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パナマの事件について背景を調査してみた。


先日このようなツイートをした

しかし、このデモの背景について細かく語ったものがみあたらなかったので調べてみた。

パナマ地理

パナマの広さ 75,520 km²
    目安 北海道ぐらい。
人口 431万人
    目安 福岡県くらい。
国民一人当たりのGDP 15,878ドル(世界57位/198国中)
    目安 中欧の国クラスの豊かさ
貧富の差ランキング 世界17位/151国

パナマの歴史

1808年 大コロンビア(今のベネゼエラ、コロンビア、エクアドル、パナマ全土とガイアナ、ブラジル、ペルーの一部)としてのスペインからの独立。

1831年 大コロンビアから今のコロンビアが独立。当時パナマはコロンビアの一部だった。

1903年 アメリカの画策によりパナマがコロンビアより独立。パナマ運河地帯と呼ばれる部分がアメリカの永久租借地となる。

点線内がパナマ運河地帯。パナマ運河を中心に両岸8km

1914年 パナマ運河完成
1930年~ パナマ国内にナショナリズムが勃興
1979年 アメリカや国内の長い争いを経て1999年にパナマ運河がパナマに返還されることとなった。主権の復帰。
1999年 ノリエガの軍政、アメリカのパナマ侵攻などを経て民主化。パナマ運河地帯が返還される。領土復帰

パナマの経済

パナマは中学校の社会科でならった通りパナマ運河という世界無二の資源?をもって国を成り立たせている国家だ。

パナマ~運河とともに発展を続ける国

運河を中心とした特徴的な経済構造をもつパナマは,国内総生産(GDP)の約8割を運河運営,中継貿易,金融,観光などの第3次産業が占めます。うち運河の通航料収入は約24億米ドルで,国庫に納付する額は国家予算の約7%にのぼります。便宜置籍船制度によって世界の船舶の約22%がパナマ船籍であることや,コロン・フリーゾーン(免税地帯)が世界有数の中継貿易拠点として発展したことも,パナマに経済効果をもたらしています。

https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/pr/wakaru/topics/vol100/index.html

しかし、国土には開発されていない有力な鉱床がある。

パナマ共和国の鉱業の現状
パナマ共和国の鉱業は1990年代後半にかけて金鉱山やマンガン鉱山で小規模な採掘が行われていた程度と低調であった。しかしながら、パナマは南米から北米にかけて連なる斑岩銅鉱床ベルトに位置し、世界でも有数な未開発大規模銅鉱床が存在する。

https://mric.jogmec.go.jp/reports/current/20110106/1113/

※斑岩銅鉱床ベルトとは

花こう岩質ないし石英閃緑岩質のマグマが地殻浅所まで貫入して半深成岩体をつくる場合,そのマグマ活動末期に生じた熱水により,岩体自身及びその周縁部の被貫入岩は著しく熱水変質を受ける。と同時に,銅を主としモリブデンや金を伴う鉱化作用が変質岩体中で広く行われ,大規模な網状鉱染鉱床(一部鉱脈)が生成される。このタイプの熱水性鉱床を斑岩銅鉱床という。
特徴的なことは,銅や金,モリブデンが低品位ではあるが広範囲に含まれていて,鉱床の規模が極めて大きいことである。

鉱石の銅品位はいずれも0.4~1.0%で低いが,変質岩体の大部分が鉱石となるため,鉱体は直径数100~数1000mの規模を有し,埋蔵量が多く,1億トンないし10億トン,ときにはそれ以上のものもある。一部を除き,ほとんどが露天掘りで採掘され,機械化により大量処理されている

http://www.msoc.eng.yamaguchi-u.ac.jp/collection/origin_14.php

今回の事件

すでに2019年から採鉱が開始されてるドノソ銅山の反対運動が、2022年になって急に激化しており、全土でデモなどが行われている様子。その運動の一環で高速道路が反対運動派に封鎖されて様々な物流上の問題が発生している。そんな中11月7日封鎖している反対派が2名射殺された。

