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大企業でしか働いたことのない40歳オッさんがスタートアップへ行った話

スタートアップには興味あるけど、今さらなぁ…とか
自分はもう若くないので、スタートアップなんて無理だよな…とか
そんな環境で自分がやっていけるか不安だ…とか
そんな風に思っている方、きっと多いんじゃないだろうか。

最近はずいぶん市民権を得てきたものの、なんだかんだ言ってもスタートアップへ転職する人ってまだまだ少ない。

そこで転職経験はあったものの大企業でしか働いたことのなかったオッさんが、スタートアップ的な環境へ行っても何とかなったよ、という話を書いてみようと思う。

結論を先に言ってしまえば、

人間その気になれば何でもできる。
追い込まれればどうにかしようとする。そしてどうにかなる。

これに尽きる。

むしろ40くらいのオッさんなら、どうにかできる度合いは意外と大きい。

という激励のメッセージを「自分はもう若くない」「自分には無理なんじゃないか」と思っている同士へ送りたい。
この投稿で「自分もちょっとチャレンジしてみようかな」と思う人がひとりでも生まれたら、とても嬉しい。


典型的な大企業人だった

私のバックグラウンドはこんな感じだ。

日系大手SIer(当時でも単体の従業員数が1万人以上)→ MBA → 世界3大戦略コンサルティングファームの1社(日本オフィスは数10人だが世界で5,000人規模)→ 世界で一番大きい外資系ソフトウェア会社の日本法人(2,000人規模)→ その本社(世界で13万人くらいの社員)→ さっきの外資系ソフトウェア会社の日本法人に戻る → 41歳で創業間もないSaaSスタートアップへ転職

我ながら割りとイケ好かない感じのキャリアだと思うが、そこはスルーしてほしい。
ポイントは「ザ・大企業の歯車」ぽい仕事しか経験したことがなかったということだ。
そんなオッさんが40を過ぎて、アーリーステージのスタートアップぽい会社に転職した。そういう道もアリだよという話をしたい。

*スタートアップの定義はいろいろあると思うが、ぽいと書いたのは、例えば開発メンバーは既に十分整ってたとか、資金調達の不安がなかったとか、その辺のことを考慮すると「スタートアップじゃねーじゃん」というツッコミは十分成り立つと思うから。この投稿は「起業」の話ではないし、スタートアップ論を語るつもりもなく、さぁ会社・サービスをはじめるぞ、というタイミング、事業のアーリーステージだったという観点に重きを置いている。

私が転職した当時の会社(日本法人)はまだ10名いるかいないかという状況。
ちなみにプロダクトの原型はあったが、世に出そうと思っているプロダクトはまだ開発中だった。会社のウェブサイトも公開前。ビジネスサイドは、社長と、営業1名、マーケ1名、BizDev1名だけ。
ここに、プロダクトマーケ責任者(私)、プロダクトマーケメンバー、カスタマーサポート責任者の3名がほぼ同時に入社した。

こんな状況だったので、割りと勇気のいる転職だったが、思い切って飛び込んでみて、本当に良かったと思っている。
そして、意外と「アリ」じゃないかと思うし、「オッさんほど何とかできる度合いが大きい」と思っている。

転職前の私と同じように新しい環境に飛び込むことに思い悩んでいる人に、なぜそう言えるのかを伝えるのがこの記事の趣旨だが、まずはこの会社で私が体験したことを列記してみる。


やることなすこと、ほとんど初体験

そもそもプロダクトマーケなんてやったことがなかった。もうね、いきなり丸っと初体験。
(たぶん採用を間違えたんだと思う)

責任者なので、プロダクトの仕様を決めるとか、開発の優先順位をつけるという意思決定をたくさんすることになった。
最初は「萩原さん、こういう機能なんですけど、コレとコレどっちがいいですかね?」みたいな感じで聞かれたので、ちょっとした相談だと思い、「うーん、日本のお客さんはこういう行動を取るだろうから、コッチの方がいいんじゃない」と軽く答えた。
「わかりました」と言って席に戻ろうとするので「え、ちょっと待って。もしかして、いま仕様を決めた?」「はい」みたいなやり取りになりビビった。
もう一度ちゃんと考えても結論は変わらなかったので「うん、やっぱりそれでOK」と伝えたが、『おぅ、そういう仕事か』と震えた。入社2日目くらいだったと思う。
SIで特定顧客向け一品モノの仕様を決めることなら10年以上前にやってたが、クラウドサービスなので幅広い顧客ニーズに合致するかどうかを考慮しないといけない。ちなみに顧客はまだいない。

