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Dear Grower #010 Juan Ramón Brumas del Zurquí(Brumas del Zurquí, Costa Rica)

ファン・ラモンさんは革命家だ。というと驚くかもしれないが、もちろんコーヒーに関しての話だ。彼が起こしたのは“マイクロミル革命”。コスタリカにおけるコーヒー生産のあり方と品質を方向転換させる大きな流れをつくった。その先駆者のひとりがファン・ラモンさんなのだ。コスタリカは、かつては典型的なコマーシャルコーヒーの生産国だった。コマーシャルコーヒーとは、様々な農園の豆が混ぜられ味と品質が均一化されたコーヒーのこと。小規模農園が収穫したコーヒーチェリーが地区ごとに集められ、混ぜられたものがメガミルと呼ばれる巨大な生産処理場で一括処理されていたのだ。それが国あるいは地区ごとにブランド化され売買される。均質でリーズナブルなコーヒーを大量に流通させるのには適したやり方ではあった。

そんな量を求める仕組みの中で起こったのは、メガミル間でのチェリーの取り合いだ。より多くのチェリーを集めたメガミルが生き残り、そうでないメガミルは倒産した。ますます集約化が進む中で、生産者は疑問を抱くようになる。どんなにいいコーヒーを栽培しても、他の豆と混ぜられることが前提では報われないからだ。また、それと並行して、農園ごとにフォーカスして高品質な豆を評価するスペシャルティコーヒーが世界的に広まっていた。それならば!と小さなミルをつくり、自分で生産処理を行おうという生産者たちが現れた。ファン・ラモンさんもその一人だ。栽培から水洗処理、乾燥までをすべて自分で行うことで、その農園ならではの高品質なコーヒーを高価格で売ることができる。マイクロミル革命の始まりだ。

それまで均質化されていたコーヒーが農園ごとに個性を発揮し出し、名も知れぬ小規模生産者が品評会で高い評価を得るようになった。生産者のモチベーションは上がり、品質がどんどん高くなるという好循環が生まれた。そんな中でファン・ラモンさんは苦戦する。自らが起こした革命によって、皮肉にも多くのライバルを生み出してしまったのだ。それでも彼は前を向いていた。ファン・ラモンさんは革命家である以前に、農学博士なのだ。

ファン・ラモン・アルバラードさん

農園の標高がライバルたちより低い。コーヒー栽培にとって圧倒的不利と言えるこの条件を、彼は農学的アプローチで覆そうとした。いま各国の生産者が行っている実験は、ファン・ラモンさんがすべて先にやっている。そう言われるほど、あらゆる可能性を模索した。そしてついにハニープロセスという生産処理方法を確立し、2012年にはカップ・オブ・エクセレンスで優勝する。ライバルを含めた多くの生産者が、まるで自分のことのように喜び彼を祝福した。研究で得たノウハウをまわりの生産者に惜しみなく伝授し続けていたファン・ラモンさんは、英雄なのだ。いまコスタリカではハニープロセスが普及し、高品質コーヒーの生産国として知られるようになった。もちろん、かの英雄が広めたのだ。

引用:Beans Menu  2018.01 より


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