技術系スタートアップにおけるプレゼンテーションについて考えてみる(2)
こんにちは。
技術を使った事業開発の体系化を通じて、技術が公平に正当に提供される世界を目指しています、菅野です。
今回も営業編、技術系スタートアップにおけるBtoBプレゼンテーションについて考えてみます。以下の投稿の続きとなります。
お互いのスタンスや動機の確認もなく、即座に長時間のプレゼンへ突入し、顧客を疲れさせてしまう商談、実は多いのではないでしょうか。
こんな課題について、前回投稿では聞き手・話し手の両立場の心理を考えてみました。今回は、商談成立のための私なりの解決策やノウハウをご説明していきたいと思います。
1. 商談のゴール
技術系スタートアップが、初対面の潜在顧客へプレゼンテーションする商談を考えます。
まず、商談のゴールは何でしょうか?技術を理解してもらうこと、になっていませんか?
私は、商談後の相手に以下のような感情を抱かせることが、初回面談のゴールだと思っています。
リスクはあるかもしれない。
しかし、ポテンシャルがある。
そして、この相手は信用できる気がする。
競合他社よりも先に、この会社と付き合っておかないと。
細かいことはやってみないと分からない。
でも、この相手は信用できる気がする。
この会社と新しい価値を作ってみたい。
スタートアップの将来性は、極論、自社の社員ですら分からない世界です。ゆえに、初対面の顧客にはもっと分かりません。すべての不安が取り除かれる日は訪れないでしょう。したがって、プレゼンで完全な理解や説明を追求する必要はありません、それは不可能です。
では、そんな不明瞭な視界の中で、パートナーシップ・コラボレーションに向けて顧客を突き動かすものは何か。以下の3点をすべて満たした場合、良いご縁につながることが多いように感じます。
① 便益性・独自性への納得
② 会社の目指すビジョン・ロマンへの共感
③ プレゼンター(あなた)への信頼
→ 残りの細かいところは、追々確認していく。
説明に重きを置きすぎている方は、まずは目的意識を変えていきましょう。
顧客の共感や信頼を得るなんてイケイケ営業マンが成す技であって、簡単に真似できないじゃないか、と思われるかもしれませんが、ここに至る確率を上げるために誰でも出来るコツがいくらかあります。本記事の残りで、それについて考えていきたいと思います。
2. プレゼンにより実現すべきこと
私にとって、理想的な商談は、以下表のように進みます。
多くの技術プレゼンでは、Step 5 ソリューション提示(具体)は非常にしっかり行われています。しかし、赤字のアクションへの拘りや目的意識は曖昧なまま、プレゼンが提供されているケースが多いように思います。
商談のゴールは、【納得・共感・信頼】を顧客に感じさせることだと述べました。上記の赤字のようなアクションによって、その確率が上がるのではないかと思います。
赤字のアクションの中でも、技術ソリューションを概念的に説明することは、重要性が極めて高いにもかかわらず実施されていないことも多いため、最後にご説明していきます。
3. 抽象から具体へ(技術の概念化)
どんなスタートアップも、自社の成果を最もアピールしたいものです。以下のような表現、よく見られますよね。
(例)
「世界最高精度の○○nmで、材料を製作することに成功しました!」
「△△を★★トン、生産する技術と装置を持っています!」
「当社の材料は、□□という特殊構造を持っています!」
当然、自社技術や製品の便益性・独自性を示すためには必要なアピールなのですが、パートナーとしての自社のそれらを示すには不足しています。
ラーメン屋を例に考えてみましょう(フィクションです)
ある博多ラーメン店が、全国展開するため出資者やパートナーを探しているとします。そのラーメン店は、こってり豚骨スープに絶妙に絡む麺を持っており、このコンビネーションによる「スペシャルラーメンA」が博多の顧客にウケていました。
このお店の豚骨スープは、創業以来長らく熟成されてきた秘伝のスープを、某有名店から移籍してきた職人チームがアレンジすることにより生まれました。
また、スープと絶妙に絡む麺は、その表面構造に秘密があり、特殊加工装置がそれを可能にしているのでした。
さらに、麺の表面構造・スープ味・顧客嗜好の3変数からなるビッグデータを独自に蓄積しており、これに基づいた商品開発が可能になっていました。
同店が「スペシャルラーメンA」だけをアピールすれば、スペシャルラーメンAを生んだ同店の価値にはあまり焦点が当たらず、同商品・ブランド一点の価値にもとづき評価されることになるでしょう。
しかし、価値を上位概念化してプレゼンテーションすればどうでしょう?
「当店には、【秘伝スープ】【特殊な麺加工装置】【ビッグデータ】の3つのアセットがあります。これらの組み合わせは他店には無く、ビッグデータと麺加工装置を活用することで、スペシャルラーメンAに限らない、地域ごとの顧客特性に応じた商品展開が可能です」みたいに言うことができるようになります。
こうすれば、提携パートナー候補企業や投資家は、商品・ブランドとしてではなく、店としての価値を測るようになりませんか?また、上位概念を提示すれば、必ずしもスペシャルラーメンAだけでなく、同店のアセットを活用してB, C・・・と次なるヒット商品を生む潜在的な可能性すら見出してくれるかもしれません。
技術系スタートアップも同じです。
突然、具体的な点での成果を次々に見せるのではなく、まず、抽象的なアセットを広がるのある面として訴求すること。そのうえで具体的な点でのデータや実施例を紹介していきましょう。
こうすれば、聞き手にとっての腹落ち感は大きく変わります。「なるほど、このデータAは、さっき説明してくれた要素技術Bがあるから出来るんだな。要素技術Bはすぐに構築できるものではないから、同業他社、ひいては当社自前で真似をするなんて難しそうだ。。細かい部分はやってみないと分からないけど、まずは信じてみようか」
まず、抽象的なアセットを広がりのある面として訴求し、その後、具体的な点のデータや実施例を紹介していきましょう。
順番は非常に重要です。
よく、抽象⇔具体の話が頻繁に行ったり来たりする方がいます。このような話し方をしてしまうと、聞き手は「自分は今何を聞いているのか」混乱するだけでなく、とてもストレスがあり疲れます。
キーマンと呼ばれるような方々は、普段、膨大な情報に接し、多忙を極めています。そのような方々は特に、「ん??」となった瞬間に聞くのをやめます。
抽象から具体へ。ぜひ、聞き手に負担が無い・摩擦なく脳へ入っていける情報提供を心掛けていきましょう。
事業開発や営業には万能薬はありません。人間と人間のやり取りですから、ひとつひとつの商談は生き物のように変わります。
それでも、このようなノウハウの積み重ねによって、少しでも多くの技術系スタートアップが信頼され、共感を呼べるようになると嬉しいなと思います。
では。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?