羊と雲の丘眺望羊群れ2

ぜんぶ自分でやらなくてもいいんだ

生まれ育ったまちから遠く離れた
とてもさむいまちでの暮らしの中で、
実は私はそこそこ無理をしていた。

とにかく息苦しくなって、
一度京都に逃亡している。

それは年末の
白い白い冬のまんなかだった。

だめだこりゃと思った瞬間に
飛行機や宿を予約して、
翌日には京都に向かった。

その年、
そのころまで雪はまだあんまり降っていなくて
だから私は大いに油断した。

ところが。

お正月明けまでの長い帰省の間、
道北地域に強い寒気が入り、
激しい雪の日が続いた。

野ざらしになっていた
私のちいさな軽自動車は
どっさり降った雪に埋もれてしまったのだ。

予定を切り上げて戻ろうにも、
年末年始の飛行機は
予約がいっぱいでどうにもならない。

すると、ともだちのトモくんとアズちゃん夫婦が
私のアパートまで雪が降るたびに何度も通って、
わざわざ車の雪下ろしをしてくれたのだ!
お正月だというのに!

ふたりに何度もお礼を言うと、
ふたりは何度もこう答えてくれた。

「困ったときはお互い様だから。」

士別での暮らしの中で、
特に雪という私たちの力では
到底コントロールできないものに対して、
ひとりで立ち向かわないでいいのだと
私は何度も思わされた。

車が雪にハマっていたら
通りがかりの人が通勤時間帯なのに(!)
助けてくれる。

管理人さんでもないのに、
出入口のあたりを丁寧に雪ハネしてくれる
やさしいおじさんが同じアパートに住んでいることも、
私はよく知っている。

ありがとうと言うと、
「なんもだ。ついでだから。」
と言ってくれる。

3年間、雪深い士別で
女ひとりでも安心して暮らせたのは、
こういう人たちのおかげだと思う。

こういう人たちの、こういう心意気の。

そしてそれは
どこにいても本当は変わらないはずだったのだ。
人はひとりでなんて絶対に生きられないのだし、
そもそもひとりで生きようとするなんて無茶だ。

「すみません」じゃなくて、「ありがとう」って言う。
そして自分ができるときに、できることを、できるだけ。

そうすることに、決めた。

◎鯨井啓子 info

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