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謝罪の効用(チープトークではだめ)

目次

0.列車遅延での安易な謝罪の例
1.チープトークv.s.効果的な言葉での謝罪
2.言葉の謝罪で効果がある場合(1)間接的コストの支払い
3.言葉の謝罪で効果がある場合(2)丁寧に謝る
4.さらに:相手のことを考えてきちんと対話する
5.さいごに:直近の事例にかんがみて

0.列車遅延での安易な謝罪の例

私は長年通勤にJRを使ってきましたが、ここ数年は列車遅延が無い日は珍しい、と思えるほど遅延が多くダイヤがあてになりません。その都度、車内放送や駅での録音済み放送で、
「○○で大幅な遅延となり、ご迷惑をお掛けして誠に申し訳ありません。」
と流れます。○○部分は、「人身事故」「線路内人立ち入り」「異音調査」「車両事故」など様々です。しかし、本当に申し訳ないと思っているのかな、と疑問に感じる場合が殆どです。

謝罪発言だけではなく、
・復旧見込みがあるのか否か?
・それはどの位の時間が掛かるのか?
・振替輸送は何線(バス等)を使うところまで認めるのか?
・遅延証明書はどこで配るのか?
などなど知りたい情報は多々ありますが、満足する内容を伝えられることは稀です。

今の時代はビッグデータの活用で、これこれこういう理由ならば平均的にこの位の時間が復旧にかかる、という統計データが使えます。一時期、こうした「復旧予想」を放送していましたが、それも止めてしまったようです。
(地下鉄などでは流れているようです)

1.チープトークv.s.効果的な言葉での謝罪

かなり前ですが、チープトークについて分かりやすい新聞記事が出ていました。
(2017年8月10日.日経朝刊「謝罪の経済学(上)社会的費用下げる効果も」
 大阪大学・大竹文雄教授)

金銭的・非金銭的な負担を伴わない謝罪はチープトークと経済学で呼ばれるもので、もともと関係者の利害が一致する部分があるような場合を除いては、相手に信頼されないと考えられている。理論的には言葉だけの謝罪そのものは効果がないはずなのに、実際には効果的な場合があるのはどうしてだろうか。」

2.言葉の謝罪で効果がある場合(1)間接的コストの支払い

この例として大竹教授は、芸能人が不祥事を起こしたときに、謝罪会見だけでなく活動停止などの「自分の収入を減らしてでも、謝る姿勢を見せていること」をあげています。

しかし、これだけで説明のつかない、「謝罪の受け入れられ方」があると言います。

3.言葉の謝罪で効果がある場合(2)丁寧に謝る

簡単に言うと「過ちを犯した(と考えられる)場合、誠心誠意謝る」ということです。

例として、ネットショップへの顧客クレームに対する謝罪として、
・「お詫びの印として5ユーロ支払うので低評価を取り下げてくれないか」
と頼むよりも、
・「配送が遅れ申し訳ございませんでした。私どもの会社への入荷が遅れたのが原因ではございますが、謝罪致しますので、あなたの低評価を取り下げていただけないでしょうか」
と頼む方が、受け入れ度が高いという研究結果(スタンフォード大学)があると言います。

この点について、私の考えでは、
・過ちを犯した(と考えられる)場合
は、故意や過失に留まらず、不可抗力であっても「誠心誠意、謝る姿勢を見せることが肝要だ」と思っています

前述JRの例だと、列車遅延の原因に関して、どこか他人事(不可抗力である or 他者の責任である)の考え方の下で対応をしているように思えてなりません。
「列車が遅れているのは、人身事故のためですが、過去の同様のケースでは mm 分程度で復旧しているので、未確定ではあるけれども何卒ご不便をご容赦ください」
と一言あるだけでも、今後の代替手段を考える乗客の不満は相当軽減されるはずです。

4.さらに:相手のことを考えてきちんと対話する

さらには、私が思うに、真剣に謝る姿勢があるならば「相手の身になって考えて、対話をする」ということが必須要件だろうと考えます。

よく企業の不祥事記者会見で、代表者(多くの場合は代表取締役)の横に弁護士が張り付き、
・法的に責任追及されないように目を光らせている。
・事前に弁護士から想定問答を渡され、謝罪よりも言い逃れに聞こえる。
・質疑時間を自己都合で決めて、会見途中で打ち切りする。
などの対応で、火に油を注ぐようなネット炎上になることも最近は多いです。

これは謝罪対応という面だけではなく、企業の信用度という点でレピュテーションリスク管理ができていない最悪の事例だと思います。
(企業の信用やブランド価値が低下し損失を被るリスクを考慮していない)

もちろん、軽はずみに何でもかんでも「申し訳ありませんでした」と謝るのは、前述のチープトークそのものなので、逆効果です。さらには、本当に訴訟などの責任追及問題にも発展しかねない、というリスクもあります。

しかし、謝罪の多くの場合は、代表者や管理者が行います。あるいはその指示で、現場で担当者が行います。上に立つ者は、こういう場合に適切な対応をするために居るといっても過言ではないでしょう。

5.さいごに:直近の事例にかんがみて


つい昨日(2023年6月3日)も、台風の影響で本州に線状降水帯が発生し、記録的な大雨となり、東海道新幹線が途中駅に止まったまま運転中止となりました。

ネットなどの報道を見ると、途中駅で止められた状況に対して、車内放送や駅の放送で、
「運転中止が決定されました」
「駅の近くのホテルは満室とのことです」
「近くのコンビニは歩いて10分掛かります」
「このまま車内で一晩過ごせるかどうかは分かりません」
などと伝えられて、乗客が激怒した、とのことです。

最終的に車内で夜明かしできることとなり、車内に残った乗客には深夜に水と食料が配られたとのことです。
(ただ、この非常食が賞味期限切れだったことで更なる批判も出ています。私は、消費期限切れではなく、味もおかしくないならば、そこまで批判されるものではないと思います。ただ、管理が杜撰だなとは感じます)

やはりこういう場合は、
「近くのホテルは満室、近くの店は徒歩10分ですが、車内に残れるよう検討を始めています」「非常食の準備もあるので、早急に配布を考えます」
など分かる範囲で乗客を安心させるべきだったのだろう、と思います。


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