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無名のフードクリエイターが「CHEF-1グランプリ2023」で準優勝して心も体も鍛えられた話

昨晩はM-1グランプリで盛り上がりましたね。我が家でも、開始時間に合わせてピザと飲み物を準備して、テレビの前で待機して見ました。

決勝で最後の最後まで勝者が分からないところでヒリヒリしたり、令和ロマンの戦略裏話に感動したり、麺ジャミン・バトンもめっちゃ好きだったな…と思ったり、朝起きてまた余韻に浸っているところです。

そんな興奮も冷めやらぬまま、今年もあと1週間をきったということで、自分自身の1年を振り返りたいと思います。

私の今年のハイライトは、料理人の大会、「CHEF-1グランプリ」でした。

初めて聞く方も多いかもしれませんが、実はこれ、料理人版のM-1グランプリとして、吉本興業さんとサントリーさんがスポンサーとして開催している大会で、テレビ放送もあったんです。今年で3回目となる、料理人版M-1、CHEF-1グランプリで、無名の私がなんと準優勝してしまった、というのが私の今年のトピックスでした。

ミシュラン星付きのお店のオーナーシェフやスーシェフ揃いの、料理人が凌ぎを削り、1,000万円を目指す、厳しい戦いです。

準決勝進出の、各ジャンルNo.1の8名

私は1月から10月にかけて、書類選考から実技の2.3回戦、準決勝、と進み、なんと決勝まで残ることができました。このnoteでは、書類選考から準決勝までのまとめと、準優勝の決め手となった「お茶ラーメン」の思考の裏側を書いています。

今年の私は、この大会のおかげで、精神力も思考も、本当に鍛えられました。フードクリエイターという聞き慣れない肩書きで仕事をしていますが、周囲からの反応も良い方向に変化し、声をかけていただく機会も増えました。

本当に1年、頑張った….。そして奇跡のような年でした。もし良ければ、奮闘の様子と料理に込めた思いを覗いてみてください。


書類選考〜準決勝のハイライト

書類選考・2回戦 「地元を盛り上げるフェス飯」

実は昨年も挑戦していたのですが、昨年は書類落ちだったので、今年の2月、書類通過の電話がかかってきた時には、本当に私でいいんですか!?と聞き返しました。

3月に開催された2回戦では、地元鹿児島の「鰤王」を生かしたフェス飯を披露しました。もし明日フェスに出たい人?!と言われたら、真っ先に手をあげられる、そのくらい、味わいはもちろんのこと、原価も、オペレーションも構築してきました!とフードクリエイターのスキルを生かしたプレゼンをしました。

書類選考、2回戦を突破した「鰤王のフィッシュマサラカレー」
当日一緒に戦った同世代の料理人仲間と

3回戦 「海老料理に革命を起こせ」

4月に開催された3回戦では、ここ2年ほど、人知れず研究してきた「口中調味」の手法を使って、口の中で完成するトムヤムクンを提供しました。昨年のファイナリストという強力なライバルがいる中、初めてすぎて分からない、という、ポジティブともネガティブとも取れるコメントをいただいてひやひやしながら、フードクリエイター1位として認めていただくことができました。

3回戦を突破した「口中調味トムヤムクン」
フードクリエイターTOP5メンバーで戦いの後の乾杯

準決勝 「和牛料理に革命を起こせ」

5月に開催された準決勝では、フレンチ、イタリアン、と各ジャンルの1位が集まる中、ガクガク震えながら、「和牛料理に革命を起こせ」というテーマに対し、またしても口中調味で挑戦しました。意図していた和牛とバニラの相性は認めていただけなかったものの、脂の多い和牛と、通常はタブーとされる熱燗を合わせた点を評価され、ギリギリで勝ち残ることができました。

決勝トーナメント進出を決めた、「和牛とバニラの出会い」

そして9月に開催された決勝戦は、4名のシェフがトーナメント式で戦いました。このnoteでは、その中でも準優勝を決めた、「ラーメン」について書きます。最終決戦の「すきやき」は自分でも反省がたくさんあるので、納得がいく状態に料理を仕上げられたときに、またnoteを書きたいと思います。

