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【ウエビナー振返り】SmartHRが語る、未上場企業のIRの最前線!

 7月16日(木)に実施したZUU ONLINEウエビナーの振返りです。上場前のスタートアップの経営者に是非読んでもらいたい/見てもらいたい内容です。IR(インベスター・リレーションズ)の真髄を森さんが捉えてくれました。以下のアーカイブもありますが、今回もテキストで振返ります!

昨年61.5億円を調達したSmartHRのIR

 人事労務管理のSaaS型サービスを展開するSmartHRは昨年7月にシリーズCとして61.5億円を調達しました。この件、何人かnoteで取り上げられていましたね。

  これらの調達によって、既存株主(VC等)が10社以上います。既存株主向けの情報共有は、取締役会などでほぼ足りていて、特にIRを行っているわけではありません。今年の3月に楽天からSmartHRに転職した森さんは、主に、次のファイナンスに備えて新規(未保有)の投資家向けのコミュニケーションや、財務戦略などを担っているのだそうです。SmartHRは、だいたい月に5~6件(注)の投資家面談を行っており、加えて証券会社等主催のカンファレンスでは集中的に投資家に会うこともあるので、このペースなら、1年に延べ100 件以上の面談数をこなすことになります。しかも、ほぼ新規投資家(非保有という意味の新規)、ほぼ海外投資家。件数だけなら、中小型の時価総額の上場企業と同じくらいです。スタートアップでそこまでやっているところは少ないのではないでしょうか。
 (注: ウエビナーでは8~10件/月と話していましたが、精査したところ平常時で5~6件/月+メールやり取りとのこと。それでも中小型株と同レベル。)

IRの本質は未上場も上場もそれほど変わらない

 森さんは私と同様、楽天のIRも経験していた(若手のホープでした)ので、上場企業との違いを質問しました。彼の答えは、「上場企業も未上場企業も、IRの本質は意外と変わらない」「結局は、次のエクイティ・ファイナンスに備えること」なんだと。ですので、KPIは、いつでも出資の話ができるような関係の投資家の数、なんだそうです。
 例として、Airbnbのケースを話してくれました。コロナの影響が甚大だった同社は、この春に資金調達をする必要がありました。その際に35社程のVCと会話し、迅速に追加の資本を得ることができたそうです。つまりスタートアップでも(スタートアップだからこそ)、いつでも資金調達の話ができるような深い関係の投資家を数十社作っておくことが肝要とのことです。

 確かに上場企業のエクイティ・ファイナンス(公募増資等)でも、過去面談した機関投資家を中心に、数十~数百社にアタックし、その中の何割かがブックビルディングに応じてくれます。そのために幅広い投資家に日頃からIR活動をするのだ、と私は理解しています。森さんは、上場か未上場かよりも、外から資本を入れているか否かの方が重要、と言っていました。その通りですね。

未上場だからこそ注意する点

 もちろん、未上場ならではの特徴もあります。上場企業は、四半期決算制度等に従い、決まったフォーマットで決まった時期に、監査法人のレビューなどを経て情報発信しなければなりません。つまり何も考えなくても一定の情報がマーケットに出ていきます。他方、未上場企業は、何もしなければ何も投資家に伝わりません。意識してこちらから投資家にアクセスする必要があることが大きな違いだと語ってくれました。
 また、広く公平に投資家とコミュニケーションする上場企業に対し、未上場企業は、1対1のコミュケーションとなり、また求められる情報も投資家により千差万別で、関係構築に時間が掛かるそうです。

海外投資家とのコミュニケーション

 昨年のSmartHRのシリーズCの特徴は、調達金額の大きさに加えて、海外の機関投資家が出資者に加わっていることです。特に米国ではSaaS企業の価値評価の方法(メトリックス)が日本より非常に進んでいて、SaaSでもそれらのメトリックス評価に基づき、High-growth, Mid-growth, Low-growthと分類されているそうです。したがって、日本国内で営業上直接競合しなくても、それらの米国SaaSと比べてどう成長しているのか、示す必要があるとのこと。「僕たちSaaSです」というだけではダメなんですね。

 また、海外投資家には、SmartHRの主要なサービスである年末調整や、国民皆保険制度など、日本特有の事情を理解してもらう必要があります。また米国に比べデジタル化が遅れている日本の事情(=潜在市場が大きいともいえる)も知ってもらわなければいけません。資金調達が必要になってから、これらマクロ環境と会社の強みを説明していては、非常に時間が掛かってしまいます。いざ資金が必要とという時に備え、日頃から事業環境と事業の強みを、投資家の求めるメトリックスに置き換えて話ができるように準備することがIRの役割だと話してくれました。またそれらの進んだメトリックスを含め、投資家の意見を社内にフィードバックすることも彼自身の役割になっているそうです。

今後のエクイティ・ストーリー/資本政策

 With コロナ、After コロナを踏まえ、SmartHRでも事業がさらに発展し、それに応じて資本政策も変更の可能性がありそうです。森さんとしてはIRだけでなく、事業環境・競争環境の変化を踏まえた経営・財務戦略の策定に関わり、エクイティ・ストーリーのブラッシュアップに取り組んでいるそう。もちろん将来の選択肢のひとつにはIPOもあるので、上場を前提としたガバナンス体制の整備なども担当だそうです。
(もはやCFOの役割の一部ですね!)
 ガバナンスだけでなくESG全般も話題になりました。SmartHRは、事業ドメインそのものが社会課題の解決なので、そういう軸で切り出していきたい、とのこと。(この点は別途書きたいと思います!)

おまけ(感想)と次回お知らせ

 このウエビナーは、10問以上の質問をいただく、非常に活発なものとなりました。森さんは私が楽天時代に最後に採用した人で(2016年の新卒採用)、当時から優秀だったのですが、スタートアップに転職して裁量が広がったことでまた数段階レベルアップしたと思いました。転職を推奨しているわけではありませんが、ますます成長したことをうれしく思いました。(母のような気持ちです(笑))

 次回は、マネーフォワードのCFOの金坂さんです!GSから転職し、マネーフォワード上場の立役者となった金坂さんに色々聞いてみたいと思います!以下のURLから事前登録(無料)をお願いします!

ーENDー

IR(インベスター・リレーションズ)の経験などに基づいたテーマで記事を書いています。幅広い層のビジネスパーソンにも読んでもらえたら嬉しく思います!