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責任、正しさ、説得力 2019アウェイ山口 試合

「2-0は危険なスコア」

日本ではよく言われるサッカーの「定説」です。昨年のロシアW杯でも、日本代表がベルギーに2-0から逆転負けしたのは記憶に新しいです。

だが僕は、この考えに対して、明確に「NO」と言いたい!

それを思い出した2019年、開幕戦の観戦記です。

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柏レイソルサポーター2年目(通算15年目)、円子文佳です。

『OWL magazine』のプロジェクトオーナーもしています。

今年はネルシーニョに心臓を捧げると決めました。よろしくお願いします。


柏レイソルの開幕戦を見るため、2/22(金)-24(日)は山口に行ってきました。

この遠征が我ながら久々に完璧だったなと思い、いくつかのテーマに渡って色々と書かせていただきます。今回は「試合」です。

第1回 食事 絶品のくじら料理を通じて南氷洋を想う

第2回 観光 「自由とは何か」きのことたけのこの世界から考えてみた

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・維新みらいふスタジアムまで

ここまで2日間、食事や観光など、ほぼ完ぺきなアウェイの旅だったと思います。事前の準備、行動力、体力、経済力、運など様々な要因があって、このような結果を出すことが出来ました。

しかし、あとは試合です。ここは自分でコントロールできる要因はほぼありません。出来ることは、席種を適切に選ぶ、遅刻をしない、忘れ物をしない、他の観客とトラブルを起こさない、ことぐらいです。列挙してみると結構あるなと思いましたが、どれも人として最低限のことですね。そして試合観戦の満足感は概ね「試合内容」(≒結果)によります。

柏レイソルは2019年からネルシーニョ監督が再び指揮を執るようになり、この日が開幕戦でした。監督の手腕が優れているのは知っていますが、チームのコンディションや新加入選手の能力は未知数です。緊張と不安に包まれながら試合会場に向かいます。

小倉から新幹線で新山口に向かいました。「みずほ」「さくら」など、東京駅では見ない名前の新幹線に、関東人としてはちょっとワクワクします。とはいえ、あえて「さくら」に乗ってみましたが、20分ぐらいの乗車だとそんなに違いはないですね。

新山口駅にはサポ仲間がレンタカーで迎えに来てくれました。今回彼は日帰りで山口に来たそうです。

スタジアムに着きました。外観はカッコいいですが、いわゆる「国体スタ」で、陸上トラックがあります。

試合結果は2-1で、柏が開幕戦を無事勝利で飾ることが出来ました。試合開始7分で山口に先制され、その後も前線からのプレスに苦しめられましたが、時間の経過とともに地力の差が出て何とか逆転勝ち出来たという内容でした。

試合について全体をまとめるのではなく、自分の記憶に深く残った出来事を記述するという観戦記を試みています。


・責任、正しさ、説得力。ネルシーニョの振舞い

僕は今となっては、柏レイソル自体より最早ネルシーニョ監督のファンかもしれません。再び彼の指揮するチームを見ることが出来ることを非常にうれしく思っていましたが、実際の姿を見るとやはり凡庸な監督とは違いました。

レノファ山口は前線からのプレッシングが非常に印象的なチームでした。立ち上がり、柏はアバウトに蹴らず出来るだけボールをつなごうとしていました。偶然に頼らず、つなげるところは確実にやりたいという意図は、2014年までと同じでした。とはいえ、サッカーは対戦相手がいるスポーツです。自分たちがやりたいことをいつでも出来るわけではありません。

柏はディフェンダーが追い詰められ、危険な位置でボールを失いかける場面も出てきました。ゴールキックも、最初は近くのサイドバックにつないでいたのですが、試合の流れが悪くなりGKの中村航輔が大きく蹴り出すようになりました。とはいえ、それは本来のゲームプランではなさそうな雰囲気でした。

前半20分ぐらいだったと思います。まだ0-1でビハインドの時間でした。ゴールキックの際、右サイドバックの小池がベンチを振り返りポジションをどうすべきか確認します。ラインを押し上げてロングキックに備えるべきか、キーパーの横まで降りて確実にボールを受けるべきか。

するとネルシーニョは左腕をすっと前に出し、

「ステイ!」

みたいに(おそらく)言いました。キーパーに大きく蹴らせず、短くつなげという指示です。それを聞き、小池は再び下がった位置でキーパーから短いボールを受け、中盤へ確実にボールをつないでいきました。

このネルシーニョの振舞いを見て、僕は非常に頼もしく思いました。サッカーのように多人数で行う競技だと、チームが苦しい時に選手間の意思統一が図れないことがあります。そういう時は誰かが方針を打ち出す必要がありますが、その人は責任を持たねばなりません。その方針がもし間違っていた場合、チームは苦しいまま沈没します。そして、「この人が言うなら従おう」という説得力も、あらかじめ持っている必要があります。

責任、正しさ、説得力。それら全てを兼ね備えた、ネルシーニョの後ろ姿でした。去年までの日本人監督では見ることの出来なかった心強さ。その時間はリードされていましたが、「今は苦しいけど、やり通せばきっと上手く行く」と考えることが出来ました。実際この試合、山口は終盤足が止まりプレスが効かなくなり、柏が逆転勝ちしています。また一つ説得力が積みあがりました。


・ゲームをコントロールすればいい

後半34分に決勝ゴールとなる柏の2点目が入りました。クリスティアーノのシュート性のクロスボールがそのままゴールに入った感じの得点でした。

深い時間にゲームを動かせるのは、強いチームの証拠です。とはいえ、去年は強いチームではなかったのでJ2に降格したわけです。残り時間10分少々、2-1のままリードを守り切れるでしょうか?

