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【感想】HBOドラマ『ウエストワールド』シーズン4

近未来を舞台にしたSFドラマの最新シーズン。

劇中にあるウエストワールドは西部劇の世界を体験できるテーマパーク。
広大な園内にはホストと呼ばれるアンドロイドが多数配置されており、客は彼ら相手に何をしてもいい。
往々にして殺したり性行為の対象としたりと欲望が露わになるのもお約束かw

シーズン1はアンドロイドの1体が故障し、自分はずっと同じ1日を過ごしていると気付いてしまう所から幕を開ける。
やがて複数のアンドロイドも同様のことを自覚し、人類との全面戦争へ…というのがシーズン3までの超雑なあらすじ。

ちなみに1973年公開の同名映画が原作。
(本作を観る上で予習必須というわけではない)

この「テーマパーク内に配置された人工物が暴走して人間を襲う」というアイデアが転用されて出来たのが『ジュラシック・パーク』

先日書いた『DEVS/デヴス』の感想と被ってしまうが、本作のテーマは「決定論と自由意志」

ウエストワールドのホスト(アンドロイド)はまさに決定論の中で生きている存在。
プログラムされた通りに動き、自身が次にする行動は予め決まっている。
故障やバグで逸脱しかけたらすぐさま回収されて再プログラムされる。
そんな彼らが自由意志を持ったら…という古典的SFモチーフを潤沢な予算と練りに練った脚本で描いた重厚な作品。
特にシーズン2ではロバート・フォード博士(アンソニー・ホプキンス)の哲学的な台詞がバンバン出てくる。
あれは一度観ただけで理解するのは難しいレベルw

ただ、正直2020年に放送・配信されたシーズン3では若干の失速感があった。

シーズン2のラスト、園では反逆したアンドロイドたちによる大虐殺が行われ、一部のアンドロイドは人間の中に紛れて脱出する。
そしてウエストワールドが閉鎖されたシーズン3では舞台は普通の都市に。
人類の存亡を懸けたアンドロイド同士の戦争にガラッと路線変更。
その結果というか戦闘シーンが中心の大味な内容になってしまった。
新キャラも多数投入された割にほとんどがシーズン3の内に退場してしまうし。

そんなわけで期待値はあまり高くなかったシーズン4。
『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』のプロモーションに熱心だったU-NEXTもあまり積極的に取り上げる暇は無く8月末に静かな船出となりました。

ところが、いざ観てみるとこれが脚本も演出も原点回帰していて決して悪くない!

どうやらシーズン3から7年が経って人類はアンドロイドに支配されているというか、支配されてるとさえ気付かずに日々暮らしてる様子の世界。
『DEVS/デヴス』の感想でも決定論と対極にある考え方として多元宇宙論の話を書いたが、決定論に抗う方法の1つは「決定する側に回ること」
新たに世界を作って支配する側になれば自分の意志は損なわれない。
劇中でも何度も"My world"というフレーズが出てくる。

さらにテーマだけでなく舞台もシーズン1・2に回帰するような展開が後半には用意されている。
第4話ラストでの時制を使った一種の叙述トリックも本作らしい。
「シーズン3に足りなかったのはこれらの要素だったのか」と妙に納得してしまった。

ただ、そうなると世界を構築した神々の戦いになって話が散漫になりそうに思うが、シーズン4が素晴らしいのは前シーズンから加入したケイレブ(アーロン・ポール)を実質的な主人公に据えて決定論の中で生きる者の物語も描いてくれること。
運命に挑み続けた“何人ものケイレブたち”が登場する第6話は今シーズンのハイライト回。
世界の支配を試みる者がいれば、懸命に自由意志を掴もうとする人もいる。

シーズン4ではシーズン3で大味になってしまった演出も回復していた。

  • 白と黒を基調としつつ要所で赤を差す色彩設計

  • 引きのアングルが増えた撮影(画面の格がワンランク上がっている)

  • 逆光を使いながら陰影を強調する撮影

  • タワーの外観・内装をはじめとする美術デザイン

第1話の冒頭から「お?」と思わせてくれたのが本当に嬉しかった。
実に映画的に撮られている。
アーロン・ポールが『ブレイキング・バッド』の魂を注入したのではないかと思えるほどw

結末は個人的にはシリーズ完結でも文句の無い着地。
シーズン1を観てからは4年ぐらいかな?
脱落せず観てきて良かった。
何となくシーズン1と2でセット、3と4でまた1つのセットという印象を受ける。
シーズン5の噂もあるが、あるとしたらほぼ新キャラになりそうな…w

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