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貝のお話 3

《巻貝》
 『貝のお話』のラストは巻貝です。巻貝ってくらいですから基本的に巻いています。右巻きの貝や左巻きの貝もあったりしますが、我が国の食卓における最もポピュラーな巻貝はサザエでしょうか? 近所のスーパーでもたまに見かけますが、野球ボール位のヤツが3個で1,000円以上もするのを見て『嘘だ!!』と叫びそうになったことがあります(笑)  今では慣れましたが、サザエなんて金で買うもんじゃない土地で生まれたせいで、都会の経済システム(笑)には驚かされることも多い、海の田舎育ちの私です。
 夏になると飽きるほど食っていた立場で言わせてもらうと、美味いサザエは野球ボールでは大き過ぎで、ピンポン玉サイズから大きくてもビリヤードの玉サイズまでですね。資源保護の観点では一番獲ったらダメなやつなんでしょうけど。

 サザエの生態を知らない人にとってはギャグみたいな話をもう一つ。もちろんホントの話です。それは、サザエには右足と左足があるということなのです。彼らは左右の足を交互に前に出して歩く(?) のですが、ちょうどネット上にわかりやすい動画を見つけましたので紹介しますね。『嘘だ!』とお思いの方はぜひご確認ください。

 サザエといえば刺身、炊き込みご飯、ツボ焼きあたりでしょうか。しかし、

 ◇刺身は硬い・・・
 ◇炊き込みご飯は砂がジャリッとする・・・
 ◇ツボ焼きは殻から身が出てこない・・・

 サザエという貝はこのような弱点がありますが、考えるとそれもサザエの個性であり魅力なのです。要するにあの風味豊かな独特の味わいを得るための税金みたいなものです。ところでツボ焼きで身を食べた後、中のダシを味わいたくて何度もクルクル殼を回し続けるのは私だけでしょうか(笑)?

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 さて、ところで なぜか巻貝の中にはその名に反して巻いていないヤツがあって なんだかややこしいことになっています。でも彼らも元々巻いていたという過去を持っているのです。元ヤンならぬ『元巻き』ですね。人間の世界において 元ヤンというカテゴリーの人たちは、今は更生しているように見えてても どこかグレていた時代の名残りがあるものですが(身の飾り方や車の趣味、また友だち甲斐の無い奴の処遇などなど)、『元巻き』の代表格であるアワビの貝殻の頂点部分をよく見ると、巻いていた時代の名残であるウズがあるので『なるほどコイツは以前 巻貝だったんだなぁ』とわかります。しかしあの小さなウズ跡は、元ヤンが若気の至りで過去に入れてしまったタトゥーみたいなもんなんでしょうか(笑)?

 ところが同じ『元巻き』一族のクセに、今ではどう見ても『巻き』要素の無い貝っていうのもあるのです。下に示したマツバガイの仲間なんかはどこを見ても巻いてはいません。子供の頃は磯にマイナスドライバーを家から持ち出して(素手では剥がしにくいので)、磯で岩にくっ付いていているコイツをよく食べたものですが、嫁さんの郷里である出雲市では『ボベ貝』と呼んで炊き込みご飯にしたりします。

マツバガイ

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 子供の頃ウツボにビビリながら 水深が浅い所の石を次々ひっくり返して獲ったトコブシは、煮物にしたら美味しい貝です。トコブシと小型のアワビとの区別ができる人は少ないのかなと思いますが、貝殻の孔が大きくて少ないのがアワビ、小さくて多いのがトコブシです。しかし慣れてくると 裏返されていても、身を見ただけでもわかるようになりますが。

トコブシの貝殻
アワビとの違いがわかりにくい

 さてそのアワビですが、五島で私が認識していたのは2種類、一つは標準名で『黒アワビ』です。なかなかの風格を持つ超高級食材でもあります。もちろん子供の頃にはそんなことは気にもとめず、大型(体長15㎝以上)のコイツらを『おわら! ざぁまにカタかっちょ!※』と言いながら豪快に盛った刺身を頬張ったものです。 

 ※『えー!めっちゃカタいやん!』
   ⇒五島弁を大阪弁に訳してみました(笑)

 もう一つのアワビは 標準名は何というのかは知りませんが(調べてもよくわからない)、黒アワビのような楕円型の体ではなく、より新円に近い丸い形をしているものです。また黒アワビほどには硬くなく、色も白っぽいので見分けはすぐつきます。市場価格は黒アワビが一番高いみたいですが、案外黒アワビよりコッチの方が好きだという人は多かったように思います。そして、何よりコイツは大きくなって、最大レベルの個体の体長は20㎝程あったように思います。

 素潜りでアワビを獲るためには、少々条件があります。
1.最低3メートル程潜っても息が続くこと
  ➡サザエなんかより深いところにいるので
   子供では息が続かず困難である
2.獲物を見つけられること
  ➡周囲の岩と一体化するので、タコ同様
   慣れていないと見つけることそのものが
   難しい
3.岩からはがす漁具が必要なこと
  ➡ 素手では絶対はがせないので、タイヤ
   おこしのような 幅2.3㎝程度の平たい
   棒状の道具がいる

 これらの条件が1つでも欠けるとアワビを獲るのは難しいでしょう。

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 獲物が晩ごはんのオカズに直結したような五島の海は大阪にはありません。要介護5の状態になった 私が住まう大阪の海。それでも今、たまに海岸のそばを通った時に 海を見て子供の頃の記憶が蘇り、無性にあの懐かしい味にもう一度触れたくなって たまらなくなることがあるのです。


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