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噺を撮る【船徳 / 駒形橋】

噺には季節が関係するものが多くあります。
年末が近づいてくると大晦日が舞台となっている「芝浜」が増えてくるように、その時期にあった噺をかけることが多いのですが、あえて冬に夏の噺をかけるという趣向もあります。
ということで、今日は季節外れの真夏のお噺。

噺に登場する若旦那はたいがい働きもしないで親の金で遊び呆けて、挙句に勘当される、ということが多いのですが、ここにも一人。
道楽がすぎて勘当され、柳橋にある馴染みの船宿に居候をしている徳兵衛。
華奢な体なのに、いなせな船頭に憧れて、自分も船頭になると言いだす。

あ、「いなせ」って、今、ほとんど使いませんね。
現代風にいえば「カッコいい」かな。
そういう男性を表すときに使います。
多分、女性には使わない、かな。
そういえば、サザンの歌に「いなせなロコモーション」ってのがありましたね。

で、その徳さん。
真夏の暑い盛り。
なかなか声がかからずに暇を持て余していると、船宿の馴染客が「大桟橋までやって欲しい」と言う。
しかし、あいにく船頭が出払っていて誰もいない。
宿のおかみさんは断るが、客が昼寝をしている徳さんを見つけて、おかみさんに頼みこみ、徳さんの出番となる。

さあ、そこから徳さんの大奮闘が繰り広げられるという噺。

この噺を持ちネタの一つとしていたのが八代目桂文楽。

徳が船頭になりたいと言いだす前半から後半の船を漕ぎ出す場面へ転換するときの一言。

「四万六千日、お暑い盛りでございます」

この一言で、ジリジリと陽が照りつける暑い夏の日の情景が目の前に浮かび上がります。
見事な話芸です。

「四万六千日(しまんろくせんにち)」は、ご自分で調べてみてくださいね。
「いなせ」にしろ「四万…」にしろ、現代は使われない言葉が多いですね。
「古典」という伝統を維持しつつ、分かりやすくするという噺家さんの技量が問われるところです。

/ 客が行って欲しいと言った「大桟橋」は、もちろん、横浜のではなく、大川(隅田川)にかかる駒形橋のことで、浅草観音にお参りにゆくときには、ここで船を降りたそうです。