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バリアバリュー思考から社会に価値を増やす未来へ 株式会社「ミライロ」社長 垣内俊哉さんの紹介

聖教新聞3月26日付記事。
皆さんは自分の価値はなんであるかとか考えたことはあるだろうか?
自分自身の価値を見いだせることは「自己肯定感」につながると同時に他者への価値も見いだし、相互理解への道へとなるのではないかと思う。
垣内俊哉さんは先天性の「骨形成不全症」のため幼少期から車椅子で過ごしている。だからこそ生み出された価値を今は株式会社「ミライロ」で教育機関、企業、公共施設のバリアフリー設計·コンサルティング事業を手掛けていることにつながっている。
自身の体験が、今の社会に足りていない「意識のバリアフリー」へと働きかけてくれている。
障害者を最近は障がい者と書くが、コンピューター画面読み上げソフトを使う視覚障害者にとってはそれは障害になる。なぜならそれは「さわりがいしゃ」と読み上げられてしまう場合があるから。今回は垣内さんの意向を踏まえ、「障害」と表記している。この件をひとつとっても価値は多様だなと感じた。
そんな多様な価値を感じながら是非記事を読んでもらいたい。

Switch――共育のまなざし〉 バリア(障害)をバリュー(価値)に。株式会社「ミライロ」社長 垣内俊哉さんに聞く2022年3月26日

 障害者(※)や高齢者へのバリアフリー(障害を取り除く)の設計・コンサルティング事業を手掛ける垣内俊哉さん。病のため、車いすでの生活を送る垣内さんは、「だからこそ、気付けたことや、生み出せた価値がある」と言います。垣内さんが提唱する「バリアバリュー思考」が開く社会の未来像とは。(聞き手=橋本良太)

 (※)今回の記事では、「障がい者」と表記すると、視覚障害者が利用するスクリーンリーダー(コンピューターの画面読み上げソフトウエア)で「さわりがいしゃ」と読み上げられる場合があることを念頭に、垣内さんの意向を踏まえ、「障害」の漢字表記を用いています。

多様な分だけ「豊かさ」が増す社会を
“弱点”は“強み”

 〈バリアバリュー思考とは、どのような考え方でしょうか〉
   
 「障害」を「価値」へと変えることです。私は身体障害者ですが、それに限らず、人種、国籍、性の在り方、性格や感性……その人が、他者との違いや環境において「バリア(障害)」と感じるもの全てに、「バリュー(価値)」を見いだしていく考え方だと定義しています。
 私は生後1カ月の頃、遺伝性の「骨形成不全症」との診断を受けました。骨がもろく、骨折と入退院を繰り返し、小学5年から常に車いすを使う生活となりました。高校時代には休学し、手術とリハビリに励みましたが、歩けるようにはなりませんでした。
 
 その頃から、障害の“克服”に向けていたエネルギーを、障害が「あるからこそ」できることを探すために使おうと思い始めました。大学に進学し、アルバイト先で営業の仕事を任された時のことです。車いすで回れる訪問先は限られますが、その分、回数を増やし、小まめに要望を聞き、営業成績1位を取ることができました。その際、勤務先の社長からこう言われました。「歩けないことに胸を張れ。お客さんに覚えてもらえるなら、それは営業マンにとって強みだ。実際に、君は結果を残している」と。
 自分が“弱点”と思っていたものが実は“強み”である――今へと通じる気付きを得た出来事でした。

正しさを武器にしない

 〈垣内さんは大学在学中に株式会社「ミライロ」を設立し、教育機関、企業、公共施設のバリアフリー設計・コンサルティング事業を手掛けてきました〉
   
 バリアフリー関連事業という点では、NPOなど、企業以外の選択肢もありました。それらを否定する気は全くありません。その上で、バリアをバリューにしていくという観点からすると、ビジネスは持続可能な「収益」を上げ続けるという点で、大変に厳しく、同時に、分かりやすい分野でした。
 
 各施設の「バリアフリーマップ」を作る事業から始まり、コンサルティング事業でも、当事者目線の強みを発揮することができました。例えば、あるホテルでは、バリアフリー客室の稼働率が低調で悩んでおられました。私たちが現場を見て、調査したところ、過剰な設備のために、利用者からは「旅行に来たのに病室みたい」との声が上がりました。そこで、手すりやスロープなどの設備を脱着可能にし、利用者の希望に合わせてカスタマイズできるようにしました。稼働率は8割を超えるようになりました。

 〈ビジネスを持続させる上で、心掛けてきたことはありますか〉
   
 「正しさ」を武器にしない、ということです。車いすで生活をしていると、まれにレストランなどで入店を断られることがあります。例えば、そうしたお店にバリアフリー化を提案する場合、私たちは「障害者を差別することは“不正”だから対応すべきだ」という営業は行いません。それは正論であるがゆえに、強すぎる力を持ち、ビジネスの現場では、悪い武器になりがちです。
 
 そのため、正しさではなく「メリット」を提示します。「もしバリアフリー化をすれば、今まで来店することが難しかった障害者や高齢者のお客さまも、来店できるようになります」と。証拠となるデータを示した上で、相手に納得していただくことが基本です。
 
 最近の取り組みとしては、デジタル障害者手帳のアプリ(ミライロID)を開発しました。スタートから3年で、交通機関を中心に3000以上の事業者が対応(参加)するサービスとなりました。この普及も、事業者にとっては本人確認作業の簡易化、利用者にとっては実物の障害者手帳の紛失防止といったメリットが伝わったことによる“双方の納得”の結果だと考えています。

