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旅行先の早起き

旅行先でホテルに泊まると、普段よりも「早起き」がしたくなる。部屋のテラスから朝日を眺めてみたり、ひっそりと静まり返ったホテル内を探索してみたり、誰よりも早く朝食会場に行って朝ごはんを食べてみたりして。普段ではしないようなことも、旅行ではやってみようという気持ちになる。

数年前、大学の卒業記念で箱根のホテルに泊まった。そのときも朝にふと思い立って箱根湯本駅の周りを散歩した。明け方は気温が低く、空気も澄んでいて、ただ歩いているだけでも思いの外リフレッシュになりますよね。おまけに朝早く起きると1日が長く感じられるので、僕は結構好きです。

そういう素朴な、それでいて大切な体験って、意外と心に残るものだ。といいつつも、今の生活に早起きを取り入れられているかというと、あまり自信はない。早起きしたり、しなかったり。散歩をしたり、しなかったり。「習慣」と呼べるレベルにまでは到達していないのが現状だ。もちろん、心のなかでは早起きして、ゆったりとした気持ちで1日を迎えたいのだけれど……。

創造の女神を自分のスケジュールに合うように手なずける

アメリカ人編集者・ライターのメイソン・カリーによる『天才たちの日課 クリエイティブな人々の必ずしもクリエイティブでない日々』は、いわゆる偉人たちが最高の仕事をするために、毎日どのように時間をやりくりしていたのかについてまとめた一冊だ。

本書は160人もの偉人それぞれの行動スケジュールについて、日記や書籍、インタビューや関係者の証言をもとに一冊にまとめあげている。本書で紹介されている偉人を簡単に紹介すると……

・W・H・オーデン(20世紀最大の詩人の一人)

・トーマス・ウルフ(代表作『天使よ故郷を見よ』の作家)

・ウディ・アレン(『アニー・ホール』『ミッドナイト・イン・パリ』でおなじみの映画監督)

本書には日本人の偉人として、村上春樹も紹介されている。以下でその一部分を紹介します。

長編小説を書いているとき、村上は午前四時に起き、五、六時間ぶっとおしで仕事をする。午後はランニングをするか、水泳をするかして(両方するときもある)、雑用を片づけ、本を読んで音楽をきき、九時に寝る。「この日課を毎日、変えることなく繰り返します」(本書 P.97より引用)

こうしたクリエイティブな天才たちを目の前にすると、彼らはある種の天から与えられた「才能」が備わっているから、大きな仕事ができるんだと思えるだろう。

しかし、本書を読むとその考えは誤りだったことに気づく。もちろん、彼らが他の人にはない類まれな才能を持っていることは事実であるが、才能を持っていることと、その才能を効果的に使うこと。この2つの間には、大きな壁があるとわかる。例えば、『変身』の作者フランツ・カフカは、家族と同居している小さなアパートでは集中して執筆できる時間は深夜だけだったり、ピューリッツア賞を受賞した『ナット・ターナーの告白』の作者ウィリアム・スタイロンも「書くことは苦痛だ」として仕事に取り組むまでに多くの時間を必要としたり。フィリップ・ロスに関しては作家業は悪夢だとまでいっている。

わりあい僕らは偉人の表の面しか見えていないことが多い。もちろん、あえて裏の面を見せる必要はないし、多くの場合、求められるのは表の、それでいて特に華々しい部分だけ。だからこそ、偉大な天才たちが何に悩み、日々をどのように過ごしていたのかに僕らは興味をひかれるわけだが。

不安、喜び、不安、喜び……。そこには無数のヴァリエーションがある

いうまでもないことだが、天才と呼ばれている人も仕事の進捗に悩んだり、急なイベントに参加することになって予定が崩れたりといったことを経験している。本書を読むと、偉人の生活ぶりに親近感を覚えてしまう。ああ、彼らも僕らと同じように、毎日を過ごしていたんだなと。

それはそれとして、本書を読むと朝型の人がやたら多いように思いました。さっそく明日から、早起きを心がけてみようと思っています。

『天才たちの日課 クリエイティブな人々の必ずしもクリエイティブでない日々』(フィルムアート社)
メイソン・カリー 著 金原瑞人/石田文子 訳

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