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[書評]お世辞抜き、転職指南書の決定版! 佐野創太『ゼロストレス転職』は佳き生き方も教えてくれる。

人材ビジネス大手・パーソルキャリア株式会社出身の私が断言する。この本は転職指南書の決定版だ。転職に関わる思い込みの打破から応募書類の作成法、面接の対策、そして転職エージェントと最良な形でタッグを組むメソッドまでもが網羅的かつ具体的に提示されている。副題の「内定の近道」は嘘ではない。流行りのリファラル採用についても触れられているし、現在も採られる手段としてはメインになっているエージェント登録による転職においても、この書籍どおりに実践すればまず間違いなく内定が勝ち取れるはずだ。エージェントの舞台裏の隅から隅までを熟知した著者が描くノウハウは伊達ではない。

思い起こしてほしい。あなたはこんな考えに囚われていないだろうか?

・何十社も応募して、数で勝負した方がいい
・誰にも負けない強みや実績がなければ転職は難しい
・休職経験があったり介護等のビハインドがあると転職はなお難しい
・履歴書と職務経歴書だけが応募書類で、その二つで自身の魅力を伝え切る
・そもそも自分には他に働ける職場なんてない

結論からいえば全くそんなことはない。転職先のターゲットは絞った方がいいと言えるし、特異な強みや実績がなくても見せ方一つで先方の人事をうならすこともできる(むしろ凄い実績などなくてもいい)。休職していたことを強みに変える転職方法もあるし、履歴書と職務経歴書のセット以外に追加で書類を作って先方に送ったっていい(し、それが内定の決定打になることが多い)。何より、事実としてあなたがガッチリ内定を取りにいける企業はあまたとあるのだ。

本書の執筆意図について著者の佐野創太さんはこう語る。

「訳アリ、条件付きだけど転職活動で人生を好転させたい」と考える人のために開発したのが、ゼロストレス転職のノウハウです。

『ゼロストレス転職』9頁

また「良い転職とは何か」という問いに対し、彼はこう付言して答える。

本来のあなたを高く評価し、ムリせず実力を発揮できる環境を選ぶこと。

同41頁

「そんな理想、実現できたらいいけどさ……」とため息をもらす人もいるかもしれない。が、本書は「現場感のある抽象論」と「手取り足取り指南されているかのような錯覚に陥るほどの具体論」でそんな気持ちを一掃してくれる。また、数多くの事例で不安を吹き払ってくれる。そして先哲の言葉を引用して読者をモチベートしてくれる。

本書の白眉の一つは、転職志望先企業との出合いの「ガチャ」さから転職者を解放してくれる点にある。いわゆるモンスター企業を見抜く手法などがそれだ。厚労省が公開している「労働基準関係法令違反に係る公表事案」にはまさに法令違反をした企業が掲載されていて、それをサクッと検索すれば危うい企業がわかってしまう(大手企業だけでなく中小・中堅企業も多数掲示されているので有益だ)。ここまで顕著な例でなくても、いわば「隠れモンスター企業・部署」的な職場もある訳だが、その見抜き方まで本書は丁寧に教えてくれる。もちろんその逆、つまり良い社風、良い組織文化、良い働き方を実現している優良企業、隠れ優良企業の見抜き方も存在し、この本でその道案内も行われている。

まさに、転職者必見である。

そのうえで私は、個人的に『ゼロストレス転職』が「佳き生き方」をも教えてくれる点に感動した。たとえば自分に自信がなくて悩んでいる人がいるとしよう。本書が示すのは「そんなあなたにも強みはあるんです。ただ、それがいまは見えていないだけ」という「事実」である。佐野さんは語る。

強みは、見つけるというよりも、「出合い直す」という発想が必要です。

同27頁

そして彼は、強みと出合い直すための具体策をやさしく提示する。また、自身の強みを正しく活かさないことは、イコール「自分の本音に蓋をし続けることと同義」だと続け、精神科医・神谷美恵子の言葉を引用する。

自己に対するごまかしこそ生きがい感を何よりも損うものである。

本書内での引用は31頁

自身の本音に生きる。それを理想論で終わらせないための知恵が満載されているのが『ゼロストレス転職』なのだ。

佳き生き方という話に引きつけることのできる話題をもう一つ引用をしておきたい。佐野さんは「志望業界に行くためには性格を変えるべきでしょうか?」という相談にこう答えている。

確かに、目の前の内定が目標ならば、本来の自分を隠して合わせに行くことが近道です。しかし、性格まで変えてしまったら、入社後に辛くなります。

同43頁

自身の本音を隠して働く。それを全否定する訳ではないが、もしも本音で働ける道を開ける環境にあなたがいるのであれば、それを追求してほしい。そういった佐野さん願いの声が聞こえてきそうだ。そしてその可能性を高める役割を本書が担っているのである。

加えて、佐野さんは組織人として見失ってはいけない大事なポイントも教えてくれる。たとえば、介護などのサポートが充実している職場を探している転職者のケースを取り上げる段で、彼はこうアドバイスをしている。

ただし、こうした企業に転職を希望する際は、子育てや介護を志望理由として話さないでください。(中略)基本スタンスは、「制度を利用する側ではなく、私も子育てや介護を両立する会社を作る側でいたい」という、貢献する意識を見せることです。

同113頁

もちろん上記は面接時の対応の仕方として良策といえるものを示した箇所ではあるが、これは制度にフリーライドしようとするマインドではなく、そういった制度を支え、作る側になろうとするマインドを持つことの勧めとして読むことができる。その指摘は、働き手だけでなく、そもそも組織人が持っておいた方が良いマインドだと私は思う。

実は、本書には通奏低音として響いている思想がある。佐野さんは本文でこそ引用しなかったものの、「おわりに」でその思想の一端を示す文を紹介している。それは、かのナチスの強制収容所を生き抜いたヴィクトール・フランクルの名著『夜と霧』の一節である。

最もよき人々は帰ってこなかった。

本書内での引用は329頁

おそらく佐野さんには、今この瞬間にこれだけは伝えなければという切迫感があったのだと思う。切迫感というと大げさかもしれないが、少なくとも「ゼロストレス転職のノウハウを一刻も早く世に伝えることで、自分らしく働ける人が一人でも増えたら嬉しい」という気持ちはあったと推察する。その思いが、『夜と霧』という究極的な「人の生きざま」を描いた希代の名著から出ていて、本書にそれが結実しているのだ。それがゆえに本書は「佳き生き方」を示すものになったのだろう。

好著に触れることができ、感謝しかない。


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