最後の決勝戦まで終えた今でも、決勝なんて残れる訳ないじゃん!と自分で突っ込む夢を時折、見ます。笑

決勝戦の心境


決勝戦ともなると、いつもテレビの画面の中に見ているようなセットが目の前に広がり、司会の山里さんや今田さんが話している姿に、試合を忘れて感動してしまいました…。

そして審査員は、ミシュラン13年連続三つ星日本料理店オーナーシェフの神田シェフ、かの有名なジョエル・ロブション総料理長の関谷シェフ。天空落としで一世を風靡し世界に挑戦しているラーメン屋の中村さん、そして神の舌をもつ男GACKTさんが登場。

毎回、憧れの一流料理人の審査員の方に料理を食べてもらえるのが本当に嬉しくて、大会に挑戦してよかったなぁと感じます。

GACKTさんはオーラがあり、登場のタイミングで鳥肌が立ってしまうほど感動しました。まさか、GACKTさんに料理をお出しできることが人生であるなんて。

トーナメント方式での私の最初の対戦相手は、2021年、2022年大会でどちらも準優勝の「ジャンルレス」山下泰史シェフ。

他の3名のシェフはもちろん全員すごいのですが、中でも、最も対戦したくなかった相手です。

相手を意識したらひるんでしまうので、私はとにかく、「革命を起こす料理を作ること」だけを考えます。革命を起こせて、美味しい料理を作ることができれば、相手が誰であろうと勝てるはずです。

試合の前日には、「これ以上ない、いいレシピを作ることができた、後は失敗せず調理をするだけ!」と意気揚々としていました。

それなのに当日、準備の部屋で、山下シェフが美味しそうな豚肉の塊の処理をしている様子を見て、こんなすごいシェフに私なんかが挑むなんて、何かが間違ってるよ……と泣き言を言いたくなりました。

朝から何も食べられず、お腹がすいたのもあって、どんどん不安になってしまいました。制作陣に相談して、控室にあったセブンイレブンの赤飯おこわをもらい、噛み締めて、お茶を飲んで、スタジオの隣のパイプ椅子で、ひとり、息をつきました。

これからも不安になったらセブンの赤飯おこわを食べよう。

なんだかやれる気がしてきました。

これ以上ないくらい突き詰めてインスタントラーメンの革命を考えてきたのだから、そのラーメンを最高の状態で食べてもらおう。そのことに集中しよう。

ここからは、「インスタントラーメン」に「革命」を起こした、その裏側の思考を公開します。

お茶ラーメンの思考の裏側

【革命=これまでの常識がひっくり返ること】
と定義し、どんな革命を起こしたいか筋書きを作るところから始めます。

私の考える革命の解釈については、3回戦の記事で詳しく触れています。

決勝戦ということもあり、革命をテーマに考えるのも3回目。せっかくなら、一番大きい革命を起こしてみたいなぁと思いました。

日本の素晴らしい技術と情熱の詰まったインスタントラーメンに、「とんこつ、塩、醤油、味噌ラーメンに続くような、新たなジャンルを作る革命を起こそう」。

私が料理のレシピや商品開発をする時に意識していることは、使う必然性があるものを使うこと、です。

なんとなく思いついたものや、他でも代替できるもの、無くても成り立つものは、料理に対しても素材に対しても失礼だと思うので、使わないと決めています。

ラーメンの新たなジャンル。今回キーに据えたのは、「お茶」です。


日本の技術と食材と情熱を凝縮した、世界にも届けられる「お茶ラーメン」を作ることにしました。

お茶をチョイスしたのは、「お茶漬け」と、鹿児島の「茶節」をヒントにしたためです。インスタントラーメンに使うなら、「インスタント」という点で関連性のある食材を使えたら面白いな、と考えました。

