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落語に関心がないあなたへ!【今、なんどきだい?】

もうだいぶ前のことですが、「今、なんどきだい?」という言葉が流行ったことがあります。
今の言葉で言えば「今、何時?」。

この言葉の出どころは「時そば(ときそば)」という落語なんです。
今日はそのお話。

屋台を引いて夜の街を歩くラーメン屋のチャルメラの音を最後に聞いたのはいつのことでしょう。
衛生上の問題もあるし、屋台のラーメン屋はもういなくなってしまったのかな?

江戸の街にはラーメンはありませんでしたが、そばを売り歩く商売がありました。
「二八そば(にはちそば)」「夜泣きそば」「夜鷹そば(よたかそば)」などと呼ばれています。

「二八」はそば粉とつなぎの小麦粉を8対2の割合で打ったから、とか、値段が16文だったので「2、8、16」という語呂合わせとかと言われています。

「夜泣き」は夜に売り声を上げて売り歩くから、かな?
「夜鷹」は…、う~ん、この場でご紹介するのは、ちょっと。
興味があったら、ご自分で調べてみてください。

その二八そば。
今のように車がついた屋台ではなく、前後振り分けにした「屋台」を担いで歩いていました。

保温できるものなどないので、材料や器だけでなく、水も火を起こすものもすべてを担いでいたのですから、ずいぶん骨の折れる仕事だったと思います。

その屋台には風鈴が下がっていました。
最近は耳にしませんが、親バカを揶揄する「親バカちゃんりん、蕎麦屋の風鈴」という言葉がありますが、それはここから来ています。

さて、本題のお話。

ひときわ寒い冬の夜。
そば屋を呼び止めてそばを注文した男。
あつあつのそばを食べながら、注文してすぐにできあがるのが嬉しい、割り箸を使っていて清潔だ、出汁のきいたつゆがうまい、麺に腰がある、本物の麩だ、器がいいなどと散々褒めておいて、いざお勘定。

「ひい(一)、ふう(二)、みぃ(三)、よぉ、いつ、むぅ、なな、やぁ」と数えながらお金を渡し、唐突に「今、なんどきだい?」と時(とき)を聞く。
そば屋「へぇ、ここのつ(九)でぇ」
男は「とぉ、十一、十二…」と続け、16文払って去ってゆく。

それを物陰で見ていた、ちょっと間の抜けた男。
「なんか、おかしい」とあれこれ考え、ようやくさっきの男が1文ごまかしたことに気づく。
「よし、俺もやってみよう!」

翌日、気が急いて前の晩より早くに家を出た男。
さっそく、そば屋を呼び止めて、そばを注文する。

しかし、前の晩のそば屋と違って、待てど暮らせどそばが出てこない。
「まぁ、いいや、どうせ暇なんだから」とブツブツ。

ようやくそばができてきた。

ぬるい。

「いいねぇ、割り箸を…使ってねぇな。まあ、いいや、割る手間がなくて」とブツブツ。

その後も、つゆはしょっぱい、麺はべちょべちょ、と、前の晩とはだいぶ違う。

それでもなんとか食べ終えて、いよいよお勘定。
「さぁ、いくぞ!」と張り切る間抜け男。

「ひぃ、ふぅ、みぃ、…なな、やぁ、今、なんどきだい?」
「へぇ、よつで」
「いつ、むぅ、なな、やぁ…」

さて、前の晩の男が時を聞いたときは「九つ」で、間抜け男のときは「四つ」。
九と四。
なぜ、こんなに違うのでしょう。

それは、「前の晩より早くに家を出た」というところがミソなのです。

江戸時代の時の数え方は、0時が「九つ」で、そのあとは今でいう2時間ごとに「八つ」「七つ」と進み、10時が「四つ」となります。
そして、次の0時はまた「九つ」に戻ります。

ということで、前の晩の男がそばを食べたのは午前0時から2時の間の「九つ」。
間抜け男は慌てて家を出たので、0時前、つまり「四つ」だった、というわけです。

ね?
落語って、意外とおもしろくありませんか?

ついでに、
この数え方だと3時は「八つ」ということになりますね。
3時の「おやつ」はここからきています。