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Book Cover Challenge Day 2:中島京子『女中譚』

「たくましくしなやかに生きる女性が登場する物語」をテーマに7冊の本を紹介しています。
中島京子さんの小説には魅力的な女性がたくさん登場する。は、林芙美子の『女中の手紙』、吉屋信子『たまの話』、永井荷風の『女中のはなし』の物語に登場する女中たちの、原作では語られていない側面に光を当てて描かれた短編集で、原作と合わせて読んでも、単独で読んでも一気に物語世界に引き込まれる魅力的な作品である。
私は、女中という、他人の家に平然と住みながらも、いないかのように扱われる存在が気になってしかたがないのだけれど、中島京子さんもそうらしく、代表作の『小さなおうち』では女中が語り手となって、彼女が住み込んでいたある家族の物語を語り起こされる。
その女中の語りの中に立ち現れる女主人のイメージは、本当の女主人とはかけ離れているのかもしれない。では、誰かの視点を抜きに、人物や事物のありようを語ることなどできようか。そんなことを考え始めると、もう一度読み直してみたくなるのが、中島京子さんの作品である。
デビュー作の『FUTON』も素晴らしくて、田山花袋の『布団』の中で端役として現れる主人公の妻が中心となり、現代まで話が展開して、原作では語られることのなかった女たちのたくましさ、しなやかが描かれている。
どの作品にも密やかに、でも胸の熱くなるような女性同士の恋愛が描かれるのも好きだ。
しかし、『小さなおうち』も『FUTON』も『妻が椎茸だったころ』も、『イトウの恋』も『さようなら、コタツ』も、家のどこを探しても見つからないのだ。マスクをして研究室まで出掛けてみたけれど、ない。
本棚をひっくり返していたら、学生さんに薦めて貸した記憶がポツポツと蘇ってきた。
そこで、私の本を持っている学生さんへ、この場を借りて連絡します。ぜひお友達に貸して、中島京子さんの作品の面白さを広めてください。返ってこなくていいのです。

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