読書備忘録第11回 鶴屋南北の殺人 芦辺拓著


 2023年9月6日、読了。
 今年の夏の暑さは酷かった。この夏の事を思い出す度に、芦辺拓先生の著作を涼しいマクドナルドに持ち込み、アイスコーヒー一杯で粘りながら耽溺した事を思い出すと思う。
 今、これを書き足しているのは、2023年9月22日で気温が落ちたら、落ちたで気が落ちて、脱力してしまった。
 「鶴屋南北の殺人」を読み返しながら、その仕掛けに驚嘆。寄木細工のような世界に耽溺した。逃げる所は物語の世界に限る。誰にも迷惑をかけない。

 最初、未発表の鶴屋南北の下書きが見つかり、その下書きを元にした脚本を洛創大学の虚実座という舞台で上演、その準備中に殺人事件が起こるという出だしを読んだ時、J・D・カー「帽子蒐集狂事件」を思い出した。あの作品も。エドガー・アラン・ポーのオーギュースト・デュパンの第四の短編が発見されてと言う発端だった。
 ただし、「帽子蒐集狂事件」の場合、その第四の短編が暖炉で燃やされるというオチがあったように思う。もう、40年以上前に読んだミステリだから、細部が抜け落ちているが、これは鮮明に憶えている。

 それの本歌取りかなと思ったら、違っていた。

 鶴屋南北の未発表の下書きがどのようにして「描かれたのか」と言うなりゆきが挟み込まれる。文政八年、江戸・堺町中村座から始まる。

 語り手は花笠文京、鶴屋南北の弟子である。彼の目を通した歌舞伎舞台の裏事情がパノラマが楽しい。

 そして、現代でも殺人事件が次々と起こり、鶴屋南北の未発表の原稿が絡み、やがて、それがシンクロ、「銘高忠臣蔵妖鏡」が実はと言う展開…

 うっかり、粗筋を全て書いてしまい、削除した。

 一言で言えば、森江俊作が幻視する鶴屋南北に謎をかけられてと言う時間のジャンプが楽しい。

 殺人事件も起こりトリックも出て来るが、語り口のトリックというか、ツリックが楽しい。

 江戸時代であるに関わらず、時間と地球を俯瞰する視点が凄い。

 今年の夏を思い出す度に、この本を想い出すと思う。

 楽しい時間がった。

 

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