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shift innovation #29 (IAMAS hack 2)

今回、IAMAS(情報科学芸術大学院大学)が企画するバウンダリーメディアに関するワークショップに参加しました。


【ワークショップ趣旨】

企業がイノベーションを実現するためには、創造した事業アイデアの実現に向けてプロジェクトメンバーが協働する必要があります。しかし協働を促進するような事業アイデアの創造は困難です。この課題を解決するために、媒体(メディア)に着目したワークショップを設計しました。

バウンダリー・メディア・ワークショップでは、イノベーションを目的とした事業アイデア創造を行うグループを設定し、テーマに従ったアイデア創造を行います。アイデア創造の過程で、テーマを創作的に表現したメディア(バウンダリーメディア)を制作し、それらを鑑賞することを通じて、グループ全体のアイデア創造の視野を広げることを目的としています。


【プログラム】

フェーズ1 ファーストインプレッションに基づくアイデアの創出1
フェーズ2 課題コンセプトに基づくバウンダリーメディアの制作
フェーズ3 バウンダリーメディアの選定
フェーズ4 バウンダリーメディア(グループ内)に基づくアイデアの創出2
フェーズ5 バウンダリーメディア(グループ外)に基づくアイデアの創出3
フェーズ6 アイデアの選定


【バウンダリーメディア】

イノベーション活動において、今までにはない新たな発想が必要となる中で、個人の知見、組織内の知見だけでは、新たな発想は難しいとされています。

オープンイノベーションなどにおいては、関連性の低いと思われるような新たな知見との融合により、イノベーションが促進されることがあります。

バウンダリーメディアとは、このような新たな知見に基づき、言語化されていない抽象的なメディアを活用し表現することにより、新たなアイデアの創出を触発することをはじめ、多様な人を集めること、ビジョンなどにより意思統一すること、内発的動機を高めることができるというもののようです。

shift innovation #28 (IAMAS hack)においては、バウンダリーメディアを活用することにより、新たなアイデアの創出を触発するフェーズについて説明しました。


【バウンダリーメディア(プロトタイプ)制作の目的】

バウンダリーメディアには、新たなアイデアの創出を触発することをはじめ、多様な人を集めること、ビジョンなどにより意思統一すること、内発的動機を高めるという目的があるものと考えます。

これらの目的においては、バウンダリーメディアが抽象的であることが有効となる場合があることにあわせて、具象的であることが有効となる場合もあると考えます。

そこで、今回、ワークショップにおける事例等に基づき、バウンダリーメディアの抽象度に着目し説明することとします。


【グループ別バウンダリーメディア】

プロダクト「デスクライト」

テーマ「森の深呼吸」

制作物「テーマである『森の深呼吸』を表見する」


バウンダリーメディア(グループA) ※抽象度(高) デフォルメ度(高)
3つのコップの口の部分を合わせることにより、テトラポッドのような状態となり、コップの中には、白・ビンク・青の球体が詰め込まれているコップ、葉っぱが詰め込まれているコップ、黄・ピンク・青の粘土が詰め込まれているコップにより、森全体を表現している。


バウンダリーメディア(グループB) ※抽象度(中) デフォルメ度(低)
大きなアルミホイルをぐしゃぐしゃにした状態に、葉っぱをところどころに載せ、その上には部分部分にネットがかかり、森が雲に覆われた様子を表現しており、そして、森の中には紫色の発光する棒が埋め込まれるなど、森全体を表現している。


バウンダリーメディア(グループC) ※抽象度(高) デフォルメ度(高)
1つのカップの中に白・ピンク・青の球体、ネット、結ばれた紐など、様々な部材を詰め込まれ、コップにはスプーンが差し込まれており、さらに、コップの周り(内側)の上部には黒の紙状のもので取り巻くことにより、森全体を表現している。

※抽象 事象を構造化し特定の要素を抽出し表現したもの
※デフォルメ 事象の特徴を誇張・強調し変形を加え表現したもの


【新たなアイデアの創出を触発するバウンダリーメディア(プロトタイプ)】

グループのメンバー各自が、「森の深呼吸」というテーマに基づき制作したバウンダリーメディアの意図や内容について、メンバーに説明をした上で、1つのバウンダリーメディアを選定しました。

メンバーが選定した1つのバウンダリーメディアを、「森の深呼吸」というテーマに基づき鑑賞することにより、メンバー各自が、新たな「デスクライト」のアイデアを検討することになりました。


私は、バウンダリーメディアを鑑賞する上で、バウンダリーメディアを部分ごとに細分化し、上下左右から部分ごとに鑑賞していく中で、森の中に紫色(光を放つ棒)の光が漏れている部分に注目しました。

