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【感想】FXドラマ『マーダー・イン・ザ・ワールドエンド』第1〜4話

全7話の折り返し地点に来たので備忘録と紹介を兼ねて書いてみる。

Netflixの人気ドラマ『The OA』のクリエイターが再集結してFXでの新作制作に着手。
そんな第一報が流れたのは2021年8月。

その後(少なくとも日本語メディアでは)ほとんど情報が出ないまま『A Murder at the End of the World』というタイトルが明らかに。

邦題が『此の世の果ての殺人』になったら江戸川乱歩賞を獲って2022年にスマッシュヒットした小説と被るよなーとか当時思った。

さて日本配信はいつになるだろうなんて悠長に構えていたら、まさかのディズニープラスで日米同時配信。

早速観たらブリット・マーリングとザル・バトマングリらしいSF要素に、今の時代に珍しいほど潔いクローズドサークルな舞台設定のミステリー。

このジャンルはやはり綾辻行人の館シリーズが有名だが、その蓄積の先にある到達点の一つといえば知念実希人の『硝子の塔の殺人』になるだろうか。

クローズドサークルのミステリー小説が既にたくさんある世界でのクローズドサークルな殺人事件。

『マーダー・イン・ザ・ワールドエンド』も御多分に洩れず(?)クローズドサークル。
アイスランドにある大富豪の別荘に集められた12人の頭脳集団。
何やら気候変動・環境問題から地球を救う方法を考え出すのが目的らしい。

で、初日の夜にその内の1人が死体で見つかる。
嵐が近づいてきており助けは呼べない。
しかも被害者は主人公と過去にかなり深い関係にあった。
なんとまぁ衒いのないw

シチュエーションだけならNetflix映画『ナイブズ・アウト:グラス・オニオン』と似ているか。

あちらはダニエル・クレイグ演じるプロの探偵が主人公なら、こちらはエマ・コリン演じるアマチュア探偵が主人公。
これもまたクローズドサークルのベタ中のベタではあるw

そんな本作を単なる焼き直しから脱皮させているのが

  1. SF要素を通したテクノロジー批評

  2. 演出(特に撮影と美術)

普通のクローズドサークルのミステリー作品は電話も繋がらず満足な道具も無いという制約が物語を盛り上げる。
しかし、本作は主人公のハッキング能力が肝になるほどテクノロジー全開。
むしろそのテクノロジーの持つ便利さ・脆さが物語をドライブさせていく。
監視カメラの映像やインターネットの集合知で捜査は進展する。
超高性能な音声アシスタントAIも。
でも逆に心臓のペースメーカーは急所になるし、誤作動を起こした密閉ヘルメットは凶器に化ける。
物語上の装置というだけで終わらせない批評性。
稀代のSF作家の面目躍如。
ただの既視感あるミステリーでは終わらない。

第4話では相手がハッカーかを確かめるためにこんな最高の台詞が。

Are you vi or Emacs?

さらに

If you wrote code for computers, then you were either die-hard vi or Emacs. It was like a holy war between the two.

ちなみに私はvim派である。

そのSF要素に画面上の説得力を持たせるのがプロダクションデザイン(美術)
この記事のサムネにした画像中央にある、UFOみたいなデザインの別荘からして最高なわけだが、内部の美術も非常に良い。
あの本棚の“本棚感”はマジで絶妙w
SF要素を彩るガジェットも芸が細かい。
正直カードキーに比べて利便性が上がったのか疑問の余地もある指輪型のキーとか。

そんな作り込んだSF要素で魅せる一方で照明・自然光のマジックが炸裂した映像美も兼ね備えているのだからたまらない。
現代パートは雪原をダイナミックに捉えた引きのショットと屋内の妖しげな色の照明のコントラスト。
過去パートは自然光を中心に組み立てられており、こちらは思い出の美しさも合わせて表現されている。
しかもその「光」が伏線だったとは!

本作は全7話のリミテッド・シリーズとして企画されており『The OA』のように謎を残したまま打ち切りの憂き目に遭う心配は無い。
その『The OA』との類似性なども語りたいところではあるが、本日はこの辺で。

おまけ

本作が2023秋ドラマ屈指のミステリーなら、2023秋ドラマ屈指のサスペンスがApple TV+で配信中の『窓際のスパイ』シーズン3

この2つが毎週配信されるなら年内のドラマ生活は安泰だ。

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