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じいちゃんの手

若い頃、荒れてどうしようもなかった私をちゃんとした世界に引き戻してくれたのは、じいちゃんでした。


幼い頃に両親の別居によって父と離れた私は、”お父さん”の顔を覚えていません。

私がこどもの頃は今よりひとり親家庭が珍しくて、友達との会話の中で家族の話になったとき、私にお父さんがいない(一緒に暮らしていない)ことを友達が知ると、決まって気まずそうな顔をされました。

まわりの子たちが当たり前にお父さんの話をしているのを、「お父さんてそんな感じなんだ」と思いながら聞いていました。

でも、私は『お父さんがいなくてさみしい』と思った記憶はありません。
母方の祖父が父親代わりになり、大事に育ててくれたからです。

優しくて、足が速くて、最高にかっこいいじいちゃん。
そんなじいちゃんのことが大好きでした。

十代の頃、私はあることをきっかけに荒れて、家族と顔を合わせれば喧嘩していた時期がありました。
ある日、いつものように家族と喧嘩していたら、じいちゃんが黙って私の手を引いて、じいちゃんの部屋に連れていったのです。
感情が高ぶって泣きじゃくる私に何か言うわけでもなく、じいちゃんはただ黙ってそばにいてくれました。
少し落ち着いてきた頃、それまでのすさんでいた心が、魔法をかけられたかのようにすっと静まっていくのを感じました。
そしてその日から、ちゃんとした生活を送るようになりました。

そのときのじいちゃんの大きくてあたたかい手の感触を、今でもしっかりと覚えています。

時が経ち、私が妊娠したのを知って「俺にも抱かせてもらえるかなぁ」とばあちゃんに話していたじいちゃんは、娘が生まれる3日前に突然亡くなりました。
じいちゃんのお葬式の日に生まれた娘は、じいちゃんそっくりの顔をしていました。


今日、じいちゃんのことをふと思い出したので書きました。

じいちゃん、心配しないでね。みんな仲良くやってるよ。
いつも仏壇から見てるからわかってるかもしれないけれど、伝えたくなっちゃいました。


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