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日本のファッションクリエーションを考える


(1)ファッションショーが有料から招待制に変わった理由
 東京コレクションの源流は、1974年のTD6(トップデザイナー6人)だ。メンバーは、菊池武夫、山本寛斎、松田光弘、金子功、コシノジュンコ、花井幸子。TD6のメンバーは一定ではなく、何度かメンバーの交代もあった。
 前年の1973年には、高田賢三がパリコレデビューを果たし、大きな反響を集めた。それに刺激された同年代のデザイナーが、「東京でも新しいコレクションを開こう」ということで企画された。
 当時(70年代半ば~80年代初頭)の日本で、ファッションショーと言えば、国内外のオートクチュールデザイナーのコレクションか、NDC、NDKなどのデザイナー団体のコレクション。あるいは、ファッション専門学校のファッションショーが主なものだった。
 オートクチュールコレクションも、デザイナー団体のコレクションも、プロモーションが主な目的であり、チケットを販売していた。当然、TD6のコレクションもチケットを販売した。
 その後、ファッションショーは次第に大型化、興業化していった。「ファッションショー」がビジネスの目的となり、服のシルエット、素材、ディテールなどを見せるという本来の目的が見失われてしまった。
 興業としてのショーから、本来のショーへ。「ファッションショーをプロデューサーの手からデザイナーに取り戻そう」という風潮が高まり、有料のコレクションは姿を消し、招待客を対象にしたショーへと変化していった。

(2)パリコレと東コレの違い
 東京コレクションは、デザイナーが主体となってスタートした。当時のデザイナーの多くは、自社のオーナーだった。コレクションの目的は、あくまで自社、自ブランドのプロモーションだ。
 現在のコレクションの対象は、「プレス」と「バイヤー」になっているが、当時から、バイヤーはほとんどいなかった。百貨店のバイヤーは商品を買い付けるわけではないし、地方のFCオーナーもバイヤーではない。
 プレスもパリとは状況が異なる。パリのプレスは批評を行うが、日本のプレスはほとんど批評しない。デザイナーと共に市場を盛り上げてきた仲間である。日本には、批評文化は根付いていないし、批評されると怒り出すデザイナーもいるのだ。
 コレクションの最前列には、記事を書く媒体さえ持たないタレント、コメンテーター、ファッションフリーク等が並ぶ。これらの人々も場を盛り上げる役割を担っている。
 東京コレクションで「プレス」「バイヤー」と表記しているのは、パリコレを踏襲しているだけであり、本来のプレスやバイヤーではない。むしろ、「プレス」「バイヤー」なきコレクションであることが、東コレの特徴と言えよう。こが第一の違い。
 第二の違いは、パリコレは「新しい才能を発掘する」役割があることだ。有名メゾンの経営者は、若手デザイナーのコレクションを見て、自社のデザイナーを選ぶ。若手デザイナーは、有名メゾンのオーナーに認めてもらうことで、次元の異なるステージで勝負することができる。
 第三の違いは、コレクションの背景に巨大なライセンスビジネスが存在していること。
 パリコレに登場するブランドは、アパレル製品だけでなく、多くのライセンスビジネスを展開している。パリコレで発信されるブランドイメージは、ライセンスビジネス全体に波及する。パリコレは、デザイナーのために行われているのではなく、デザイナーを中心とした多くのビジネスや企業のために行われている。パリコレというステージは、巨大なビジネスの中核であり、ビジネスチャンスでもある。
 東コレのデザイナーはオーナーであり、新しい才能を発掘する必要はない。直営店とFC展開が主体だったので、バイヤーに見せる必要もない。また、素材メーカー、百貨店、専門店のオーナーや資本家達も、コレクションが直接自らの利益につながるわけではない。したがってデザイナー以外の企業や機関が、東京コレクションを応援する動機が見当たらないのである。
 
(3)東京コレクションとTGC
 ファッションは人が集まる。人が集まればビジネスになる。ファッションイベントを興業として成功させたのがTGC(東京ガールズコレクション)である。
 TGCは、いわゆるデザイナーのコレクションではない。通常のコレクションは店頭展開の半年前に行われ、そこから小売店が受注を行う。あくまでB2Bのイベントである。
 TGCはその場で商品を発注することができる。つまり、店頭展開と同時に行われていると言ってもいいだろう。観客の多くは一般消費者であり、B2Cイベントである。
 また、通常のコレクションに登場するのはウォーキングを練習した身長175㎝以上の「ショーモデル」だが、TGCのステージに登場するのは、背は低いが表情がカワイイ「雑誌モデル」である。
 TGCは「ファッション雑誌ライブ」である。ファッション雑誌に登場するモデルと商品がライブで見られるイベント。したがって、TGCと東京コレクションを同列に語ってはならない。
 しかし、両者が「ファッションのプロモーションイベント」であることには変わりがない。また、一般消費者の観客にとっては、どちらも似たイベントだろう。買えるか買えないか、来シーズンの商品か今の商品か、という違いだけである。
 考えてみれば、過去、パリのオートクチュールコレクションも「香水のプロモーションショー」と揶揄されたことがあった。現在は、ライセンスビジネスが拡大しているが、それでも主な目的はプロモーションである。ビジネスモデルが変化する中で、プロモーションの手段も多様化しているのだ。

(4)「FNO」の盛り上がり
 プロモーションイベントの中でも、最もダイレクトで効果的だったのが、2011年11月5日から東京で開催された「ファッションナイトアウト(FNO)」だろう。
 2009年、アメリカのファッション市場は、2007年のサブプライム問題、2008年リーマンショックを受け、大きく落ち込んでいた。そんな中でファッション業界の活性化のために、アナ・ウインター=米版ヴォーグ編集長の呼びかけで始まったショッピングイベントがFNOである。
 FNOによって売上の記録を更新した店舗もあり、表参道・青山エリアの店舗を中心にかなりの経済効果があったようだ。
 FNOは既存の店舗が既存の商品を販売しただけだが、そこに明確な目的=大義名分があり、世界のファッショニスタが集まり、大きな成果を上げた。
 最早、新しいコレクションの発表だけがファッションイベントではないのである。

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