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心を満たす朗読劇、スプーンの盾 (後編)


ストーリーや登場人物、印象に残ったセリフなど、前編はこちら

VOICARIONの魅力


物語が流れるように展開する心地良さ

一番面白いと思ったのは、2つ(もしくは3つ)の時間軸が同時並行で展開されるシーン。

例えば、カレームとマリーが厨房で会話してる同じ時間に、レストランで、ナポレオンとタレーランが会話している、というのがテンポよく切り替わっていく。
同じキーワードで繋がっていたり、過去の記憶と繋がっていたり。観ていてどんどん世界に引き込まれる仕掛けでとても楽しかった。


1度として、同じ回がない

まず驚いたのが、各日程のキャスト
ダブルキャスト・トリプルキャストの騒ぎではない。
大阪と東京とで違う役を演じるキャストさえいる。(山口さん、津田さん、諏訪部さん)

しかも、名を連ねる全員が主役級。

キャストが予定してきた役作りをベースに、藤沢さんの演出が入るようで、演じる人によって役の印象が違ったことが面白かった。
さらに同じ人でも、その日の座組みの違いで、それぞれが相手の言葉遣いや声色を受けて、それにその場で反応しているような印象もあり、さすがキャリアを積んできた方々の集まりだ…と感服するばかりだった。


各キャストが演じた登場人物の印象


アントナン・カレーム

下野紘:
子供っぽさたっぷり。笑顔も慌てる姿もとにかく可愛い。常に全速で走り回っているような印象。
「あぁ!!」と叫んだり、マリーを必死に呼ぶ姿はとてもコミカルでバタバタと音を立てて動いている様子が目浮かぶ。マリー役の朴璐美さんとの掛け合いも抜群で、最初に観たカレームが下野さんだったので、このカレームのイメージが強く残った。

津田健次郎:
初日の下野さんが演じられたカレーム像と、自分の中での津田さんのカレーム像が結びつかず、タレーランの方が津田さんっぽいな…と思っていた。
が、物語が始まれば、料理のことになると純粋さや少年らしさを滲ませつつ、どこか落ち着いた部分も垣間見えるカレームがそこにいた。
敢えて若々しい青年のような声で演じるのではなく、精神年齢的には津田さん自身に近いキャラクターで設定されていたような印象。鑑賞(拝聴)した4名の中で一番大人な雰囲気だった。
ただ、津田さんを見て、可愛いと思うことができたことは貴重なのでは…。

諏訪部順一:
大阪でタレーランを演じる諏訪部さんを観て、タレーランこそTHE!な諏訪部さんだなと思い、カレームをどんな風に演じられるのか、とても楽しみだった。(ご本人談:諏訪部風味のカレーム)
音声配信を聴いた瞬間、そう来るか!そんな柔らかい声持ってたの?!ってくらい爽やかな青年に仕上がっていて驚愕。とにかく優しくて、ちょっと自信なさげで、でも料理に対して芯のあるイメージ。演じられているお姿も観たかった。音声配信だったのが勿体無い。

中村悠一:
好きです。…推しだと語彙力が。すみません、ちゃんと書きます。
心から料理が大好きで、その料理で笑顔になっている人を見ることが大好き!という気持ちが、全身(声)に溢れてる。
純粋無垢という言葉がぴったりで、コロコロと音が聴こえてきそうなくらい声の表情が豊かな中村さんのカレームは、知らない間にまわりの人を巻き込んで、みんな笑顔にしてしまう、そんな印象だった。料理のことを考えているときの弾む声、マリーに語りかけるときの穏やな口調…、心を完全に持っていかれてしまった。
推しだからって贔屓しないぞ!と意気込んで拝聴したが、完敗。アーカイブの最終日、時間ギリギリまで何度もリピートした。どうしてこんなに中村さんのカレームを魅力的に思うのか、ずっと自問自答している。