茶節:薩摩半島南部に伝わる郷土料理。湯呑みに鰹節と麦味噌を入れ、お茶を注いで飲むもの。疲労回復や二日酔いのときに、県内で広く愛飲されている。

お茶は比較的短時間で旨みを抽出できる食材。しかも5種類ものアミノ酸を含みます。だから簡易な料理にも活用されているんですね。

お茶の旨みを生かしたラーメンを作ることができたら、面白いのでは…!?そう考えました。

「蟹と柑橘のお茶ラーメン」 の作り方

「インスタントラーメン」を使用すること、というお題で、麺だけ使っても、スープまで使ってもOKです。

私が今回選んだ麺は、九州のソウルフード、「マルタイラーメン」。それをペットボトルの緑茶で茹でます。ラーメンにはかん水が含まれていて、茹でるとアルカリ性に寄るので、それを中和する(ペットボトルのお茶にはたいていビタミンCが添加されているため)目的が一つ。そして麺を啜ったときにお茶の香りをダイレクトに感じやすくなるということも目的です。

スープは、鶏ガラ出汁と玉露出汁を合わせたもの。鶏ガラ出汁は臭みが出ないように、でもできるだけ濃厚に。玉露出汁は60℃で1時間かけて旨みをじっくり抽出します。それらをブレンド塩で調味。ラーメンらしさを出す、鶏油もしっかりといれます。

全体が少しまったりとした味わいになるところに、青唐辛子でスープに輪郭を持たせます。緑茶や柑橘は青い香りがあるので、赤唐辛子で単純に辛みを加えるのではなく、共通する青い辛みを加えるというのが、実はこのラーメンのキーポイント。辛くする目的ではなく全体を引き締める目的なので、食べても気づくか気づかないかの量ですが、これがあるのとないのでは、仕上がりが大違いなのです。

そこに、抹茶をギリギリの量、たっぷり入れて仕上げます。

具材は、お茶の苦味を中和する役割で、蟹と生クリームを使った餡を。抹茶ラテで、抹茶とミルクを合わせ、まろやかにするイメージです。

そこに、ラーメンらしさのある揚げエシャロット、九条ネギ。
爽涼みかん(早摘みみかん)の薄切りで、緑茶と相性のいい柑橘の香りを添え、緑とのコントラストで見た目のインパクトを演出する目的で、糸唐辛子を飾ります。

つけあわせとして、出汁をとった玉露を使った茶葉とベルガモットを合わせたお浸しにしました。実は私の地元鹿児島では、必ずと言っていいほど、ラーメンにお漬物がついてくるのです。そこからヒントを得て、箸休めとして酸味の要素を加え、食べ飽きない仕立てにするために用意しました。

「蟹と柑橘のお茶ラーメン」の料理のポイント

この料理で一番大切にしたのは、どこまでお茶の特徴を生かしたラーメンを作れるか。そして、誰もが迷いなく「おいしい!」と言ってしまう仕上がりにすること。

そのため、旨みの強い玉露を出汁として活用し、また、口に入れた時のインパクトのために抹茶を限界まで入れました。

また、お茶と相性がよい、柑橘や山椒の風味を合わせることにしました。

のせた具材や添えたお浸しは、お茶のスープの魅力を引き立たせるために逆算して構築したものです。

お茶のスープを作る上で、お茶の「風味」と「苦味」のちょうど良い点を何度も何度も試作を重ねて探りました。一口目は、圧倒的なインパクトがほしい。でも、食べ続けると苦く感じてしまう…。

抹茶ラテのように、スープ全体を、乳成分でまろやかに仕立てることを考えました。ただし、ラーメンに生クリームを少し足して試食をしていると、もう一度、あの香りと苦味のあるお茶のスープを飲みたくなるんですよね。

最後の一口は、お茶のスープを飲んでほっとしてしめたい。

スープに混ざり込まない形で、まろやかさを足す方法を考えて辿り着いたのが、蟹を卵白と生クリームでとじた蟹餡です。

また、ラーメンを食べる中で、ちょっと酸味もほしくなります。でも、上記と同様に、最後はお茶の味を楽しめるスープで終わりたいから、全体を酸っぱくするのは避けたい。

そのため、薄切りにしたみかんで少しの酸味と柑橘の香りを足し、添えた玉露のお浸しを箸休めとすることで、飽きずに次から次に食べたくなるラーメンに仕上がりました。

「お茶ラーメン」というアイデア自体は、全く新しいものという訳ではなく、お茶が特産の地方の道の駅や、インバウンド向けのお店で目にすることもあります。でも、ここまでお茶の特徴を生かして仕立てたラーメンは他にない、と自負しています。

