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Book Cover Challenge Day3:橋本治『浄瑠璃を読もう』

「たくましくしなやかに生きる女性が登場する物語」をテーマに7冊の本を紹介しています。
今日は、橋本治の『浄瑠璃を読もう』です。昨年亡くなった小説家の橋本治さんが書かれた、人形浄瑠璃の解説書です。これがもう素晴らしく面白くて!
私は大学生の頃にたまたま公演を見たのがきっかけでハマって以来、大阪の文楽劇場に足を運んだり、本公演に飽き足らず、素浄瑠璃を聞きにいくほど、浄瑠璃が好きです。
でも、なぜ好きなのかと言われると、その理由を説明することができなくてもやもやしていたのですが、その問いをすっきり解き明かしてくれたのがこの本です。
橋本さんの文章に共通する、ゆるゆるとうねるような語りにも魅了されますので、浄瑠璃に興味のある方もそうでない方もぜひ読んでいただきたい一冊です。

では、「たくましくしなやかに生きる女性が登場する物語」のテーマになぜこの本を選んだのかというと、浄瑠璃の物語世界に登場する女性たちについての橋本治さんの解説がそれはもう魅力的だからです。とりわけ、若い女性たちを「ちょっとおバカさんで尻軽」(該当の文章を確認し忘れたので、正確ではありませんが、こんな感じ)と形容しているくだりには、はたと膝を打ったものです。
そうなんです。浄瑠璃にはたくさんの女性が登場しますが、中でもお姫様や腰元、町娘などの若い女性は、ちょっとおバカさんで、しかも、好きな人ができるとそのことで頭が一杯になってなりふり構わなくなってしまう、そんな人物が多いのです。
有名な『仮名手本忠臣蔵』にはお軽という女性が登場しますが、彼女は赤穂義士の一人早野勘平と恋仲になります。二人が熱々の逢瀬を楽しんでいる間に、江戸城内で君主が松の廊下事件を起こすという展開はこの浄瑠璃の見どころの一つです。

「あなた、おバカさんで尻軽ね」なんて言われたら、現代の女性なら怒ることでしょう。実際のところ、浄瑠璃の女性描写を女性差別的だと解釈することもできないわけではないかもしれません。
でも、橋本治さんは、浄瑠璃に出てくる女たちを愛しみ、恋愛を謳歌する彼女たちの人生を讃えて、そう形容しているのだと思います。
そう、おバカさんで尻軽で何が悪い!軽薄で恋にうつつを抜かしてはどうしていけないの?
橋本治さんのこの本を読んで、私は自分がある種の観念に呪縛されていたのだなと気づきました。バカにされないように生きねば。女を売りにせず、賢くならなければと。そういう考えにがんじがらめになっていたところから解放されたような清々しい気持ちになったのを今でもよく覚えています。
橋本治さんは、近代以前の物語作品を読み解くことで、当時の人々の価値観をおおらかだとか安易に解釈するわけではありません。むしろ、近代以前の人々を取り巻いていた複雑な環境を丹念に解きほぐすことで、現代の私たちもまたいろいろな価値観に縛られていることを示唆してくれているような気がします。

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