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時代と共に変化するマーケティング

1.マーケティングの定義は変化し続ける

 マーケィングの定義は時代と共に変化します。コトラーは、モノ(製品・商品)を中心にした「マスマーケティング」(マーケティング1.0)から始まり、「生活者(顧客)志向マーケティング」(マーケティング2.0)に進化したと定義しました。
 マスマーケティングでは、大量生産した商品を大量に販売するために、オートメーションを進化させ、チェーンストアを組織しました。大衆に対して広告・宣伝を行い、ブランドや商品の名前を消費者に刷り込みます。こうした一連の活動がマスマーケティングです。
 現在でも、多くの企業はマスマーケティングを基本にしています。海外生産もマスマーケティングの一環です。マーケティングの定義はアップデートされても、ビジネスは継続しています。少なくとも、ビジネス全体の6割以上はマスマーケティングで動いていると思います。
 やがて、供給が重要を上回り、「生活者志向マーケティング」が生れました。大量生産商品を販売するのではなく、顧客が必要とする商品を生産するという発想転換です。
 ジャストインタイム、CAD/CAMの活用等の多品種少量生産システム。クラウドファンディング等も生活者志向マーケティングといえるでしょう。
 DXと呼ばれる革新や業態転換の多くは、マスマーケティングから生活者志向マーケティングへの転換を志向しています。全体のビジネスの中で、生活者志向のマーケティングで動いているのは、3割以下程度でしょう。
 現在は、グローバル化とIT化が加速し、「価値主導マーケティング」(マーケティング3.0)の領域に入っています。単なる収益向上のための手段ではなく、企業や組織が世界を良くするための事業・活動を展開するための戦略と定義されています。
 価値主導の典型的なテーマが「SDGs」です。エシカル、ソーシャル、サスティナブル等の発想は、価値主導マーケティングといえます。
 現在の価値主導マーケティングは、プロモーションのテーマとして使われることが多いようです。マスマーケティングで動いている企業が、価値主導マーケティングを提唱すると、自己矛盾を起こします。
 大量生産大量販売は大量廃棄を生み出し、環境を汚染します。また、価格競争は生産拠点の移転を促し、物流のためのエネルギーを増大させます。経済格差を生み出し、それが人権侵害につながります。
 現在、価値主導マーケティングは、思想、政治、プロモーションの段階であり、ビジネスへの展開はまだ先なのかもしれません。
 マーケティング学者の提唱する論理は、常に実際のビジネスより先行しています。ごく一部の企業の成功事例を新しいマーケテンィグ戦略として紹介しているので、一般の企業はそこまで到達していないのです。
 

2.顧客志向のサービスが重要に

 マーケティングはモノの生産・販売から産まれた概念ですが、商品のコモディティ化が加速するにつれ、モノよりサービスの役割が重要になっています。
 セオドア・レビットは「すべての企業は顧客にとってサービス業である」、「あらゆる企業がサービス的要素を持つ」と指摘しています。
 また、ラッシュとヴァーゴによれば、従来のモノ中心のマーケティングをGDL(Goods Dominant Logic)といい、顧客は単に購入者でしたが、SDL(Service Dominant Logic)では、モノに限らず経済活動は全てサービスであり、顧客は購入者ではなくサービスの利用者であるという考え方を提唱しています。
 モノを生産して販売する行為は、モノを提供するサービスです。顧客がモノを購入するのも、所有するためではなく、体験や満足感等が目的です。
 したがって、マーケティング活動は、商品を販売することで完結するのではなく、購入後の顧客の体験までを意識しなければなりません。
 モノとコトの区別がなくなり、全てをサービスという概念に集約することで、飲食、旅行、エンタメ、オンラインゲーム、教育等、全てがマーケティングの対象になります。
 

3.ファッションマーケティングとは?