「◯◯を使った」と謳いたいだけなら誰にでもできる。それを使う意味があるのか、突き詰める。それが私の、料理や開発に対するプライドです。

結果と今後の展望

全員一致で大絶賛していただき、なんと、2年連続準優勝、2023年優勝候補の山下シェフに勝ってTOP2に残ることができました。

私は3回戦の「口中調味トムヤムクン」と準決勝の「和牛」で、革命という点で評価いただいていたと思います。誰もが美味しい!というよりは、面白い、新しい、という印象でした。認めてもらえるのか、吉と出るか凶と出るかのギリギリの勝負をしかけていました。

その2つの料理については、下記noteにまとめているのでもしよければ覗いてみてください。

決勝戦は、革命を起こして、かつ、迷いなく美味しいものを作りたかった。

でも、これって、矛盾しているんです。なぜなら、革命と呼べるほどの新しいものは、初めは少しの違和感があるものだと思うから。

そこの矛盾を、「普通はラーメンに使わないもの」、でも「他の料理で馴染みのある使い方で」使う、ということで突破することができたように思います。

お茶漬けや茶節にならった、お茶出汁のラーメン。日本人なら誰もが好きな組み合わせ(お茶と柑橘)だけど、普通と違う形(ラーメンのスープに使う、みかんを皮ごと薄切りにする、お茶殻をお浸しにする)にして添える。

新しくて、これまで食べたことがなくて、でも、なぜか、どこか懐かしくてほっとする。それが、お茶ラーメンの目指した姿です。

CHEF-1グランプリを通して、革命について何度も何度もぶつかって、考え抜いてきた、その経験が集約された、心から自信作と呼べる一品ができたと思います。

蟹と柑橘のお茶ラーメン

最終決戦のテーマは「すきやきに革命を起こせ」だったのですが、まだまだ実力不足、と自分の現在地を実感する戦いとなりました。いただいた感想を元に、料理をアップデートできた際には、またnoteに綴りたいと思います。


お茶ラーメンをたくさんの人へ届けたい

お茶ラーメンについては、実は番組の中でも神田シェフから、すぐにでも商品化できる、と評価をいただきました。その後周囲の人に食べていただく中でも、今とても可能性を感じています。

私は元々、農業から料理を志しました。生産者の方々とお話ししたりお手伝いをしたりする中で、子どもや孫、その先の世代に、昔の◯◯はおいしかったんだけどね、って言わずにすむためには何ができるんだろうと考えるようになったのが、今の働き方に繋がっています。生産を続けるためには、適切な価格で購入し、食べる人がいないといけません。そのために、私は料理のスキルを使ってアプローチしたいんです。

若い人の急須離れが進み、お茶の生産量も年々減少しています。

お茶ラーメンは、食材の特徴を引き出しながら、キャッチーさも持ち合わせているので、お茶の魅力を再発見するきっかけになる可能性を感じています。

お茶ラーメンが、もっと多くの人に食べてもらえるものになったら。そして、お茶ラーメンをきっかけに、世界に日本や地元九州の魅力を届けるための道を作り、焼酎や畜産など他の食材の魅力も届けられるようになったら。未来に美味しさを繋いでいける気がします。

そんなことを考え、お茶農家さん、柑橘農家さん、お米農家さんとも相談をしながら、来年の展開に向けて、お茶ラーメンをアップデートしている途中です。

ここまでnoteを読んでくださった方々、ぜひ、お茶ラーメンの応援団になっていただけると、心強いです。その様子は、引き続きnoteやXで紡いでいきたいと思います。

追い込まれた状況だからこそ生み出せたこの料理を、目先の利益のためでなく、素敵な食の未来を作るために、良い形で育てていきたいと思います。


お仕事のご依頼もお待ちしています

ふだん、私は複数の企業と、食品の商品開発、レシピ開発、ケータリングを行っています。アイデアやレシピ部分はもちろんのこと、届けるまでのロジックの設計や、工場で理想の味を実現するための調整など、商品を完成させるために必要な付随する部分までできるのが、私の強みです。

お仕事のご依頼も、お待ちしています。

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▽CHEF-1グランプリの様子は、TVerでご覧いただけます!


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