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雪の日 エッセイ

雪の日

小さい頃は雪が積もることが楽しみで仕方なかった。
晴れた日の朝、妹と二人で手袋をはめて長靴をはき、玄関を出た。真っ白な世界に一瞬、目がくらむ。まだ誰も踏んでいない雪の上を競うようにずんずん進んでいく。
いつもの景色をぜんぶ雪が覆ってしまい、どこに何があったのかわからなくなり、うっかり溝に足をはめてしまったりする。
二人で軒下へ向かう。大きなつららが何本も下がっていた。透き通った人参みたいな形をしたつららは、手を伸ばしても届きそうにない。
私は立てかけてあったほうきを見つけ、柄を持ってつららに向けた。もう少しで届きそうだ。
「落とすから、落ちてきたやつを拾ってな」
妹は少し離れてから、うんと頷いて上を見上げた。私は思い切り背伸びをして、ほうきを動かす。先っぽがつららに当たり、落ちた。
ほうきを放り出し、雪の上に落ちたつららを探す。人参のつららは二つに折れて、軒下の雪に沈んでいた。拾い上げ、妹に一つ渡す。私はつららについた雪を丁寧にはらう。
「折れてしもた」
「しょうがないなぁ」
手袋を外してつららを持ってみる。手の上でゆっくりとつららが溶けていくのがわかった。
妹は手袋をしたまま、つららを眺めている。
「なぁ、これってどんな味するんやろ」
「わからん」
私のてのひらから雫が滴って落ちていく。
「食べてみよか」
つららの先っぽを口に含んでみた。妹はじっと見ている。
「どんな味する?」
私はちょっと考えて答えた。
「雪とおんなじ味する」
軒に連なったつららは私がとったせいで一つ欠けて、なんだか歯が抜けたみたいになってしまった。
「雪うさぎ作ろう」
私はしゃがみ込んで雪を固め始める。うさぎの目は南天の赤い実にしよう。

週刊キャプロア34号より〜

#エッセイ #雪の日 #つらら #透明な

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