個人と個人は、どこまでいっても完全に理解し合うことはできない。
　あなたが感じている痛みと、同じ痛みを、私が感じることはできない。

　だから、関係性の中でほんとうに大事なのは、理解し合うことじゃなくて、相手を理解したいと望み続けることだな、と思うのです。
　理解しようとすることを諦めないこと。それが最善のことなのではないかと。
　だから「解って欲しい」と望む代わりに、「解ろうとして欲しい」と望みたいと思います。

　私もあなたを完全に理解することはできない。けれど、解りたいという望みを持ち続けたい。
　こんな時、あなたがどんな風に感じるのか知りたい、聞かせて欲しい。そんな対話を日常的に持てたら理想ですよね。
　相手が完全に理解してくれなくても、「あなたのことが解りたい」と相手が思っていてくれる。それだけで心の中で何かが温かく溶けていきます。

　特に大切にしたい関係性だからこそ、相手の言動に一喜一憂してしまうことって、人間なら誰にでもあると思います。
　奇跡のコースでは「特別な関係」と呼びますが、自分が「必要としている」関係性に関しては、それを失うことや変化していくことへの恐れが常につきまとうために、相手の言動に感情が敏感に反応してしまうんですね。
　でもだからこそ、特別な関係は癒しの最高の機会にもなり得ます。
　そんな関係性の中では、自分の内側の、まだ光が当てられていない部分が如実に炙り出されるからです。

　私にもいくつもの光が当てられていないところ・・・「傷の反応ポイント」があります。感情のネガティブな反応が瞬時に起きるポイントです。
　私の場合は傷が反応すると、怒りよりも、不安や悲しみや疎外感、無価値感を感じてしまうことが多いようです。

　以前は相手の言動に対してそんな反応が起きると、単純に「相手から傷つけられた」という感覚しかなかったように思います。相手は加害者で自分が被害者、みたいな。
　こうして加害者・被害者の図式が頭の中で成立すると、そこから関係性がこじれていくのですよね。
　けれど、心の動きをよーく観察するようになって、これは相手の言動という単なる刺激に（そこに本質的な良し悪しはない）、自分の傷が無自覚に反応しているだけなんだな、ということが見えるようになりました。いわゆる投影という心の働きです。

　けれどそんな時、「これは投影だから」と自分の感情を脇に追いやるのではなくて、「ああ、ここに傷の反応ポイントがあるな。これを相手にも知っておいてもらおう。」と、この気づきを相手と共有するようにしています。
　ここが刺激されるとネガティブな反応が起きるけれど、それはあなたの言動そのものが悪いわけじゃない。あなたを責めたり喧嘩したいわけじゃない。
　自分の内側にこんな傷があるみたい。この傷はあなたのこんな言葉や行動に反応して、痛み出すことがある。ここを刺激されると怒りや悲しみを感じる。あなたにもそれを知っておいて欲しい。
　この反応が穏やかになるように、一緒に癒していけたらいいと思ってる。
　もしこんな風に相手に伝えることができるなら、喧嘩のタネは、絆を深めるかっこうのチャンスになるかもしれないですよね。
　（もちろん、相手の言動に明らかな悪意や攻撃性がある時は話しは別ですよ）


　「もー！あの人が○○だから！」と怒ったり悲しんだりして、加害者と被害者の図式を頭の中に作り出す前に、自分の中の、相手の言動に反応した傷に目を向けてみる。
　そしてその傷を、「ここにこんな悲しみがある」「ここにこんな怒りがある」と、相手と共に見ることができたら、お互いにとって深い癒しの機会になることだろうと思います。

　「あなたのせいで」「あなたが○○だから」と言い張りたいとき、「正しくありたい」という気持ちがそこにはあります。
　正しいのは自分。間違っているのは相手。そう言いたいのです。
　「正しさ」も防衛のひとつの形。正しさという防衛を解いた時、ほっと肩の荷が下りる感覚があると思います。
　奇跡のコースには「正しくありたいのか。幸せでありたいのか。」という問いがよく出てきますが、正しさと幸せは、両立しないのですよね。正しさ（ジャッジ）を放棄したところにしか、幸せはないと教えられています。

　正しさを放棄して、お互いの弱さを開示しあえるようなつながり。親子やパートナーとの間で、そんな力の抜けた関係性を築いていけたら素敵だろうなと思います。

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