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心を満たす朗読劇、スプーンの盾 (前編)

VOICARION スプーンの盾 鑑賞(拝聴)概要


人生初、生の朗読劇。

推しである中村悠一さんご出演回と、大阪2公演の先行チケットを申し込んだが、大阪2公演のみ当選。(中村さん回、超激戦により惨敗)
大阪はサンケイホールブリーゼにて舞台鑑賞、東京は後日決定した音声配信(1週間のアーカイブ付き)で拝聴。

大阪公演初日鑑賞の前日はなかなか眠れず、外がまだ明るくない時間に早起きしてしまう。(小学生か)

東京の大千秋楽後には、脚本・演出の藤沢文翁さんと、プロデューサーの白石さん、出演されていた山口勝平さんとのアーカイブ同時聴取企画もあり、脚本や演出の意図を知ることができたことで、自分がそのシーンでなぜ感動し心打たれたのか、涙が止まらなかったのかを深く考え、詳細に記憶に残すことができた舞台となった。



プレミア音楽朗読劇 VOICARIONとは

音楽と物語が絶妙に絡み合ったオリジナル音楽朗読劇創作の第一人者である藤沢文翁が原作・脚本・演出を手掛け、東宝株式会社とタッグを組んで贈る、「超豪華キャスト×生演奏による美しい音楽×上質な演出」三拍子を揃えた音楽朗読劇シリーズ。
“必ずもう一度観たくなる”をコンセプトに、他に追随を許さない、この上なく贅沢な音楽朗読劇。
https://www.tohostage.com/voicarion/

スプーンの盾 ストーリー

フランス革命のあと、二人の無名の男が帝王となった。
一人は言わずと知れた皇帝ナポレオン・ボナパルト。そして、もう一人は料理の帝王と呼ばれるアントナン・カレーム

この時代、王侯貴族たちは料理で饗(もてな)し説得するいわゆる料理外交が頻繁に行われていた。

この物語は料理の力で、血の一滴も流すことなくフランスを守った人々の世界一美味しい戦争の物語。
https://www.tohostage.com/voicarion/2022spoon/story.html



出演キャスト

鑑賞(拝聴)した各日程の出演キャストは以下の通り。(敬称略)

4/2 大阪昼公演キャスト
カレーム:下野紘
ナポレオン:山口勝平
マリー:朴璐美
タレーラン:諏訪部順一

4/3 大阪昼公演キャスト
カレーム:津田健次郎
ナポレオン:中井和哉
マリー:沢城みゆき
タレーラン:諏訪部順一

4/23 東京夜公演キャスト
カレーム:諏訪部順一
ナポレオン:山口勝平
マリー:日笠陽子
タレーラン:平田広明

4/24 東京夜公演キャスト
カレーム:中村悠一
ナポレオン:中井和哉
マリー:沢城みゆき
タレーラン:平田広明

※他の日程での出演キャストはこちら


登場人物と関係性


アントナン・カレームは、とにかく純真に料理が大好き。自由な発想を持ち、料理のことならアイデアがどんどん湧いてくる。たまにまわりが見えなくなるくらいはしゃぐ様子は少年のよう。弟子である盲目の少女マリーのことをとても頼りにしていて、

マリー・グージュは、カレームを料理の天才だと尊敬し、しかし、自分がカレームにとって必要な存在なのかと悩みながらも、しっかりものの彼女は姉のように、時には母のようにカレームを支えます。

ナポレオン・ボナパルトが皇帝と呼ばれる少し前のお話。戦争のことで頭がいっぱいのナポレオンは、それ以外のことはまるで興味がなく

ナポレオンの腹心である外交官のモーリス・ド・タレーランは、ある日カレームの料理を食べ料理外交を思いつき、彼を専属料理人として雇うことになるところから、物語が始まります。


印象に残ったセリフやキーワード


マリー:「じゃあ、いただきます。 …美味しい」
物語は、慌ただしい厨房で交わされるカレームとマリーの会話シーン。まかないをカレームから譲ってもらったマリーの一言。この言葉をきっかけに流れる音楽で、客席がVOICARIONの世界に包まれる。



少年カレーム:「みんなお腹が空いてるんだ、だから不安なんだ」

少年カレーム(マリー役キャストが兼役)が、ナポレオンに語る過去。今だから笑って話せることも、当時は空腹で生きることに必死で、寂しくて寂しくて…。その思いが、抑えられず溢れるように言葉の中に込められていて、これがカレームの考えの原点か…と、切ない想いで心が締め付けられる。

