は通信販売会社を経営していたわけですが、この通販業界ということが大きな要因のひとつだったと思っています。通販業界でよかった理由を2点取り上げてみたいと思います。

1 ビジネスモデル

通販会社といっても様々なビジネスモデルがあります。
仕入商品を数多く取り揃えたロングテール型もあれば、品種を絞った専門店型もあります。
私のところは自称ですが、SPA型通販と言っていました。
自社オリジナル商品を自社主導で開発し、OEMメーカーに全数買取条件で製造を委託。広告会社との取引はありますが、できるだけ自社主導で広告企画を行い自社でお客様に販売をするというモデルです。受注のコールセンターや倉庫出荷業務は外注先様に業務委託していましたが、一部は自社でも行っていました。

このモデルの一番の利点は自社で値付けをできることにあります。安売りやバーゲンをすることなく、原則定価のみの販売手法です。値引きをする場合はまとめ売りや定期購入などに限定し、その値引額も自社で主体的に決定します。

デメリットは値付けに失敗すると商品は売れずに在庫が積み上がるリスク。そのリスクを受け入れることで成し得たモデルではありますが、自社のデータ分析やマーケティングスキルを高められたことで、深刻な経営危機に直面することなく持続することができました。

通販は一般消費者をターゲットとしたB to Cの業態なので、いわゆる下請け的な収益構造ではなく、またしがらみも少なかったのがよかったとみています。

同業他社や競合商品に対して価格訴求ではなく商品価値による販売力を維持できたことが大きかったと思います。

2 顧客とリスト

販売する商品価値も専門化させたことで、顧客リストの同一性も非常に高くしました。
扱っていたのは健康雑貨分野ですが、健康と括っても実に幅は広い。むしろ健康に興味のない人は世の中ではごく少数でしかありません。健康上の特にどんな悩みを解決するか、という観点を絞り込むことで、商品開発の成功率を高めることができます。さらに顧客リストの存在は在庫リスクを減らすことにも繋がりました。

顧客リストの数は重要です。特に購入実績のあるお客様を増やしていくことで、テストマーケティングの結果の信頼度が高まりますので、データ分析の精度を上げることで利益も上げながら売上を増やしていくことを可能にします。

このグッドサイクルをPDCAを繰り返しながら愚直に続けていくことで、会社の収益構造を安定化させることができました。

「お花畑経営」の条件は収益構造が安定化していることで成り立ちますので、まずはここをクリアし持続できたことが大きかったと感じています。

情報を公開する

社内において売上や利益の情報を出来る限りオープンに公開したことも大きかったと感じています。
こちらも以前記事に書いたことがありますが、「企画利益」という指標を作りました。
粗利とも言えますし限界利益の考え方に近いかもしれません。

企画利益=売上ー商品原価ー広告費ー受注経費ー発送経費

人件費や光熱費といった固定費を除いた、その販売に要する変動経費を売上からすべて差し引いたものとしています。
商品原価は在庫とも関わるので厳密には経費と言えないところもありますが、自社の財務をみるための自社向けの簡易な管理会計です。細かいことは気にしませんw

・全体の売上と企画利益
・商品別の売上と企画利益
・企画別の売上と企画利益
これらの営業指標を全社員がみられるようにしました。

一方で原価や広告費などの変動経費もその明細をすべてデータ化して全社員が閲覧できる状態にしています。それぞれの経費にはそれぞれ管轄する部署があり、その責任範囲も共有しています。

何が利益を上げているか、何が利益を削っているか。
誰が利益を増やしていくか、誰が利益を削っているか。
それは自社内部や取引先との交渉で解決できる内部要因か、社会環境による外部要因かといった判断も可能になっています。
この辺の判断は当然議論の余地があり見解も分かれます。
経営者も新入社員も同じデータを基に議論するので、理解に差があったとしても少なくとも空虚で無意味な議論にはなりにくいのです。

社内の情報不均衡は仕事の質を下げるだけでなく、責任の所在を曖昧にしますので社内の関係性の質にも大きな影響を与えます。

情報、特に収益構造に関する情報のオープンさというのは成功循環モデルにも大きく関与すると思っていますので、「お花畑経営」の実現には実に大きな影響を及ぼすのです。

固定費については、役員報酬を含む人件費や水道光熱費、オフィスの管理費、事務用品費、研修教育費に加えて、一定のテストマーケティングや商品開発費用も含めた総額を指標として出していました。ここは総額として細かな配分は明示はしていません。
経営を信頼して欲しいという思いでしたが、企画利益が安定し、そこから昇給や賞与で分配を行い、その根拠を等しく公開し、きちんと説明がしたので大丈夫だったかなと思っています。