次に震えたのは「萩原さん、責任者なんで利用規約作ってください」という依頼が来たときだ。入社1週間くらいだったと思う。
「え?俺?」
たしかに周りを見回しても誰も作れる感じがしない。
『やるしかねぇ…』

といっても完全にゼロからではなく、ベースとなる案はあったし、幸いにも法務レビューを受けられる体制はあったので助かった。
競合・類似サービスの規約を参照したり、10年くらい前に読んでた百式(IDEA*IDEAだったかな?)で田口さんが「Webサービス作る人は全員これ読んどけ」って推奨してる本があったな、と古い記憶を引っ張り出し、amazonですぐにポチった良書改訂新版が出てるみたい)を参考にしたり。

やるとなったら、こだわりたくなる。原案では利用者だったか甲乙だったかそんな記述だったものを、いやいや「お客様」でしょ、と変えてみたり。何度か改訂を繰り返しているが、当時のこだわりは今でも残っている。

そうこうしていると、1週間後にファーストユーザーになってくれる確度の高い企業の役員アポが取れたと。「萩原さん、そこでプレゼンとデモやって」という社長の依頼。いわゆる顧客役員向けプレゼン&デモ

プロジェクトリーダーとか戦略コンサルとかやってたので、顧客企業の偉い人の前でしゃべった経験はあったが、いわゆる製品デモをやるのは人生初体験。しかも、相手の役員は即決タイプとのこと。
『やるしかねぇ…』

この辺の経験が豊富だったメンバーがいたのは本当に心強かった。彼に全部お願いして作ってもらったデモシナリオとデモ環境は素晴らしかった。なるほどデモシナリオってこういう風に作るんだ、と学んだ。
限られた時間で、まだ世にない(というか自分もまだ全容を把握していない)プロダクトの魅力を伝えられるよう、プレゼン作って、必死で週末に家で練習しまくった。西脇さんの本を何度も何度も読んで練習した。
幸いにも即決してもらえてホントに良かった。

長くなってきたので、適当に読み飛ばしてもらっても構わない。

・正式リリースにあたって、メディアを呼んだ記者発表会でプレゼンとライブデモをやった。もちろんそんなのやったことない。人生初の経験だった。
今考えると、かなりリスキーなデモにチャレンジしてた。

・メディア発表会でファーストユーザー、ファーストパートナーの方々のメッセージを動画で流そうという話になり、なぜか私が撮影しに行って、私が自宅で編集した動画を流した。今考えると無茶にもほどがある。

・正式リリースにあたって、プロダクトのキャッチコピーを作った。もちろんそんなのやったことない。人生初の経験だ。
(その後お客さんが「あれ、いいコピーですね」と言ってくれたと聞いて、泣きそうになった)

・正式リリース前にはパイロットカスタマーを見つけるため、リリース後は実際に売るため、プリセールスもたくさんやった。若いときに多少の経験はあったが、本格的にやるのは初めてに近かった。

・リリース後もPMFを検証する必要があったので、どういう顧客層が買ってくれているのかインサイトを得るため、初期ユーザーに自分でメールを送ってインタビューを申し込み、ヒアリングを重ねた。
導入事例づくりも最初はすべて手作り
だった。自分で写真を撮り、記事を起こした。もちろん初体験だ。
(実は今でも公式サイトに掲載されている事例のいくつかは私の手作りだ。なかには私が撮った動画もある)

・顧客インタビューやプリセールス活動を通じて、顧客にとってこのサービスはどんな価値を提供しているのかを定義したり、顧客をどういう軸でセグメンテーションしたらいいかを考えたりStartup Owner’s Manualで学んだことを実際にやることになるとは思ってもみなかった。

・販売パートナーさんに依頼されてセミナー登壇をたくさんやった。たぶん社員のみんなは知らないが、これも初体験だった。
また、西脇さんの本を何度も何度も読んで練習した。
(集客目標20名、行ってみたら参加者3人という経験もした。いい思い出だ)

・サービスを広めたい一心で勇み足をしてしまい、お客様にめちゃくちゃ怒られた。詳しいことは書けないがw、仲間にものすごく助けられた。けん責処分にちょっと詳しくなった。

プロダクト紹介動画も作った。アニメーションものと、役者さん入れたものと。予算がなかったから早朝から深夜までで一気に撮影。シナリオ作りから当日の撮影立ち会い、演出の確認やディレクションなんかもやった。しつこいが、もちろん初体験だ。
(スタッフと役者さんがものすごく頑張ってくれたおかげで、ものすごくいいモノができた。思い出深く、大好きな作品だ)