射殺犯について

77歳のケネス・ダーリントン氏
その日、いくつかの用事を済ませていたところ、抗議デモに止められたという。ダーリントン氏はデモ隊の男性グループと口論している。ダーリントン氏は、デモ隊のリーダーは誰なのかと尋ね、男たちは誰もいないと答えたという。デモ隊と対峙していたとき、容疑者は道路の封鎖を取り払おうとポケットから拳銃を取り出し結果的に二名を射殺した。
ダーリントン氏は現在、高層ビルと高級不動産で知られるパナマ・シティのプンタ・パイティージャに住む、引退したアメリカ人弁護士・大学教授と見られている。
現地の報道によれば、彼はパナマのコロン生まれだが、アメリカ国籍も持っているという。また、17年間収監されたパナマ人会計士のスポークスマンを務めていたと伝えられている。捕まったパナマ人会計士、マーク・ハリスは2004年にマネーロンダリングと脱税で有罪判決を受けている。
同容疑者はまた、2005年にパナマ・シティの自宅アパートからAK-47やM-16など様々な武器が発見され、逮捕された過去もある。しかし、武器はコレクションの一部であったという彼の主張を裁判所が認めたため、無罪となった。

私が調べた範囲では特に背景はなさそう。渋滞が我慢ならなくて撃ったらしい。ただし現地メディアはそう思ってない様子

射殺された二人について

二人とも教師。なぜ教師が?というと抗議行動に教師の団体(ASOPROF)が参加しているからだ。投稿されているツイートを読むと非常にナショナリズムの強い「日教組」の雰囲気を感じた。11月7日の段階ですでに1週間以上学校が休校になっており、80万人の学生生徒が教育ストライキの影響をうけてる

ASOPROFのツイッター

https://twitter.com/ASOPROF30

今回の反対運動について

BBCのとてもいい記事があったので紹介する。

パナマの大規模抗議デモを理解する5つのポイント

数千人のパナマ人がこの10日間、街頭で「この国は売り物じゃない、この国を守るんだ!」と唱和し、中央アメリカ最大の露天掘り銅山を開発するために、国家とミネラ・パナマ社との契約が明示的に承認されたことに抗議している。

民衆の要求は、契約に対する6件の違憲訴訟に対する最高裁判所の判決が判明するまで、ミネラ・パナマ社の業務を停止することである。

抗議行動の5つのポイント

1.迅速すぎる承認法
コロン県に位置するこの鉱床は、1997年以来、国と鉱山会社ペタキージャS.A.との間で締結された契約によって操業されている。
「国は 契約を再交渉したのです」とバンフィールドは言う。
カナダ子会社との交渉は2022年1月に非公開で始まったと彼は言う。そして2023年3月、市民の参加なしに契約が発表された。
これに対し、市民社会は以前の協定と同じ悪徳行為を糾弾し、審議にかけるよう要求した。
新しい鉱業契約では、鉱業会社からパナマ国への最低年間拠出額は3億7,500万米ドルと規定されており、これは以前の契約の10倍にあたる。「大幅な改善だ」とフェデリコ・アルファロ貿易相は擁護した。

2. 主権を守る
カナダ企業ファーツ・クアンタム・ミネロル社の子会社であるミネラ・パナマ社と国家との間の契約は、パナマ人にとってデリケートな問題である、「私たちは、契約の条件によって鉱山が飛び地となる影響を糾弾します。市民は立ち入ることができず、会社はその地域の水を管理する......要するに、これは契約ではなく、条約なのです」と批判した。

3. 環境への影響
紛争の中心となっている鉱山は、ただの鉱山ではない。中米最大の露天掘り銅鉱山である。約12,000ヘクタールを占め、メソアメリカ回廊に位置しているため、保護地域となっている。
サステイナブル・パナマ代表のライサ・バンフィールドは、採掘活動は植生、水質、大気の質に脅威をもたらすと言う。「ハイパーコネクテッド・テリトリーはすべて脆弱であり、自然の富は枯渇したときに私たちに不利に働く可能性がある」と彼女は言う。
パナマ人が採掘を拒否するのは、経済発展モデルの変化を望んでいないからだ。パナマには、エコロジカル・ツーリズム、バードウォッチング・ツーリズム、コーヒー輸出などを発展させる可能性があるのに、採掘主義経済になることを拒否しているのです」。
パナマにおける銅の採掘は、国内総生産(GDP)のほぼ5%、世界生産の1.5%を占めている。

