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紙の本で大事にしたこと:手触り感

紙の質

 本の見本が届きました。自分の本を出版するのが初めての私にとって、「本になった」と感じられた瞬間でした。表紙デザインやタイトルなどはほぼ出版社のお勧めに従いましたが、ひとつだけ、リクエストをしたのが、紙の質。ツルツルしすぎているものは避け、手触り感のある紙にしたほしいというお願いでした。

 手に取ってみると、ランダムな凹凸があり、少し嵩(かさ)があって、とても風合いのある紙でした。写真の本の右端、背表紙へといたるカーブの辺りの細かい光の濃淡がそれです。リクエストどおりの手触りの良さに編集者の方にお礼を伝えました。ジェラードGAプラチナホワイトという紙だそうです。

可士和さんの教え

 参考にしたのは、楽天のクリエイティブディレクターを務める佐藤可士和さんが昔おっしゃっていたことです。可士和さんは楽天の刊行物からオフィスビルの内装までもデザインを監修しています。初めてアニュアルレポートを制作した際、白い背景にロゴと社名とアニュアルレポートであること以外何も書かない、ミニマルなデザインが可士和さんから出てきました。
 可士和さんから追加でひとつ条件がついていて、このようにシンプルなデザインの場合には、紙の質にこだわってほしい、ということでした。オール白の背景は特に難しく、ツルツルだと安っぽくなるとのことでした。
 私の本は、白背景ではありませんでしたが、比較的シンプルなデザインなので、可士和さんのアドバイスを参考にしたのです。

 できあがって感じたのは、本を読んでいる最中、10本ある指のうち8本の指にずっと当たっているのは、表紙です。表紙の手触りが良いと、ずっと読んでいたくなる、そう思いました。レターサイズで厚さ5mmくらいの軽いアニュアルレポートより、厚さ2㎝弱あって少し重さを感じる単行本サイズの書籍ではより紙質の重要性を感じました。

 表紙には、タイトルや著者名などの情報と、内容のイメージと合う視覚的なデザインを読書に提示する、という機能があります。そのほかに、触感というデザインを設計するということもあるのだな、と思いました。英語のデザイン(Design)には、設計という意味が本来あります。可士和さんって本当にすごい「設計者」なんだなー、とあらためて感じたのでした。

電子書籍と紙の本

 私の本は電子書籍化も予定しています。こちらにはまた別の価値があります。日本の本屋にアクセスできない海外在住の人にはとても重宝されるものです。また、文字の拡大が容易なことから、小さい文字が読みづらくなってきた年代の方にも電子書籍はありがたいものだといわれます。紙にはない機能として、わからない単語をクリックして辞書を引いたり、読み上げ機能を使って運転や家事などの最中に「本を聴く」こともできるようになります。旅行や出張時に重さを気にせず何冊も持っていけるのも便利です。

 しかし、電子書籍が普及しても、紙の本と併存していく予感は皆さんもなんとなくしますよね。そのひとつの理由に「触覚」があるのかもしれません。



IR(インベスター・リレーションズ)の経験などに基づいたテーマで記事を書いています。幅広い層のビジネスパーソンにも読んでもらえたら嬉しく思います!