・お客様から大クレームを頂戴し、この会社のファースト謝罪レターを作り、謝罪訪問にも行った。そもそも謝罪訪問も初なら、責任者として訪問するのも初だった。
幸いにも謝罪訪問はそれほど多くないので、まだまだ経験不足だ。

サービストラブルや社内オペレーションミスへの対応で、会社としての方針を決めたり、事後処理をしたりなんてことも初めての体験だらけだった。

電車の車内広告、TVCMの制作にも関わった。さすがにこれはプロの世界なので、代理店や経験者の力をたくさん借りたし、社内でも多くの関係者が意思決定に関わった。
これまた社内の人間は知らないかもしれないが、純広告を作ったのもこの会社での初体験のひとつだ。フィールドマーケをやってるとプロモーション系のキャンペーンやらリード獲得施策やらはたくさんやるけど、意外と純広告はやらないので。
そして、オフライン広告での効果測定の難しさも嫌というほど体感した。

・そういえばタイアップ広告もかつてはチームメンバーがやってくれてたけど、1から10まで自分でやったのはこの会社が初めてだ。今じゃオンライン広告の運用までやってる。あ、GAを触ったり、Marketo触ったりとかも初めてだ。

オッさんがチャレンジした方がいい理由まだ?となっているだろうが、ちゃんとあとで回収するので、もう少し付き合ってほしい。

会社を作るという観点でも初体験の連続だ。

毎月入ってくる新入社員向けのトレーニングを整えた。募集要項を整えたり、採用ページも作った。

・ウチの会社は、外資系にありがちな「本社からのガイドライン」がほとんどないので、何かをやるときは目の前のタスクのことだけじゃなく、将来の汎用性を考えて、自分たちでポリシーを決めたり、ガイドラインを作ることになる。不案内なトピックだろうがなんだろうが決めなきゃいけないから、とにかくその時点での最適解を考えて決める、ということが多い。
社内の承認プロセスから、予算・目標の妥当性、給与体系に至るまで、この会社の、その時点での最適解を考えて決めていく、の繰り返し。

・直近では、会社のミッション・ビジョン・バリューを作った。 ウチの会社らしいモノになったと思っていて、けっこう気に入っている。


未経験・初体験だらけでも何とかなった理由

もちろん未経験・初体験のことをやるのは大変だったし、満足のいく結果がすぐに出たわけではないけれど、想像していた以上には何とかなったような気がしている
それはなぜだろうと考えてみた。

1つめは、会社員を20年もやってれば、どの仕事もたいがい「横目で見たことがある」。隣の人、隣の部署、隣の隣の部署。これまでの職場で、誰かがやってた仕事だ。本当にまったく見たことも聞いたこともない仕事、というのは、それほど多くない。
私も「これってあの部署がやってた仕事だよな。あの人たち、何やってたっけ?どんなアウトプット作ってたっけ?」と考えることがヒントになった。
だから、年を重ねていればいるほど、大企業でいろんな部署の人たちと仕事してきていればいるほど、それが役に立つ。むしろ大企業であればあるほど、他部署の人たちはその道のプロだ。
なんならプロである前職の知り合いに聞きに行けばいい。

2つめは、何かやるときには「巨人の肩の上に乗る」という考え方ができたから。

「巨人の肩の上にのる矮人」という言葉は、西洋のメタファーであり、現代の解釈では、先人の積み重ねた発見に基づいて何かを発見することを指す。

別の言い方では、Don’t reinvent the wheel. とも言う。

車輪の再発明(しゃりんのさいはつめい、英: reinventing the wheel)は、車輪を題材にした慣用句であり、世界中で使われている。「広く受け入れられ確立されている技術や解決法を知らずに(または意図的に無視して)、同様のものを再び一から作ること」を意味する。

要は、全部自分で考えようとするな、ということ。
自分がすごい人でなくても、これまでの先人の知恵を使えば、平均点以上を出すことはそれほど難しくない。
実はこれ、コンサルタントが日常的にやってることだ。

そして、社会人経験が増えると、たぶん日常的にこういう思考になる人が多いと思う。それ誰かがもうやってるよね。それを参考にしよう、と。
私の例で言うと、利用規約の作成なんかはまさにコレ。すでに世の中にはゴマンと先例があるわけで、その中で良いものを参考にする。注意すべきポイントなんかも書籍にまとまってるので、それを参照する。
あとは自社の固有事情を加えれば、もうほぼ完成形だ。