注目した部分に関して、ライトは周りを明るくするためにつけるものでありますが、ここでは、光を放っているにもかかわらず、森の中に埋め込まれていたこともあり、森の中の暗闇をイメージしました。

これは、光源が明るい色であれば、森の中に光が差し込み木々の間から地面を照らしていると捉えたかもしれませんが、光源が薄暗い紫色でしたので、光を発しているにもかかわらず、森の中の暗闇ではないか捉えました。

これに関して、プロトタイプを製作する場合、身近にあるものだけで簡易に製作することになるため、正確な表現方法ではなく、代替のもので表現をする場合やその制作したものが抽象的に表現せざるを得ない場合もあり、鑑賞者は製作者が意図したものとは異なる解釈をしてしまう場合があると考えられます。


例えば、今回、鑑賞したバウンダリーメディアの場合であれば、製作者の意図は「光が多方向へ反射する」であり、そこから表現したアイデアとは「植物を支える支柱に多くのライトを取り付け、植物を巻きつけることにより、『植物の間から木漏れ日のように光が漏れることによって、幻想的な癒されるライト』」となりました。

一方で、私が解釈した意図は「森の中の暗闇」であり、そこから表現したアイデアとは「暗がりで灯りが必要な場合、スマホのライト機能を使うまでではなく、スマホの画面で灯りを取ることにより、歩くことができる場合があることから、『スマホをアームの先端に取り付け、スマホ自体をライトの代わりにするスタンドライト』」となりました。

これは、同じものを見ているにも関わらず、全く異なる解釈をしたことから、全く異なるアイデアとなったことは、バウンダリーメディアが新たなアイデアを創出する上で、多様な発想のきっかけとなったと捉えることができるのではないかと考えます。


通常、制作するプロトタイプを提示する場合、製作者の意図をできる限り正確に表現することにより、周りの人に対して正確に製作者の意図を理解してもらうことを目的にしています。

一方で、バウンダリーメディアとしてのプロトタイプの場合、新たなアイデアの創出を触発することをはじめ、多様な人を集めること、ビジョンなどにより意思統一すること、内発的動機を高めるという目的があることから、目的によっては正確に表現するのではなく、今あるものだけで代替的に表現をする、あえて抽象的な表現をすることにより、そのプロトタイプを鑑賞者が鑑賞する上で、鑑賞者の経験や学習による様々な知見(情報)などに基づき、想像力を発揮することによって、製作者の意図とは全く異なる想定外のアイデアを創出する場合があると考えられます。

このように、バウンダリーメディアの目的を、通常のプロトタイプの制作の目的とは異なり、新たなアイデアの創出を触発することを目的とした場合、正確に表現するのではなく、今あるものだけで代替的に表現をする、あえて抽象的な表現をすることは、デメリットではなく、メリットであると捉えることができるのではないかと考えられます。


【ビジョンなどにより意思統一するバウンダリーメディア】

バウンダリーメディアを活用する目的には様々な目的があり、多様な人を集めること、ビジョンなどにより意思統一すること、内発的動機を高めることを目的とした場合に関して、その中でも、ビジョンなどにより意思統一することを目的とする場合、バウンダリーメディアが具象的であった方がよいと考えます。


バウンダリーメディアを活用する目的を、ビジョンなどにより意思統一するとした場合、今回のワークショップにおけるビジョンとは、「森の深呼吸」というテーマに置き換えることができると考えます。

そこで、私自身が「デスクライト」のアイデアを検討するとき、「森の深呼吸」というテーマ(ビジョン)に関して、十分考慮した上で、アイデアを検討することができず、バウンダリーメディアの「フォルム」からアイデアを検討したものとなりました。

これに関して、私は、「森の中の暗闇」というコンセプトから、「暗がりで灯りが必要な場合、スマホのライト機能を使うまでではなく、スマホの画面で灯りを取ることにより、歩くことができる場合があることから、スマホをアームの先端に取り付け、スマホ自体をライトの代わりにするスタンドライト」というように、バウンダリーメディア自体には、「森の深呼吸」というテーマが反映したものと考えられますが、私がアイデアを検討する上で、「森の深呼吸」というテーマの意図を十分汲むことができませんでした。


なお、バウンダリーメディアの製作者のアイデアとは、「光が多方面へ反射する」というコンセプトから、「植物を支える支柱に多くのライトを取り付け、植物を巻きつけることにより、植物の間から木漏れ日のように光が漏れることによって、幻想的な癒されるライト」というアイデアでした。

また、その他の方が創出したアイデアとは「様々な場所に設置した光源と動いているドローンの光源が重なり合い一度しか見ることができない空間を作ることができるライト」、「半球形の真ん中に穴が空いた鏡に自然光を当てことにより、光の強さを上げるライト」というように、様々な解釈によるアイデアが創出されました。