賃金基準の考え方

今、日本の賃金水準がやばい!という記事が多く見られます。二極化による格差も問題になっています。経営者として社員の給与水準をどのようにするかというのは非常に重要な判断です。

私が経営していた会社は、いわゆる「普通」を基準にしていました。「普通」というのはずるい書き方かもしれませんが、簡単に言えば所在地の平均年収です。
県別平均年収、県別年代別平均年収、県別規模別平均年収、県別男女別平均年収といったデータを検索で見つけることは簡単です。調査は様々なのでデータには多少のばらつきはありますが、概ね一定の水準は示しているものと思われます。

社員が自分で調べて、自分の県の自分の年代と業種や性別と比較してみたときに、概ね「普通」だなと感じてもらえるラインが目安でした。
データによっては「まんざらでもないかも」と感じてもらえるあたりです。

給料面での男女差は全くないので、女性社員の方が満足度は高かったかもしれません。平均データでみると男女の賃金格差はやはりあります。男性のデータで「普通」である場合、女性が女性のデータで比較すると高く出ることが多いのです。意図したわけではないですが、女性社員が多かったこともあったので、その点は恵まれていたかもしれません。

昇給は利益が可能にする

会社にとって利益が大事ということは、社員も理解していると思います。しかし自分の仕事が会社の利益にどのように結びついているのかが分からないと、モチベーションや自分の仕事に対する責任感が生じなくなってしまうと思います。

会社が利益を出しなさいと言っても、自分の仕事は利益に結びつかない、その繋がりが見えてこなければ社員には伝わりません。なぜなら自分事にならないからです。仕事の価値という意味でも、昇給するという意味でもです。
企画利益の算出方法を明示してオープンにしたのは、そうした理由があったからですが、もうひとつ仕掛けたことがあります。
それはバランススコアカード(BSC)の作成と公開です。

バランススコアカードについては様々な記事がありますので、興味のある方は読んでみてください。

私はHRの専門家の協力を得て、自社の全社と部門別のBSCを作成しました。
共通するのは最上位の「財務」を利益に据えたことで、その下の「顧客」「業務プロセス」「学習・成長」を部門別に作り分けたのです。

部門別の顧客には、実際の顧客もいれば社内の部署が入ることもあります。業務プロセスは各担当者が実際に行っている業務が入るようにし、学習・成長は人事評価におけるコンピテンシーに繋がる用語を用いるなどの工夫をしました。

これによって人事評価のコンピテンシーや各人の実業務が社内のどの部署に引き継がれていくか、管理部門の事務作業がどのような効果を生み出すか、そしてそれらがどのように最終的な利益にどう結びつくかを一目瞭然となるように試みたのです。

完成したシートを全社員が100%理解したかと言われればそこまでではなかったと思いますが、少なくとも私や幹部社員が部下や他部署に説明するツールや根拠にはなり得たと思います。
自分のこの仕事がどう巡って利益に繋がっているのか、自分が受けている研修や評価がどのように利益に結びつくのか。それが示せる材料があるということは、私は非常に大きかったと思っています。

自分の学びや仕事が利益に繋がり、その利益が自分の給料や賞与の原資となるということが可視化される。それによって仕事と利益が自分事になる。結果として昇給した、賞与が増えたとなれば成功体験となります。もし利益が減ったとなれば、BSC上で何が悪かったか、どこで間違ったのかを振り返り修正する材料にもなります。

そうした可視化された仕組を基に戦略の変更をするのであれば、その変更の理由と新しい変化に対する納得感も得られやすいという見立てです。

まとめ

こんな取組みを続けたことで、在任中は昇給を継続し賞与も支給することができました。業績の波や外的要因による苦難もありましたので、高水準で右肩上がりとまでは言えませんが、私が考えるところでの「お花畑経営」は実践できたと感じています。

「お花畑経営」に興味があるという方が果たして存在するのかは分かりませんが、もしひとりでも興味を持った方がいらっしゃったらご参考にしていただければと思います。
もっと詳しく話を聞きたいという方がもしいらっしゃるようでしたら、ご連絡をお待ちしております!


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