3つめは、ちょっと個人に依存するかもしれないが、個別の事象・状況を汎用化して考えられたから。
AがBということは、つまりCがDということなんじゃないか!?みたいな考え方。メタ思考とかモデル化とか言われるもの(たぶん)。
例えば、A社がこう言ってた。B社は違うことを言ってた。C社はこういう反応だった。それぞれ言ってることは全然違うけど、A社とC社がこう言ってるということは、Xという特徴を持つ顧客(セグメント)はこういうところにポイントを置くんじゃないか。一方でB社はXではなくYという特性を持ってるからこう言ってるんじゃないか。
そんな類推も、社会人経験が長いと、やりやすい気がする。なぜなら、顧客企業の特性を幅広く捉えられるから
自社サービスに関連する特性だけじゃなく、昔から営業がイケイケだとか、社風が固いとか、長期の投資を考えるビジネスモデルだとか、そういった周辺情報をオッさんは多く持っていたりするもんだ。


スタートアップは総合格闘技

スタートアップやスモールビジネスは総合格闘技みたいなもの、なんて話は、もう20年以上前に三枝匡さんが言っていることだ。

まったくその通りだと思う。少人数で何でもやらないといけない。つまり、あなたができることが多ければ、会社としてできることが多くなる。個人の仕事と会社の仕事が直結している。あなたができることが多ければ、会社や事業が成長する可能性も高まるのだ。

スティーブ・ジョブズでなくても、やってきたことがいつかどこかで急につながることはある

自分が責任者になっちゃったらどうするだろう?と考えておけば、いざという時に応用が効く。

もしあなたが社長や責任者になったら、「いや、それは自分の仕事じゃないんでわからないです」とは言えないし、「その辺のこと、今までやったことないから、わからないんだよね」なんて言ってられない。


大企業で学べることはたくさんある

社内の会議で、自分の仕事に関係ないから聞かない・内職するという姿勢でいると、実はものすごい機会損失になっている。
将来あなたが急に「やって」と言われる立場に置かれたら(見てのとおり、スタートアップというのは常にそういう環境だ)、「あー、あの時あの人の仕事、ちゃんと見ておけば良かった、聞いておけば良かった」ときっと思うはずだ。

だから、他部署の仕事にも興味を持つといい。むしろ大企業だからこそ、周りの部署の人はその道のプロである可能性が高く、その人たちが何をしてるのか、どんなアウトプットを作ってるのか、どんな判断をしているのかを知っておいても損はないと思う。

「ここでは部分的な仕事しかできない」「自分は組織の歯車でしかない」
大きな組織で働いていると、自分の仕事をそんな風に矮小化して考えがちだが、それも気の持ちよう、アプローチ次第ということも多いと思う。隣の人がやってることを見ているだけ、聞いているだけでも、十分インプットはできるし、それがいつどこで役に立つかわからない。

なぜなら、やってきたことは急にどこかでつながるから

この状況・課題なら「何を考えなきゃいけないか」を考えるクセがついていると、未知の状況で情報が少なくても何となく類推できる。
例えば、お詫びレター作るなら、中身はさておき、状況と発生した事象の整理、事象が発生した原因、対処状況、再発防止策、補償の要否・可否といった要素をまとめるんだな。
そういうことを知っていれば、パニックにならずにすむ。それを知るのに大きな組織はとても良い。


オッさんになってもチャレンジしようぜ

やってきたことがいつかどこかで急につながる。
オッさんになれば、やってきたことが多い分、なおさらだ。

大きな組織で酸いも甘いも経験してきたなら、いろんなところで応用は効くはず。
チャレンジやスタートアップが若者のモノなんてイメージは、実はシリコンバレーのVCのポジショントークによるものだ。そもそも千三つの世界なので、人数が多くて(USは少子化じゃない)、無理がきく(家族に割く時間が不要な)若者に頑張ってもらう。そういう若者をたくさん作って、そこから選りすぐって投資したら成功確率が上がる。ただそれだけの話だ。
実際には、起業の数は20代より40代の方が多いし、成功率も高いんだ。


安藤百福さんがチキンラーメンを完成させたのは48歳、カップヌードルを作ったのは60歳くらいだ(まんぷく、面白いよね)。


ちょっと話がズレた。
なにも「起業しろ」と言っているわけじゃない。起業するとなると、もっと別の要素が大事になるのは当然だ。
でも、そこまでいかずとも『それはちょっとチャレンジだなー』と思うようなことを、オッさんになっても、もっとやってみてもいいんじゃないかな。
そういうオッさんが増えてきたら、いろんな道が広がりそうだし、日本社会も良くなるんじゃないかな。

だって、人間その気になれば何でもできる。
追い込まれればどうにかしようとする。そしてどうにかなる。
むしろ40くらいのオッさんなら、どうにかできる度合いはとても大きいから。


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(追記)「そもそもなんでスタートアップに行こうと思ったのさ?」という反応が多かったので、続きを書きました。



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