4. 鉱山を超えた不安
銅山との新しい契約である法律406号が承認されたことで、大統領選挙が予定されている来年に任期を終えるラウレンティーノ・コルティソ政府のパフォーマンスに対するパナマ国民の間に蓄積された社会的不満が爆発した。
「この政府は、汚職事件に関する私たちの請願にどう対応すればいいのかわからず、その責任を負うリーダーシップもない」と、弁護士で抗議活動家のアンヘル・オルテガは言う。

5. 抗議デモに対する政府と鉱山会社の対応
ローレンティーノ・コルティソ大統領の提案は、法律406号廃止のための国民投票を12月17日に実施するというものであった。国民投票の発表はパナマ国民に受け入れられなかった。


政府は、このプロジェクトは8,000人の直接雇用と40,000人の間接雇用を創出し、年間3億7500万米ドルを国にもたらすと主張し、このプロジェクトを擁護している。

もし協定が破棄されれば、同国は国際法廷で数百万ドル規模の訴訟にさらされることになる。

https://www.bbc.com/mundo/articles/cl7x74vp7vro

そしてデモのお題目としては環境保護活動になっているらしい。だが本当に環境保護になっているだろうか?こういう意見もある。

銅鉱山の開発に対する抗議活動は、パナマにおける 2 つの環境保護主義間の衝突を示している

抗議活動の反対側には市場もあり、気候変動に反対する運動にも反応しています。炭素排出量を削減するために、多くの国の政治家や支配者は、再生可能エネルギーやよりクリーンな資源を動力源とすることができるため、ガソリンではなく電気で作動する自動車や機械への移行を提案しています。銅はその高い導電性により、このエネルギー転換において重要な要素となっており、そのため需要は 2035 年までに 20% 増加すると推定されています。

それは環境保護主義の衝突だ。天然資源が豊富な国に住む国民は、たとえ採掘活動が環境に利益をもたらす世界的なエネルギー転換につながる可能性があるとしても、採掘活動に起因する生態系の悪化や環境汚染を見たくないのです。

https://elpais.com/america/2023-11-06/las-protestas-contra-la-explotacion-de-una-mina-de-cobre-exhiben-el-choque-entre-dos-ambientalismos-en-panama.html

えすでーじーず(笑)な社会を作るためには銅は必須だ!つまりパナマの抗議行動は環境破壊を守るために環境保護を邪魔してるという話になる。

銅山側の言い分

銅山側が長大な「神話と現実」というページを作って47項目の反論を行ってる。紙背からため息が伝わってくる。
一部を紹介する。

俗説: 「別の川を地下に迂回し、鉱山に水を供給するために、約 15 km のトンネルの建設が始まった。」

事実:川を迂回して鉱山に水を供給するために 15 km のトンネルが建設された、または建設中であるということは真実ではありません。このような規模のトンネルの建設には 10 億ドルを超える投資が必要となるため、この記述は完全に誤りであり、経済的に実行不可能です。

俗説: 「ミネラ パナマはパナマ運河流域からの水を使用しており、それが水がない理由です。」

現実:ミネラ パナマはパナマ運河流域の水を使用していません。亜流域間の距離は 60 キロメートルです。

通説: 「ミネラ・パナマが行った活動は、私たちの領土が鉱山由来の汚染の影響を受ける可能性があるため、ラス・マリアス、エル・ナンシト、リオ・インディオに住む私たちの間で懸念を引き起こしています。」

