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噺を撮る【へっつい幽霊 / へっつい】

「へっつい」
聞いたことがない言葉かもしれません。
漢字で書くと「竈」。
あ、かまど?
そう、「竈」は「かまど」とも「へっつい」とも読みます。
と、漢字は読めても、いったいどんな形をしたもの?
よほど古い民家か博物館とか資料館にでも行かない限り目にすることはありませんね。

このへっついから幽霊が出るという噺が「へっつい幽霊」。
といっても、怪談ではなく、愉快なお噺。

その幽霊、博打(ばくち)で大当たりしたものの、フグにも当たって、死んでしまった。
へっついに隠しておいた金に未練があって出てきたという。
そのへっついを古道具屋で買ったのが博打好きの熊さん。
幽霊が出ても怖がるどころか、開き直り、その金ぜんぶは渡さないと言う。
困ったのは幽霊。
交渉の結果、半分ずつに分けることにしたものの博打好き同士。
その金を元手に「二人」で丁半博打を始める。

なんだか楽しそうな噺でしょ?

この噺で、私の一番の思い出は2001年7月に聴いた古今亭志ん朝の高座。
亡くなる3ヶ月ほど前の落語会でのこと。
この日のトリをとったのが志ん朝でした。
その前の演者がすべて終わり、「さぁ、志ん朝だ!」
期待でワクワクしたのは私だけではなかったようです。
出囃子「老松(おいまつ)」が鳴った途端に客席は拍手喝采。
普通は出囃子が鳴り、演者が姿を見せてから拍手なのに、この日は違いました。
まだ志ん朝の姿は見えないのに、私も夢中になって手を叩いていました。
みんなが志ん朝を待っていました。
そして、かけたのがこの「へっつい幽霊」。
幽霊が現れたときにすーっと膝立ちになった姿の美しかったこと。
真っ白な着物姿が輝いていました。

それが私にとって志ん朝の最後の高座になるとは。