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噺を撮る【お直し / 五十軒道】

歳をとったこともあり、お茶をひくことが多くなってきた花魁。
悔し涙に暮れているところを若い衆に慰められているうちに二人はいい仲になる。
恋愛は御法度だが、主人の計らいで、二人ともその見世で働かせてもらえることになった。
これで安定した生活を、と思ったが、金に余裕ができると男は遊び始める。
地元のナカではまずいのでコツへでかけ、しまいには博打に手を染める。
おかげで無一文になり、仕方なく羅城門河岸の切見世で「けころ」を始める二人。
男が客引きをやり、女房に客の相手をさせる。
料金は線香1本で200文。

と、「悲壮な噺のようだけど、なんだかよく分からない」という方も多いかもしれませんね。
「お茶をひく」は暇なこと。
客がつかず、暇なので茶葉を挽く仕事をさせられたことが語源です。
「若い衆(わかいし、わけぇし)」といってもお兄さんではありません。
客引きをし、見世に上がった後の客の面倒を見る「ボーイさん」のような役割です。
「ナカ」は吉原のこと。
吉原の中心を通る道が「仲の道(なかのみち)」と呼ばれていたからでしょう。
「コツ」は千住。
千住にも遊郭があったそうです。
この地域の「小塚原(こつかっぱら)」に仕置場(処刑場)があり、この「こつ」をとってこう呼ばれるようになったとか。
吉原の羅城門河岸と呼ばれる通りには「格安」な切見世が並んでいました。
ここには売れなくなった遊女が多く、客引きが通りをゆく客にしがみついて蹴飛ばし、転がして見世の中に放り込む「蹴転(けころ)」という商売だったようです。
料金は時間制で、線香1本が燃え尽きるまでという数え方をしていました。
線香が尽きそうになると客引きの男が「直してもらいな」「お直しだよ」と声をかけ、女が客に線香の追加をねだり、料金が加算されていきました。
線香1本が燃え尽きるまでというと10分程度でしょうか。
これでは何もできませんものね。

こうして今は一般には使われない言葉が出てくるので、「古典落語は分かりにくい、難しい」と思われてしまうかもしれませんが、そんなことはありません。
ちゃんと分かるように面白く話してくれるので心配はご無用です。

/吉原大門(おおもん)への道は五十軒道と呼ばれ、写真にある通り、左右に曲がりくねっています。
これは吉原が外界から見えないようにしているためと言われています。
その吉原は遊女の足抜け(脱走)を防ぐためにお歯黒どぶと呼ばれる幅5メートルほどの堀で囲まれていました。
そして、大門に向かって左側のお歯黒どぶに沿った通りが「羅城門河岸」でした。
「河岸」といっても魚も舟もありません。
今は風俗店が賑やかに立ち並んでいます。
ちょっと怖かったので写真は撮りませんでした。
悪しからず。

五代目・古今亭志ん生は1956年にこの噺で文部大臣賞を受賞しました。
受賞した後の高座でこんなことを言っています。
「不思議なことあるもんですね、女郎買いの噺に大臣賞てぇのは」
「粋ですね、大臣さんも」

確かに。
時代ですかね。