これに関しては、他の方が創出したアイデアは、バウンダリーメディアの抽象度が比較的高かったため、様々な解釈をすることにより、様々なアイデアが創出されたことから、バウンダリーメディアを鑑賞したことにより、「森の深呼吸」というテーマの意図を汲んでいたかは不明確であることも踏まえ、バウンダリーメディアの目的であるビジョン(テーマ)などにより意思統一することができたと判断することは難しいのではないかと考えられます。


一方で、他のグループを鑑賞した上で、創出したアイデアに関して、他の3名の方が創出したアイデアとは、「植物を植える際に使用する支柱の好きな場所に発光する棒状のライトを付けることにより人の集合状況を把握できるライト」「カップに入った球状の発酵デバイスをスプーンで掬って入れたり取り出したりして照度を調整できるライト」「カップに入った球状の発酵する食材を就業時間外に食べてなくなることにより、仕事を終了する合図となるライト」となります。

これらに関して、他の方がアイデアを創出する上で、鑑賞したバウンダリーメディアは抽象度が高いものであったことから、意思統一することは難しいものと想定されましたが、バウンダリーメディアのデフォルメの度合いが高いものであったこともあり、他の3名の方のアイデアは使用するコンテクストは異なっていたものの、光の光源が増減することにより、照度を調整するという機能は共通していました。

これらのことは、他の3名の方のアイデアに関して、バウンダリーメディアのテーマである「森の深呼吸」を捉えたアイデアであるのかは不明確であるものの、照度を調整するという機能が共通していたことを踏まえると、バウンダリーメディアのフォルムの抽象度に対してデフォルメの度合いが、ビジョン(テーマ)により意思統一することの可否に影響していたのではないかと想定されます。


【まとめ】

新たなアイデアの創出を触発するバウンダリーメディア(プロトタイプ)

バウンダリーメディアの目的を、新たなアイデアの創出を触発するとした場合、鑑賞者が様々な解釈ができるよう、正確に表現するのではなく、今あるものだけで代替的に表現をする必要があるのではないか考えられます。

そのためには、バウンダリーメディアを抽象度が高いものにすることにより、様々な解釈をすることができることから、新たなアイデアの創出を触発できる可能性が高まるのではないかと考えられます。

また、バウンダリーメディアにおけるデフォルメの度合いが高い場合、バウンダリーメディアの作成者の意図が大きく影響することとなるため、デフォルメの度合いを抑えることにより、よりフラットな状態でバウンダリーメディアを捉えることができるのではないか考えられます。


ビジョンなどにより意思統一するバウンダリーメディア

バウンダリーメディアの目的を、ビジョンなどにより意思統一するとした場合、鑑賞者がその目的を確実に理解できるような表現をする、もしくは、鑑賞者に対して、その目的を確実に理解できるよう説明する必要があるのではないかと考えられます。

そのためには、バウンダリーメディアは、抽象度の高いものではなく、抽象度の低いものの方が、ビジョンなどにより意思統一することができる可能性が高まるのではないかと考えられます。

また、テーマ(ビジョン)により意思統一することを目的とすることは、人と人との関係性を重視したものであることから、バウンダリーメディアを鑑賞するだけではなく、一つのバウンダリーメディアを通して、メンバー間で議論を交わすことにより、意思統一することも重要ではないのかと考えられます。

なお、ワークショップを実践する上で、選定したバウンダリーメディアについて、製作者の意図などを含め、メンバー同士で議論を交わしつつ、個人ワークではなく、グループワークによりアイデアを一つ創出することによって、目的をより達成しやすくなるのではないかと感じました。


バウンダリーメディアの目的におけるトレードオフ

「新たなアイデアの創出を触発するバウンダリーメディア(プロトタイプ)」と「ビジョンなどにより意思統一するバウンダリーメディア」とは、抽象度という視点において比較すると、トレードオフの関係にあると考えられます。

例えば、新たなアイデアの創出を触発するバウンダリーメディアの場合、抽象度が高いことにより、様々な解釈ができることによって、様々なアイデアを創出することが可能となりますが、ビジョンなどにより意思統一するバウンダリーメディアの抽象度が高い場合、参画する人が様々な解釈ができることによって、意思を統一することが困難となります。

一方で、ビジョンなどにより意思統一するバウンダリーメディアの場合、抽象度が低いことにより、参画する多様な人の意思を統一することが可能となりますが、新たなアイデアの創出を触発するバウンダリーメディアの抽象度が低い場合、解釈が固定化されることによって、アイデアの広がりが抑制されることとなります。

これらのことから、バウンダリーメディアの目的(フェーズ)に応じ、バウンダリーメディアの抽象度を調整する必要があるのではないかと考えられます。

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