ハードからハートへ

 〈『10歳から知りたいバリアバリュー思考 自分の強みの見つけかた』との新著を出版されました。学童期・青年期の子どもたちへメッセージを送ろうと思った理由は?〉
   
 前著(『バリアバリュー 障害を価値に変える』)を出版した際、ビジネス書であるにもかかわらず、小・中学、高校生の課題図書に選定してくださったとの連絡を、数多くいただきました。そこで今回、私が16歳からつけている日記を読み返し、バリアバリュー思考へと至る経験、自分に対する「価値の見いだしかた」を伝えられたらと考え、新著を出版しました。
 
 伝えたいのは「あなたが弱みやコンプレックスに感じている“人との違い”。それは今はバリア(障害)であっても、必ずバリュー(価値)に変えられる」ということです。“飽きっぽいのは、好奇心が旺盛”“思い付きで動くのは、行動力がある”“作業が遅いのは、深く考える力がある”等々。「自己肯定感」がキーワードになる時代です。未来を担う子どもたちが、自分の価値に気付き、自分を好きになってほしい。そうすることで、自分と異なる相手を理解しようという気持ちも芽生え、他者の価値に気付くことも可能になると考えています。

 〈互いに認め合い、価値を生むという点は、これまでに垣内さんが形にしてきたビジネスモデルそのものですね〉
   
 実は日本のハード(設備)面でのバリアフリーは、世界でもトップクラスです。点字ブロックを50年以上前に世界で初めて開発したのも日本でした。一方で今後、目を向けていく必要があるのは「意識のバリアフリー」です。日本人は障害者に対して、見て見ぬふりをする無関心か、“そこまでしなくてもいいのに”と思うほど過剰か、どちらかの接し方をする人が多いと感じてきました。
 
 そこで、私たちは会社設立2年目に“「ハード」から「ハート」へ”とのコンセプトのもと、「ユニバーサルマナー」の研修事業を始めました。障害者が講師を務め、コミュニケーションの要点やサポートの技術をお伝えしています。開始から10年を超え、障害者への接し方が、ビジネスマナーのように“できたらかっこいい”という位置づけになってきたという手応えを感じています。企業以外に、高校や大学の授業でも採用していただきました。
 
 例えば車いすユーザーの中には、食事の際は、いすに移りたいという人もいます。そのことを知っていれば、「車いすのまま食事をとられますか? それとも、いすに移られますか?」と声を掛けることができます。知識を糧として、適切なコミュニケーションが、新たに生まれていくことが重要だと思います。

大人が変われば

 〈本紙2月26日付の記事では、発達障害のシングルマザーと小学5年の親子、その周囲の創価学会員の関わりを紹介しました〉
   
 拝見しました。記事の中で学会員の方が「“障害のある人”と見て関わろうと思ったことはないんです」と語っておられましたね。“困っていること”は何かを知り、どうしたら楽しく活動できるかと考えてきた――と。あるべき社会の未来像は、まさにこれだと思います。“障害者だから、かわいそうだから手伝ってあげよう”では義務になってしまうし、障害のある当事者側も、“助けてもらって当たり前”と捉えてしまうことになりかねません。サポートへの感謝を忘れてはいけないし、同時に、自分の価値を見失ってもいけない。
 
 近年、「多様性」という言葉を頻繁に耳にするようになりました。とても良い響きですが、多様なだけでは「違い」が混在し、価値は生まれません。
 バリアバリュー思考は、当事者の目線から、自分の価値に気付くこと。そして、あらゆる尺度で、マジョリティーとマイノリティーが関わり合う中で、社会に価値が増えていく。そうした未来を実現したいと思っています。
 その意味で、教育の話に戻りますが、ビジネスで試行錯誤してきて、今、子どもたちへメッセージを送れることに喜びを感じます。

 〈家庭や地域の人が、子どものバリアバリュー思考を育むためにできることは何でしょうか〉
   
 子どもが、他者との「違い」に関心を示した「時」に、何をどう伝えるかが重要だと思います。「車いす」を例に考えると、私の経験上、子どもたちは初めて車いすを見ると、興味を持って寄ってきます。また、現在は各種施設の入り口にも車いすが設置してあります。
 そんな時、「遊んじゃダメでしょう。おもちゃじゃないんだから」と多くの大人は言うと思います。でも、「遊んじゃいけない」と遠ざけてしまうことが本当にいいのか、というところから見つめ直すべきだと思うんですね。
 
 子どもの頃の私と友人の間では、車いすは“おもちゃ”でした。友人にとっては、“垣内みたいに速く車いすをこげるようになりたい”“車いすは、いつか自分も乗るかもしれない”というように、違和感を抱かなくなっていったように思います。
 “触れてはいけない、見てはいけない”と距離を置こうとしているのは、実は大人だったりする。そうではなく“興味を持ったり、話題にしたりすることが大切だ”と、言葉と行動で見せてあげてほしいです。
 
 休日に親子で公園に行って、車いすの子どもが親と一緒にいたならば、「こんにちは」とあいさつし、「一緒に遊ぼう」と誘ってみる。そうした大人の姿を、子どもは忘れないと思います。
 大人の姿が変わった分、その変化は子どもに伝わり、ひいては、社会の未来も豊かなものになっていくのではないでしょうか。

 【プロフィル】かきうち・としや 1989年生まれ、岐阜県出身。先天性の「骨形成不全症」のため、幼少期から車いすで過ごす。2010年、立命館大学在学中に株式会社「ミライロ」を設立。障害者や高齢者など、誰もが使いやすいユニバーサルデザインの設計・コンサルティング事業を手掛けてきた。本年には財界研究所「経営者賞」を受賞。著書に『バリアバリュー 障害を価値に変える』(新潮社)、『10歳から知りたいバリアバリュー思考 自分の強みの見つけかた』(KADOKAWA)。

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