10歳で路上に捨てられたカレームが、どんな気持ちで街や人々を眺めていたのか。そして彼を救った固いパン。ナポレオン自身も戦地で生き残るために貪り食べた固いパン。このパンの美味さを理解できない人には、どんな料理を出しても本当の味を知ることができない、“人生は固いパンの上にある” この想いが、まるで正反対だった2人を繋げていく。


マリー:「あなたのことなのに、アントナン・カレーム」
カレーム:「君も、神様がこの世界に隠したイタズラなんじゃないかな」
別々のシーンでのセリフですが、マリーはフェンネルの花言葉を用いてカレームに敬意を表し、カレームは神様のイタズラの話で、マリーを大切に思う気持ちを伝える。
自分は本当にここに居ていいのか…そんなことを考えるマリーに、「この世界の殆どのものは食べられないのに、神様は至る所に宝物(美味しいもの)を隠した。それはイタズラかもしれない、でもそのおかげで自分たちはたくさん笑顔になった。」と、料理人としての考えを交えながら話すカレームの言葉は、彼女の成長を願う優しさで溢れていた。


ヴァーミセリのコンソメポタージュ
会話の中に、ナポレオンとカレームの重ねた時間を感じることができる。ナポレオンが初めてカレームの料理を褒め、カレームはそれをとても嬉しいと喜び、自由も平等も博愛も、このブイヨンの中には自分たちが生きている時代の全てが詰まっていると話す。
血を一滴も流すことなくそれを作ってしまうカレームに、ナポレオンの本音を聞くことができる、数少ないシーン。

ナポレオンもタレーランも、カレームとマリーがいる厨房でなら、すんなりと本音を話すことができる。彼らが作る料理が2人のお腹と心を満たし、素直さと優しさを引き出していくように感じた。


マリー:「その宝物を探すために生まれてきた。だから、傷つけないで」
マリーがタレーランに語る、カレームとの出会い。
カレームがいかに純粋で、どんなに料理を愛し、どんな人物なのか。天才という一言では語りつくせない。だからこそ、そんなカレームをこれ以上傷つけないでほしいと訴えるマリーの想いが切なくて、真っ直ぐで、涙が止まらなかった。



タレーラン:「タレーランだ、コルシカの田舎者が」
戦争に私怨を挟み始めた皇帝ナポレオンと完全に決別してしまったタレーランは、彼と出会った日のことを思い出す。
そこでタレーランが、最後に独り言のように呟くこのセリフは、タレーランがナポレオンと出会い、どんな関係を築き、彼をどんな風に思っていたのか…戦友であり、同志であり、かけがえのない友、だからこそどうしてこんなことになってしまったのか…という、複雑な想い。



カレーム:「フランスを守るのだろう、貴様は誰だ!」
カレームがタレーランを鼓舞するシーン。その言葉は、カレーム自身がタレーランに心を突き動かされたものと同じ。
戦争に負け、外交カードがないフランスはもう無理だと言うタレーランに対して、まるでナポレオンがそこにいるような口調で、自信を与えていくカレームの声はとても頼もしく、行進曲のような音楽の相乗効果もありワクワクして気持ちが高まっていく。



タレーラン:「私たちは、同じ時代と言う名の食卓を共有する家族」
タレーランがウィーン会議でヨーロッパから集まった要人たちに語るシーン。タレーランの中で、これまでのナポレオンとの記憶がカレームの言葉と共に蘇る。忘れてはいけないこと、アントナン・カレームがいたからこそ思い出せたこと。
フランスを守りたい、これからもずっと一緒に歩んでいきたい、歩んでいけるよう努力をしていきたいと、タレーランが声を枯らし、心から訴える。
その光景が、今の時勢と重なってダイレクトに心に刺さった。


幽閉されたナポレオン、とそこを訪れたマリーの最後のシーン。マリーが、カレームから「(ナポレオンが)きっとお腹が空いているだろうから」と申しつけられた料理が出来上がる。
カレームに出会う前「食事など、口から入って腹を満たせば良いもの」と言っていたナポレオンが、その料理を口にし顔を上げて呟いた一言は、心がほっとして、満たされた気持ちになった。



後編では、私が思う藤沢朗読劇の魅力を語ります。
心を満たす朗読劇、スプーンの盾(後編)


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