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【実体験小説】 真夏の訃報 その4 「Nの霊見たらえらい大会」

先日アップの「真夏の訃報」の第四話です。

若い頃に体験した彼の事故死とそれに続く、リアルで少し、いや、だいぶおかしい出来事を小説風に綴ります。
前回は、出遅れた私が遺品をなんとか貰おうと必死になるところ。
今日はその続きです。

若く、衝撃的なNの死が広まるのにそれほど時間はかからなかった。
私が知らないだけで、Nというのは関わる人間の多い人だったようだ。
バイク仲間、沖縄音楽仲間、居酒屋の常連から、仕事仲間まで、彼を悼む人が後を絶たなかった。
葬儀が済んで落ち着いた頃からちらほら耳に入るようになったのが、Nの霊目撃談だ。

「通りに面したカフェに居て、ふっとNの事が浮かんで顔をあげたら、
緑のNinja(事故の時乗っていたNのバイク)が通り過ぎていった。」
といったカッコいいものから、
「いつもNが座っていたバーのカウンター席に、泡盛の水割りを置いておいたら、急に減った。」
というNの意地汚さまでも反映した列伝。

「前の仕事場のバイクの修理店で、Nが退職時持ち帰っていたはずの
修理用のキットが見つかった。」
 単なる忘れ物というNのドジなエピソードを彷彿とするものから、

「Nの好きな曲を三線で弾こうとしたら、弦が切れた。」
 遅すぎる虫の知らせ。

「Nの自宅への道を走っていたら、バックミラーに緑のバイクが映って、
もう一度見たら消えていた。」
 生きてる者の安全運転阻害。

そのほか、夢枕系は枚挙にいとまがないほどだ。
彼を偲んで人が集まれば、競うようにN目撃談に花が咲いていた。

くだんの沖縄居酒屋Sでは普通に
「今日 N居るなぁって思う時、けっこうあるよね。感じるっていうかさぁ。」
という会話が繰り広げられているらしい。
そりゃ、Nの居場所を自負するM嬢のおひざ元だから
フランクに現れもするのだろう。

・・現れも、する、のか!!!?!?

覚えておいでだろうか?
沖縄の島で訃報を聞いた夜に、
「さすがに今回は彼の霊が現れるので起きていようと思う」
と真顔で言い放った私の事を。
生まれてこの方霊関係の経験なし、無宗教、無神論者。
それでも、そんな私に見えるケースがあるとするなら、
今回、これを逃したら無い!
これで出ないのであれば霊など存在しない!と言い切っていた私を。

そんな私が、繰り広げられる数々の目撃談に、心穏やかでいられるわけがない。
霊どころか、夢にすら出てこない・・。 どういうこっちゃ!われぇ!

私は立ち上がった。明らかに間違った方向に。
 

<墓に直談判>

火葬も葬儀も納骨も立ち会えなかったが、
ひと月ほど後、彼の故郷出雲に向かった。
せめて墓前に線香でも手向けるためだ。
今回も既に私の保護者っぽくなっている先輩が同行してくれた。

彼の父はNの死を機に、代々の墓を綺麗に建て替えた。

「せめて、いい墓にしてやらないとな」
生前、継母に気を遣わせないためかあまり故郷には帰っていないと聞いていたN。
やはり、父親としては長男は可愛いのだろう。
「石屋を急がせてしまったよ」
そういうと彼の父は小さく笑った。

先輩と二人で墓参りをしたあと、私を一人にしてくれるよう頼んだ。
先輩は訝しながらも、
「少しだけね。先に駅に行ってるから」
と時間をくれた。

ここに書いていることは実話であるが、今現在私と交流のある方は
今は立ち直って、すっかりまともであるということを是非忘れないでいてほしい。
それに自信がないかたは読まない事を薦めたい。

「なんで来ないわけ?」

誰もいなくなった墓の前で、私はつぶやいた。

口に出したのはそこまでだったが、心の中では
「他のとこにはバンバン出ているらしいのに、私のところにはなぜ出てこないのか?」
を問うているわけだ。
まったく横浜の私方面には現れないので、
霊の発生元(?)に直接聞いたほうが早い。
これは非常に賢明な判断だ。(絶対に違う)

アリバイ聞かれたり、グロい写真見る羽目になったり、遺品は貰い辛い立場になっちゃったし、大変な事ばかりなのに、どうして私にひと言ないのか!!

と怒っているわけだ。

先輩を心配させないぎりぎりの時間まで墓前にいたが、ついぞ何か神秘的なことは起こらなかった。
新築の墓で、ご先祖様と団らんしているところに怒鳴り込んだので、
「あんなコワイ女のところには行かないほうがいい」とN家代々の総意で止められてしまったのか、Nの霊は今に至るまで、私のところには一度も現れない。

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私も当時だいぶおかしかったが、Nの心が誰とつながってるだの、誰が遺品貰うだの、霊を見ただのと、誰もがNの突然の死をすぐは受け入れられなくて、まるで生きているように、奪い合ったり、噂しあったりしていたんだと思います。。
私も、「出てこない」と文句を言うことで、死の衝撃を自分で和らげていたんだと思う、いや、思いたい。
それにしても、ただの貧乏三線弾きライダーN。 愛されてたなぁ。
生きていたらどんな風になっていたんだろう、とも思うけど、
悔しいから「あれがアンタの人生のピークや」と毒ついていました。 
次回が最終話「アナタのかけら」

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