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「女性の持ち味を生かす〈後編〉」~ 男性社会の中の女性たち

私は5人姉弟の末っ子で長男です。つまり、上に4人の姉がいるのです。私がまだ小学生のとき、みんな大学生になっていた11歳離れた長姉を含めた年子である3人の姉たちは、半ば母親のような存在でもあったのです。

子供の頃に戦争を実体験し、戦後民主主義の洗礼を受けた姉たちは、当時の日本人女性の中では男女平等の意識をしっかり持っている女性だったように思います。そんな姉たちと少年時代を過ごしてきた私は、女性が持つ大きな可能性と女性に対するリスペクトの感覚を当たり前のこととして持っています。女性に関するこのような感性は私の持ち味のひとつになっているようです。

■女性の感性やセンスに目を向ける

そんなこともあってか、私がスコラ・コンサルト(以下「スコラ」)を創業したときも、女性を有効活用することに何のためらいもありませんでした。創業間もない小さな会社であっても、女性であれば優秀な人材が採用できたという時代背景もありました。当時の女性が置かれていた社会環境(優秀な女性であっても必ずしも就職は簡単ではなかった)も、小さな無名の会社からすればかえって幸いしたのだと思います。

いずれにせよ、スコラは創業以来、つねに社員の半数かそれ以上を女性が占めてきたのです。創業当初から一緒に仕事をしている女性の仲間は5名いますが、そのほぼ全員に著書があり、何冊も書いている女性もいます。

私がスコラの代表を退いて、すでに十年余りになりますが、この3月、初めて女性の代表が誕生しました。彼女が選ばれたのは、女性だからではもちろんありません。スコラの未来に向けての強い責任感を持っているだけでなく、周りの人間の能力をうまく生かすことに非常に長けているからです。

そういう意味では、まさに今の時代が、経営者にいちばん必要としている力を身に着けていたのがたまたま女性だったということです。
私は同じ能力を持っているなら、男性よりも女性の方がスコラの経営者としてはメリットが大きいとも思っています。

私たちスコラの仕事は、ひとことで言えば企業改革のサポートです。
お手伝いしている企業でよく目にするのは、たとえ相手が社長であっても、正直に思い切った発言をしているのは、多くの場合女性社員であることです。普通の男性ならまずやってしまう忖度などをしない女性が(どこにでもいるわけではありませんが)、少なくとも男性よりははるかに多くいる、ということです。

ある業界最大手の大企業での10年ほど前の私の経験です。
その日は、社内で活躍しているメンバー中心の立食パーティがありました。みなさんと話をしているとき、一人の部長が半ば興奮した様子の笑顔で私のほうに近づいてきました。傍らにはさほど若くはない女性が一人います。

その部長は「柴田さん聞いてください。この人と一緒にさっき社長と立ち話をしたんですが、彼女が社長に自分の意見を言い始めたとき、社長が途中で彼女の言葉を遮って自分の意見を言おうとしたんですよ。そのときこの人は、『社長、話は最後まで聞いてください』と言ったんです。いやあ、男ならああいうことは絶対にできない」と興奮気味に話をしてくれたのです。

パーティの後、別室に移り少人数でお茶を飲みました。私の席は社長の隣だったので、社長に「先ほどこういうことがあったそうですね」と笑いながら話をふってみました。すると、近くに座っていた専務が、「私だってそんなこと社長には言えないよ」と苦笑いしていたのを思い出します。社員から一目置かれているこわもての専務ですら社長に対してはそうなのだ、とあらためて思ったことを思い出します。

■女性を取り巻く環境から変えていく

女性が持っているこうした、男性にはあまり期待しにくい特性、を生かすことは大切です。ですから、企業改革の事務局メンバーとして、私たちは女性の存在を非常に大切にしています。女性が持っている感性やセンスは企業の改革には欠かせないものだと考えているのです。

もちろん、そういう女性がすぐに見つかる会社となかなか見つからない会社があることも事実です。置かれた環境によって、やはり成長のしかたが違ってきているからです。

日本企業に潜む傾向としてよく見られるのは体育会系的な気質です。体育会系、と言ってもスポーツを楽しむ、というようなものではなく、どちらかと言えば序列感覚を身に着け、心身を鍛えることをめざすひたむきな求道姿勢をタテマエとして持っている、ということです。

そういう気質の会社はまさに「おじさんワールド」です。そこでは女性を一段下に見る傾向が強く、そこで育った女性たちも、序列をわきまえた精神を持つことを余儀なくされているのが普通です。
どのような環境の中でも、鋭い感性でものごとを見ている女性はいるはずです。とはいえ、女性が育ちにくい環境というのがあることも事実なのです。

いずれにせよ、本当に芯の強い女性なら、男性ならついやってしまう予定調和的な発言をするよりは、はっきりと「問題意識」を発言することが多い、ということはよくあることです。まさに女性ならではの選択、だということです。

そういう女性たちが、「予定調和を大切にする」姿勢が染みついた社会経験の豊富な男性陣から見れば、「周りにかまわず意見を言う世の中を知らない女」というふうに映ってしまうのだと思うのです。

先日の森さん発言には、そうした日本の男性なら当たり前に持っている感覚が底流にあるように思います。そういう意味では、あれは失言というよりはついつい本音が出てしまった、ということなのでしょう。

残念なことに、グローバルな感覚、特に騎士の精神の系譜から来る感覚から見れば、「?」がつくような本音を、当たり前のように持っている日本人が今もなお多いのではないか、とも思うのです。そのことを前提にこれからの世界を私たちは生きていく必要がある、ということです。

そういうことも踏まえて、仕事の中で女性が果たすことができる役割が、今という時代だからこそ非常に大きいものになっている、ということを意識する必要があるのです。
そのために必要なのが、女性の持っている力が発揮しやすい環境をいかにして整えることができるか、を考えることです。それこそが今の私たちに課せられた非常に重要な課題なのです。

もちろん言うまでもなく、成長するかしないかの分かれ目は、男女を問わずまず意欲の有無です。つまり、意欲さえあれば、後は環境が後押ししてくれる状況をつくる必要がある、ということです。

企業改革をサポートする側である私たちスコラ・コンサルトの役割の中には、女性ならではの持ち味を生かした仕事や課題がたくさんあり、これからはそれを成し遂げることが大切なのです。
そういう意味でも、ジェンダー格差を超えて、女性代表の可能性に期待は膨らむばかりです。

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