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センスがある、ない!社員のセンスに社長はどう向き合ってきたか?

センスがある、センスがない。
ビジネスにおいても日常においてもよく使われる言葉です。
社長自身が自分のセンスの有無について考えることは大事なのですが、
それ以上に向き合わざるを得ないことは社員のセンスについてです。
「あいつはセンスがある」「あいつにはセンスがない」
つい安易に発しがちですが、迂闊に使うと結構面倒なことになるよね、という話です。

センスとは?

まず広辞苑で調べてみました。


「物事の微妙な感じをさとる働き、能力」

広辞苑

とあります。

辞書にしては結構曖昧というか抽象的な説明のように感じます。

日常で使う場合だと、
ファッションセンスがあるとか、ないとか、
野球とかサッカーとか、スポーツのセンスがあるとか、ないとか、
デザインとかライティングとか、クリエイティブのセンスがあるとか、ないとか、
交渉とか駆け引きといったビジネスのセンスがあるとか、ないとか…

誤解を恐れずに言えば先天的というか、努力や訓練を要さずとも一定レベル以上の才能を有しているということになりそうです。

逆にセンスがない、といった場合は
先天的に得意でない、向いていないという使われ方だと思います。

また何かについてセンスがないとされる人がセンスがあるとされる人に、
「どうしたら上手になれるのか?」を尋ねたとして、
その返答は往々にして不明瞭だったりします。
一般的なレベルの話として、絵の上手な人はただ描けば上手な絵が描けますし、
足の速い人は走ったら自然と速く走れるという感じ。
どうしたら上手になれるか、速く走れるかについては技術的に分析しているわけではない。
(もちろん専攻レベルとか競技レベルとかになると話は異なりますよ)

先天的とか持って生まれたという話にしてしまうと実に身も蓋もない話です。
そう、センスという言葉は実に身も蓋もない言葉です。
特に「センスがない」という言葉は強烈に身も蓋もない!
厳しい一言を使うと、
努力してもムダだよと言われている気すらしてしまいそうです。

それを目上が目下に対して使ってしまうと、まるでポンコツ扱いと同じです。
ましてや社長が社員に使ってしまったら…

センスを理由にしていいのか?

例えば、カラオケでハモるのが上手な人がいます。
聞いてみると別に勉強したわけでもなく、実は楽譜すら読めないなんて人がいます。
なのに上手にハモる。
なんで出来るのですか?と聞いても、
なんとなく分かるんですよ、なんて答えが返ってくる。
ただ歌が上手と言えば、それまでですが、
実に不思議です。

私は学生時代に楽器をかじったので一応楽譜は読めますし、
和音のことも知識では理解しています。
しかし、いざ歌を歌うとハモれない。
音痴なんですね、と言われたらその通りですが、
知識や理論は分かっていても実践できないのですから、まさに身も蓋もない話です。

しかるべき先生について、トレーニングを積めば出来る可能性はもちろんあります。
私も繰り返し練習したことでハモりを人前で披露したことがあります。
他の分野でも同様で、一定のトレーニングや手順を踏めば、
意外と出来るようになることは多いです。

しかし会社ではどうでしょう?

技術系やシステム系の業種だと体系だったスキル獲得の手法が確率している分野もあるようですが、
一般業務や企画系業務だと結構バラバラではないですか?

もしかしたら大手で研修制度が充実している会社であれば
しっかりとしたプログラムが組まれているかもしれませんが、
中小企業だとなかなかそこまでは…という会社も多いと思います。

さて、
センスがないんだよ、という言葉を目上や上司が発したとして
そのあとにトレーニングというか手順を示して上達する道筋を教えてあげられるのなら、
それはちゃんとした人材育成になるかと思います。

しかし先に示したように、センスという言葉が使われる領域はどうも先天的なものが多い。
元々ある人は、特に何もしなくてもそこそこ出来ているので、
トレーニングやら手順を知らないので教え方が分からない。
そんな人が自分の仕事で忙しかったりすると、
いちいちそんな面倒見てられないと放置することもままあります。
自分が出来て当たり前のことであれば、尚のことなんでこんな簡単なことが出来ないのか、とイラつく気持ちもよく分かります。

そんなこんな積み重なって出てきてしまう言葉。
それが
「お前にはセンスがないんだよ!やってもムダ!諦めろ!」
です。

正直言いたくなる気持ちもよくわかるのです。
というか、私もよく言ってましたから。

でも、
言われた方はたまったものではない。
使う技術も分からず、下手したら使う道具、機能、知識も分からない。
もちろん実践の経験すらない。
そんな仕事に大した説明もなく指導もなければ出来るわけがない。
本当に泣きたくなります。

実は、このセンスがないんだよ!というセリフ、
私は言われた経験も持っています。

だから両方の気持ちが分かるのです。
というか、実は皆、誰だってそうではないですか?