 狭義のマーケティング活動は、「商品またはサービスを、購入するポテンシャルのある顧客候補に対して、ブランディングやマーケティング・コミュニケーション等を通じて、購買行動やサービス利用に働きかける行為」です。
 ファッションマーケティングは、この定義にファッションの特性が加わります。
 ファッションには、「流行」があります。流行とは変化であり、変化を求めるのは、「飽きる」からです。人は同じ服を着続けたり、同じ料理を食べ続けるとやがて飽きます。しかし、同じ仕事、服装、食事を続ける生活も可能です。経済的に考えれば、変えないほうが合理的です。
 それに対して、変化のない生活を、刑務所のように、自由を抑圧されている生活と感じる人もいます。変化を求める度合いにも個人差があります。
 ヨハン・ホイジンガは著書の中で、「人間とは『ホモ・ルーデンス=遊ぶ人』のことである。遊びは文化に先行しており、人類が育んだあらゆる文化はすべて遊びの中から生まれた。つまり、遊びこそが人間活動の本質である」と述べています。
 更に、「遊びの5つの形式的特徴」として、(1)自由な行為である
(2)仮構の世界である
(3)場所的時間的限定性をもつ
(4)秩序を創造する
(5)秘密をもつ、を挙げています。
 加えて、遊びの機能的特徴として「戦い(闘技)」と「演技」を挙げています。
 ファッションには、社会的規範と遊びの要素が混在しており、時として、経済合理性を超越します。
 ファッションマーケティングは複雑です。経済合理性を超越している要素もあり、経済合理性に忠実な要素もあります。社会的な要素もあり、個人的な要素もあります。厳密な規範もあれば、規範を否定することもあります。

4.マーケティング的発想とは?

 マーケットは「市場」であり、市場とは消費者、生活者の総体です。生活者は多様な歴史、文化、宗教、思想、価値観を持っています。しかも、時代の変化と共に、生活者の嗜好や価値観は変化します。常に変化し続けるのが市場なのです。
 したがって、市場に対応するマーケティングも常に変化し続けます。新たな技術が生れれば市場は変化するし、新たな政治・経済等の状況が生れれば、当然市場も変化します。
 変化を予測するために、マーケティングの定義は時代の少し先を進んでいます。最先端のマーケティング理論に基づいて経営戦略を立てても、それが利益につながるというわけではありません。しかし、未来を予見する助けになるのです。
 マーケティング戦略は、常に未来にゴール目標を設定し、そこから逆算して戦略を立案します。現状を起点として、積み上げて未来のゴールを決めるのではなく、必ず未来を起点にするのです。
 例えば、不況業種となった百貨店のマーケティング戦略を考える場合、「こんな百貨店があれば顧客に支持され、顧客を満足させることが可能になる」、というビジョンを考えることから始まります。
 極端な例でいえば、「ヴィーガニズムの百貨店」を想定してみます。常にヴィーガニズム推進の情報発信を行う拠点です。世界中のヴィーガンに支持されるだろうし、店頭販売だけでなく、ネット通販の展開も可能になります。
 ヴィーガニズムは食が中心になるので、一階はヴィーガンのためのレストラン、カフェを配置する。これが百貨店の顔となります。
 そして、地下は食料品、惣菜、スイーツ等だが、肉だけでなく、卵、乳製品等、動物性の食品は全て排除します。
 婦人服、紳士服の売場もレザー、ウール等は排除。靴もレザーシューズは排除します。
 「オーガニックの百貨店」も考えられます。その場合には、プラスチック、化合繊、添加物等を徹底的に排除します。つまり、排除すべきものが変わるのです。
 百貨店は、ライフスタイルを表現するのに適した器です。何でもある百貨店から、何かが排除された百貨店へ。それは人の暮らしに対する提案でもあります。
 もし、現状の百貨店の売場構成や組織を前提にして、改善プランを考えても、おそらく現代の消費者に支持されないだろう。現状を基本に考えることは、マーケティング的発想ではないのです。

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