108つの煩悩 覚え書き③「仙薬」


不老不死になるとされる仙薬を
懐中に入れて、小生は灯火の消えようとしている夜道を彷徨った。
 いくばくかの小銭は持っているが、もはや生きる力を与えるエネルギーすら残されていない。
曼荼羅のごとき、不可解な図柄が頭の中を泳ぎ回り、世迷いことがこの上なく世間にはびこる中でもう生きていることが何もかも嫌になった。だから死ぬほどの二元論とはならずに不老不死の仙薬を飲みしだくことで生きることから離脱して死ねない不幸を味わいたいと思ったからだ。
 夜明け遊びは、夜の停車場に限る。小生は常夜燈の秘めた魅力にらほだされて、明かりに集まってくる羽虫のように群がる。ただし群がるのは全て他人同士だ。
 会話をするわけでもなく、他の輩の顔を覗き込むでもなく、ただただ孤独に飢えた獣の群れが暖を取るかのように固まった手を擦り合わせて灯りの中心に群がっていく。
 俯瞰すれば小生は小さな灯りに群がる虫けらに過ぎないのだが、
ただ一つだけ違うことといえば不老不死の仙薬を持っているということだけだった。
 生きながらえるということに少しだけ虫唾が走ることもあったが、人生の落伍者としては不老不死になることで人生を見返してやろうという反骨心が芽生えていたという事実だけが虚空を彷徨っていた。
 ありとあらゆる事象から解き放たれて自由になるという不自由を味わい尽くすために…
 小生は小便のような入れ物のコップに仙薬を煎じて、死ねとばかりに飲み干した。
 曼荼羅の図のどこかに答えが見つかりますように。
@marky

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