強みと弱み

誰にだって強みがあれば弱みもあるし、長所もあれば短所もある。
私は歌は上手ではないが、楽器はそこそこ弾ける。
計算は苦手だけど、数字を使って分析することは得意だったりします。
またスピーチは苦手だけど、思いを文章化するのは好きです。

それを社内でお互いに共有して尊重できれていれば、
「センスないね~(笑)」
「いや全くもって(苦笑)」
「でもこれやったらすごいんだよね!」
「それなら任せてください!」
となりそうです。
言う側としてイライラすることもなくなるし、
言われて泣きたくなることもない。

「バカ社長!」と陰口叩かれて恨まれることもないし、
「バカ社員が」と罵ることもなくなり
皆が穏やかな気持ちで仕事に向き合える。

もちろんトレーニングの方法があって、その成果が出ているのであれば
それを研修で実施してしっかりと身に付けて成長してもらえばいいのです。

教えるにもやはり「センス」があって、
教えるセンスがない人に講師を務めさせるのは正直止めた方がいい。
教える側も教わる側もどっちにとっても苦痛です。
教える人は教えるセンスがある人か、
教え方をきちんと学んだ人に担ってもらう方がよいと思います。

教えるのも勉強のうち、といって教え下手の人に無理やり教えさせるというシーンは結構ありますが、教わる方は何も学べず、教えた方は失敗体験を積むだけなので、
誰も得しない結果になってしまうことがあるのです。

さて、話を戻します。
センスの有無を強みと弱みと捉えて、補完し合うマネジメントが大事だと思うのです。
それを考えずむやみに
「センスがねーんだよっ!」という言葉を乱発して罵倒してしまうと
社員のモチベーションも下がりますし、
組織も乱れます。
気を利かした他の誰かが教えてたとしても、
上の狙いと内容が違ってしまい、後で巻き添えになると思ったら、
余計なことはしないでおこうという気持ちが勝ってしまいそうです。
これでは社員同士でセンスの有無、強み弱みを補完し合うという風土も出来ません。

そして何が一番嫌かというと、
社員同士が集まって
「あのバカ社長がっ!」と陰口を言って盛り上がることです。
そんな社員たちが、その会社でいい仕事をできるとは
私には思えません。

そして社員から「バカ社長」と陰口を言われるのは私は嫌です。
慣れ合うとか迎合するということでないですが、
「いい社長!」と思われたいです。
面と向かって社員から罵倒されたら、もっと嫌です。

そういう状況を作り出してしまわないように、
私は「センス」という言葉をむやみに使わないように、
使う時は慎重に使うようにしました。

センスとはブラックボックスでは?

理由が分からない事を分からないと認めることって結構勇気がいることだと思います。
ましてや社長という立場にいると、なおさらかもしれません。
「あなた社長なのにそんなことも知らないんですか?」なんて冷ややか目で見られるのは
やっぱり恥ずかしい。
「社長さんだったらご存じですよね」なんて言わると大して知らないことでもつい、
「ええ、もちろんです」
なんてうっかり答えてしまったこともあります。

教えても中々できない社員に対して何度も教えるのは確かに大変です。
あまりにも覚えが悪くて、
教える方が先に手詰まりになって心が折れてしまうことだってあるのです。

そうなるとつい出てきてしまうのがこの言葉。
「君にはセンスがねーんだよ」
「(センスがないから)この仕事向いてねーんだよ」

しかしこれは言われる方も言う方も、
教わる方も教える方も、
みんな何も答えを出していない状況だと思いませんか?
にも関わらずセンスという言葉を使って片づけてしまうと、
これで結論が出ました、という空気に覆われてしまう怖さを感じるのです。

センスという言葉は分からいことをブラックボックス化させて
なんとなくみんなを納得させてしまう魔法の言葉のような気さえ私はしてしまいます。
実に便利な言葉です。

「あいつはセンスがないんだよね」
「センスないからうちの仕事向いてないんじゃない」
という片づけ方を社長が続けていたら、
社員たちもこの魔法の言葉を使いだしてしまうかもしれません。

人のセンスの有る無しというブラックボックスで評価されたり重用される組織では
人が育つ、人が成長するということが起きなくなってしまいそう。
そんなバッドシナリオが浮かんできます。

私の考えすぎなのかもしれませんが、
実際に社員から「センスってなんですか?」と問われたことがあり、
それ以来この言葉を使うことに非常に慎重になった経緯があります。
社長であればなおのこと、
センスという言葉に逃げないよう心掛けてきました、という話でした。

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