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郵便局のトールさん

この話はフィクションです。

以前、郵便局で短期のアルバイトをしたことがある。
私を含めて5人の女性が職員の補助業務をすることになった。

その中に人の良さそうな、自分の母親ほどの年齢の女性がいた。
背が高かったので、私は「トールさん」と自分だけのあだ名をつけた。

トールさんは立ち仕事の時、独特の動きがあった。常に体を小刻みに左右に動かしていた。
いや、本人に自覚はなかったと思う。

はたから見ると、忙しそう、いかにもテキパキと仕事をこなしているように見えるが、実際はそうでもなかった。

いつもはアルバイトで仲良くなった同年代の人とお昼を食べていたトールさんだが、その日はお仲間はお休みだった。

トールさんは、一人でパンを食べようとしていた私のところへやってきて
「ここ、いいかしら?」と言った。

私は「はい」と軽く頷いた。
トールさんのお昼は手作りのお弁当だった。

トールさんは、
「これね、娘が作ってくれたの」と話し出した。

トールさんの話によると、娘さんは去年、小学校の先生になったばかりらしい。

ところが、ある日重い食中毒に罹り、しばらく入院し、今は実家に戻り自宅療養中とのこと。

食中毒以来、食べるのが怖くなり、毎日ほんの少ししか食べず、すっかり痩せてしまった、でも、私のお弁当は毎日作ってくれる、と言っていた。「おかずは、しっかり火を通すの」とも。

食べられないのに作るのは辛いなー。

トールさんは、ひと口ひと口、大事そうに噛みしめながらゆっくりとお弁当を食べていた。

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