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ハダカデバネズミみたいに

性交渉の際、明かりがついているのが苦手だ。

といっても、私は視力がとても悪いので、実際は明るい中でもほとんど見えていない。だから、その理由は、先方からあまりはっきりと輪郭をとらえられることはない、という安心感が欲しいということに尽きるのだと思う。

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視力といえば、眼鏡が相手のほほにぶつかって、皮脂で汚れてしまうのも嫌だ。そう思ってもいるのに、こちらはなかなか伝えられない。

眼鏡をとってしまうと、キスするぞってやる気を見せているみたいだ、と思い、躊躇する。躊躇している間にキスされてしまえば、眼鏡は汚れる。

だから、何かあったときにはだいたい、眼鏡が汚れるのだ。まったくもって、困るのだけど、まあ仕方ない。

なんとか自然に、あるいは不自然に眼鏡をはずす。間に合っても間に合わなくても。その前後で、部屋の明かりをおとしてもらう。

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ほとんど見えないもなにも、何も見ない。ことのはじまり、私はまぶたをおろさずにはいられない。

乳児を寝かしつけるコツ。眉間をやさしくなでると子供はつい目を閉じて、そのまま寝てしまう、なんていう教えを聞いたことがある。それと同じなのかもしれない、なんて考える。(本当かどうかわからなかったが、実際のところ睡眠導入には効果はなかったと思っている。)

ピントも合わせられないほど近接する何かを前に(それは、愛しい誰かなわけだが)瞳を向け続けることのできる人はいるのだろうか。

いずれにせよ、私自身は目を閉じているので、相手のまぶたについて確認することはない。

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毛のない私たちのふれあい。どうせ暗い。見ようとしない目。私、ハダカデバネズミみたい。

仰向けで裸の自分が、幸せを吸収するさまがあたまにうかぶ。何も見えないから、醜さに困ることも、もうない。

ハダカデバネズミになった私は、明日になったら戻ってくる理性のことなんて考えもしないで、皮膚のあたたかなしめりけというその場しのぎの幸福を、ただ、むさぼる。

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