現実:言及されたコミュニティはミネラ パナマとは何の関係もなく、ミネラ パナマとは程遠いものです。

通説: 「契約の策定中、すべての農業生産は水と土壌の汚染の影響を受けるでしょう。「これらは、激しい活動が行われている国では証明された事実です。」

現実:ミネラ パナマは水や川を汚染しません。数年にわたり、2022年中に300万ドル相当の35以上の製品を鉱山に販売するDONLAP協会や、優れた製品を提供するアグロインダストリア・カフェ・ラ・セイバSA協会の場合のように、生産を通じて地域の農家に貢献してきました。 100%パナマ産の高品質な職人技のコーヒーで、地元の起業家精神促進プログラムの一部です。これらの協会は鉱山が到着するまでは存在せず、現在販売されている製品はこの地域で生産されたものではありません。

通説: 「制度化された汚職の結果である採掘契約である露天掘り金属採掘により、外国企業は我が国の資源に対する主張をここまで許してしまう。」

現実:採掘権はパナマの憲法によって正式に規制されています。Minera Panamá の主要株主は First Quantum Minerals で、高い基準のコーポレートガバナンスを備えたトロント証券取引所に上場している企業です。これらは定期的に見直され、会社とその株主の幸福にとって不可欠です。

通説: 「ミネラ パナマは 200 以上の環境破壊を引き起こしている。」

現実: 200 以上の環境被害が引き起こされているというのは誤りです。実際には、これらは発見であり、直ちに是正措置が適用されました。

俗説: 「彼らが 1 年で 25 億ドル稼いでいるのに、私たちに 3 億 7,500 万ドルしか与えてくれないなんて、どうしてあり得るのでしょうか? 。

現実:公開情報に基づいて使用されている計算は、利益ではなく、売上からの収入に対応しており、さらに、複数の年間期間の合計に対応しています。したがって、この数値には、投資コストが割引されるものではありません。一般的な運営コストには、パナマに登録されているサプライヤーと請負業者に支払われるほぼ 10 億ドル、社会保障として政府に支払われる 1 億ドル以上、従業員に支払われる 2 億ドル以上、物流と輸送に支払われる数億ドルが含まれます。さらに、非常に重要なことですが、ミネラ パナマは投資で得られた 100 億ドルに資金を提供しなければなりません。

https://cobrepanama.com/mitos-vs-realidades

などなど。私はこのページの雰囲気に非常に見覚えがある。左翼の粘着に懇切丁寧に答えた東電の説明サイトだ。
このページからすると鉱山側はよくやってるように見える。

まとめ

事件の背景は単なる環境保護活動ではなく中南米にありがちな左派的なナショナリズムがまざった大きな行動だった。
しかし、パナマのパナマ運河を取り返すまでの歴史と国情から仕方ないとはいえ、この反対運動は日本からは過剰反応に見える。
この銅山は操業してしばらく経っていて、公害など現地への被害の情報がどのサイトにもなかったからだ。
新しい法律が執行されたのはパナマへのロイヤリティが少ないと政府が判断したにすぎない。
外資に対する警戒なら中国にパナマ最大の港湾が買収されているが特段大きな問題になったように見えない。

日本にいる私からすると12月7日の国民投票をちゃんと実施して民意はっきりさせればいいのではないかと思う。

追記

 前段の動きとして、2011年の別の反対運動を書いたが混同する人がいるのでこちらへ移動。

パナマ社会の格差から国民には政府の不信感が常に渦巻いているのであろう。

2011年に今回反対運動がおきてるのとは別の銅山(Cerro Colorado銅プロジェクト)が凍結されている。直接の引き金は鉱業法の変更だったが、Cerro Colorado銅プロジェクトが所在する地域の先住民ノベ・ブグレ(Ngobe Bugle)族が度々主要国道であるインターアメリカハイウェーを封鎖したり、一度は国会を取り巻いたりといった抗議活動を繰り広げ、法案は廃止になった。
関係者の話では、反対の理由は法案の内容にあるわけではなく、先住民の政府に対する不信感にあったようである。
 また、関係者によれば、環境保護団体や野党少数政党等が先住民に対し、鉱山開発を行うと環境が損なわれ、健康を害するといった情報を流したことも、抗議発動が激化した要因であるとのことである。
しかし、ノベ・ブグレ族のリーダー格の人達のなかでは鉱山開発への賛成派が多数を占めている
https://mric.jogmec.go.jp/public/current/11_17.html

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