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ナポレオン・ボナパルト

山口勝平:
早口で捲し立て、まわりがやや置いてけぼりになるくらい、ひたすら我が道を突き進む!感。ただ、タレーランを頼りにしているということはちゃんと伝わってきて、さすが…。サーベルを抜く仕草や、ケーキのお城の土台の上を足で踊ってみたり、動作でも表現されていたのも観ていて楽しかった。
山口さんは、アニメで正義側の役を演じられることが多い印象だったので、子供らしさ全面なナポレオンが、あのきっかけで豹変したときは鳥肌ものだった。

中井和哉:
何事にも動じない、腕組みしてどっしりと腰を据えているイメージ。冒頭からもう皇帝の貫禄あり。
カレームに本音を溢す場面や、エルバ島でマリーと会話する場面では声色がとても柔らかくて。なのに、クーデターの際や反逆者に対しての口調が本当に怖くて。どこにそんなスイッチが…!?と観ている側は、ずっとハラハラさせられっぱなしだった。タレーランがナポレオンを回想するシーンでは、イタズラ好きの明るい少年っぽさも感じることができるのに、逆にそれが悲しくてめちゃくちゃ泣いた。

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マリー・グージュ

朴璐美:
感情豊かすぎて、その波に気持ち完全に持ってかれる。涙腺崩壊!
大阪ではカレームが下野さんだったことも影響しているかもしれないが、弟子と言いつつも、もはやみんなのお母さんでは…?なくらい、他3名の男子たちを引っ張っていく。
土を吐き出すときの咳き込む姿や、涙で顔がグシャグシャになるくらい泣いていてる姿は、朴さんらしさもあって可愛かった。
藤沢さんの副音声配信の際、"座頭市"のようだと言われていたが私は、心の純粋さがとても響いたマリーだった。

日笠陽子:
まるで天使。その穏やかな口調に、世の男子がみんな日笠さんマリーを好きになるはず。諏訪部さんのカレームに寄せた印象で役作りをされたのか、あのカレームにぴったりな、心地よい語り口と掛け合いだったと思う。言葉一つ一つが優しさに包まれている。
どんなことをしても「しょうがないなぁ」と笑って全て許してくれる、後をついてくる弟子というより、手を取って一緒に同じ速度で歩いているような印象を受けた。

沢城みゆき:
大阪公演と東京公演とで、カレーム役が違ったことも大きいのか、配信までに積み重ねた公演を経て…なのか、実際に大阪で鑑賞した時と、音声配信を聴いた時の印象が少し違ったように思った。
東京公演アーカイブをリピートし過ぎて、それに上書きされてしまったので、主にそちらの印象になるが、幼さも残しつつ、ちょっと肝座ってる感もあったり、誰に対しても態度を変えないし、自分の弱いところはカレームにだって見せたくない、そんな愛らしいキャラクターになっていた。
個人的に、沢城さんと中村さんの掛け合いが好き。


マリー役の3名全て共通してすごいと思ったのは、少年期カレームの声。
大人カレームを演じているキャストの役作りを生かして「そのカレームの少年時代なら、こんな感じですよね。」という声になっていたこと。
三者三様の少年期カレーム、それぞれ個性があり印象的で思い出深いシーンになった。

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モーリス・ド・タレーラン

諏訪部順一:
佇まい、所作、全てが紳士的。椅子に座るポーズでさえ、絵になる。杮落し公演の際に完全に魅了されてしまったのか、2日目は気がつけば諏訪部さんばかりをオペラグラスで追っていたようで、幕間に隣の席の方から「諏訪部さんのファンですか?」と話しかけられる始末。(すみません…今日の出演キャスト全員好きですが、最推しは中村さんなんです)
上品な声色、ナポレオンと楽しい掛け合いをするときの軽やかさ、最後の長台詞に至るまで、全く隙がない印象だった。

平田広明:
ナポレオンと話すとき、カレームやマリーに話すときの声色が少し違う印象。特にマリーに語りかけるときの平田さんタレーランが好み。
最後の長台詞のシーンで、フランスを愛し、心から守りたい、その想いをまるで命を振り絞るかように言葉がどんどん力強くなっていく声を聴いて、私も力が入ってしまい両手をギュッと握ってしまっていた。 
アーカイブを複数回重ねるうちに、自分の声優沼の原点が平田さんであることを思い出す。(無事、ここに戻ってきました。ありがとうございます。)