しばらくは心配しながら見ていましたが、ピッチ上の選手たちは全く怖がるそぶりもなく、落ち着いてプレーしていました。次第に僕も、

「少なくとも、負けることは絶対にないな」

と考えるようになりました。サッカーではいつでも事故は起き得るので、強いチームでも1点を失う可能性はゼロではありません。しかし完全に試合をコントロールできていれば、短時間で2点取られる可能性はほぼゼロと言えます。

日本サッカーの格言?に、「2-0は危険なスコア」という言葉があります。2点差がつくと油断しがちですが、そこから1点取られると急に慌ててしまい、むしろ逆転されることもあり得る、というニュアンスのようです。去年のロシアワールドカップでも、日本代表はベルギーに2-0から逆転負けし敗退しています。しかし僕はこの「2-0は危険なスコア」という概念は、全くの間違いであると思います。

ネルシーニョは前回柏の監督をしていた期間、09~14年と長期間に渡って、2点リードから逆転負けしたことは一度もありませんでした。それどころか、2点リードから引き分けに持ち込まれたこともなかったと思います(ざっと調べたところやはり見つかりませんでしたが、もしあったら教えてください)。

当時のチームに対し、ネルシーニョはこのように言っていたそうです。

ハーフタイムのロッカーでは、「2-0はサッカーにおいて一番危険な状況。2-1にされると危ない。気をつけよう」というサッカーの定説を引き合いにした言葉が飛び交った。選手同士で、守備の確認などを行っている。
この光景を目にした監督は、次の瞬間、選手たちにかなり強い口調でこう言葉を投げかけた。
「2-1になったら、なんていうのは負けているほうが考えることだ。ウチはリードしているんだ。危なくなんかない。オマエらがゲームをコントロールすればいいだけだ」
(『ネルシーニョ すべては勝利のために』 ぱる出版 P159)

「ゲームをコントロールすればいい」

あっさりした一言ですが、この背後には莫大な知識と経験があるのでしょう。そして、まさにその通りだと思います。

サッカーの戦術は、後出しの出来るジャンケンのような要素があります。相手の出方を見た上で、相手の嫌なことをすれば勝利に近づきます。リードしているチームは、そのまま時間が経てばそれだけで勝てるのです。相手は残り時間で抵抗してくるでしょうが、それはスコアをひっくり返すため無理をして攻撃しているのです。リードしている方が主導権を持っているのであって、適切に対応すれば勝てる。事故で1失点はありえても、2点取られることはあり得ない。

開幕戦のリードしてから10分少々の時間、久しぶりに

「ああ、ゲームをコントロールしているなあ」
「普通にやっていれば、2点取られることってやっぱりないよなあ」

と思えて、懐かしくなりました。そしてそのまま試合は終了し勝ちました。


・帰りの飛行機

試合は18時に終了しました。その時間にスタジアムを出て、当日中に東京に帰るには、20時発の最終便しかありません。そのため僕が乗った飛行機は、チームの選手やスタッフなどと同じ便でした。

僕は選手に対しては、プレー内容以外は本当に興味がありません。空港などで見かけても、「あ、いるんだな」ぐらいの反応です。しかし今回の座席は、中央の通路を挟んで反対側3席がネルシーニョとスタッフ(おそらく通訳など)で、結構緊張しました。スタッフの人は何かパソコンで作業をしていました。ネルシーニョは映画か何かを見ていました。

機内での飲み物ですが、ネルシーニョはグレープフルーツジュースを注文していました。その時は気づかなかったのですが、後から考えると降圧薬や高脂血症の薬(種類によりますが)を服用している人はグレープフルーツジュースを飲んだらダメなはずなので、ネルシーニョはそういう薬を飲んでいなさそうということになります。血圧や高脂血症の問題が起きていないとなると、これもまた心強いですね。

フライト中、機長から挨拶のアナウンスがありました。「この便には柏レイソルのチーム、スタッフ、関係者の方も乗っていると伺っております。私は山口県出身なので、今日の試合結果は非常に悔しいです。アウェイでは必ずや、勝ちたいと思います」という感じのコメントをしていました。機内では何となく拍手が起こりましたが、ネルシーニョは一切興味を示さず、瀬川の動きについてスタッフと議論していました。


本文は以上です。本文だけで完結する文章になっているはずです。この先はディープな内容であったり、エッジの効いた意見になっているかもしれません。

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