ー同時視聴での藤沢文翁さん談ー
諏訪部さんは土下座外交(~させていただきたい)
平田さんは踏ん反り返り外交(~しようじゃないか)
津田さんは全裸外交(服を脱いで演説という意味ではない)

小野大輔さんに関しては、○○外交という例えはなかったが、演説の台詞後に着席して涙を拭っている姿が見えたと仰っていたのを知って、チケットを取らなかったことをすごく後悔した。


藤沢朗読劇ならではの魅力


藤沢さん自身が仰っていたことだが、脚本ができる前の段階(企画書もなしプロットもなし)で、出演キャスト陣全員がオファーをOKした、ということ。藤沢さんの作り出すものの魅力、そしてこれまで築いてきた信頼関係だからこそだと感じた。

超多忙&主役級のキャストたちが、連日入れ替わりで出演する舞台ということもあり、当日の座組みで揃ってリハーサルできない場合があると、出演されている方などが発言されていたが、
え…そんな状態で、あの完璧な舞台に仕上がってるの…?もう、混乱しかない。
そしてリハーサルでしか観ることができない、幻の座組みの日があったりもするらしい。…円盤化があるならメイキングで良いので、初回特典映像にしてほしい。

アニメや洋画の吹替だとキャラクター設定が細かくあり、キャストがそれに寄せていくようなイメージを持っていたが、藤沢朗読劇の場合(実在する人物だと、生い立ちや性格などが反映されてはいると思うが)、キャスト自身の個性+これまで経験してきた引き出しの組み合わせが色濃く出ているように思う。

そして、キャスト陣、音楽隊、制作チームまで全員が楽しんでいるのが伝わってくる。
Twitterのスペースでのお話やUPされる写真など、どこを切り取っても、それぞれが楽しんでいる様子が見えるのと、全員が良い作品になる・良い作品にしたい、という想いで関わっているんだなと感じた。


藤沢朗読劇に必要不可欠な音楽隊


私は、藤沢朗読劇での音楽隊は、縁の下の力持ちではなく、大黒柱のような存在で重要なキャストであると思う。
東京公演では、グラミー賞受賞のチェリストである松本エルさんの参加にも注目が集まっていたが、音楽監督・作曲の小杉沙代さんの作る曲を、全員が一音一音に気持ちを込めて演奏されているのが伝わってきて、音楽に詳しくない私でも、凄い演奏家たちの集まりなんだとわかる。

スプーンやボウルなどの調理器具をトントンカチャカチャと鳴らし楽器として使う楽しい曲が、個人的にお気に入りで、今も時々口ずさんでしまうほどだ。

それに、超がつくほどの個性的なキャスト陣と、予定している座組みでリハーサルが行えないこともあるスケジュールの中(予定していた座組みではぶっつけ本番なこともある座組みの中で)、キャストの役作りや、間の取り方、それぞれの掛け合いに合わせて演奏することの難しさ。
舞台に立ちながら、日替わりキャストたちの演技に臨機応変に演奏している、ということが、本当に凄いことだと思った。


最後に

これを単に"朗読劇"と言うのは違う気がする。

「明日から前向きに生きていくための元気を貰えた。」
そんな気持ちになれる舞台だった。

ナポレオンの最後の一言と、あの音楽が流れた瞬間、心がとてもあたたかくなって優しい気持ちになり、大きく深呼吸をして、初めて生で鑑賞することができた朗読劇がスプーンの盾で本当に良かったと思った。
この作品に出会えたことがとても嬉しくて、この気持ちをずっと大切にしたいと思う。

東宝さま、できれば円盤化を…!
DVDがあるとすれば、大千秋楽の日かなと思うのですが、観に行けなかった日や音声配信した日はせめてCD化もしていただけると、まとめ買いする勢いです。



音声配信のアーカイブを聴きながらメモすることができたので、2部構成の長編レポート&レビューになりましたが、今回だけの特別版。

最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。^^


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