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出現! 反常識の規制改革メソッド①

デジタル庁を事務局とするデジタル臨時行政調整会(デジタル臨調)が、今年6月にとりまとめ公表した「デジタル原則に照らした規制の一括見直しプラン」。

見直しプランは、5原則からなる「構造改革のためのデジタル原則」に沿って、デジタル改革、行政・規制改革を効率的・計画的に進めるため、これから日本が3年計画で集中して取り組む事項をとりまとめたものです。日本のデジタル規制改革の中期計画といってよいでしょう。

この中期計画は、おおきく以下の4つの柱から構成されています。

  • デジタル規制改革を全分野に展開するために3段階のフェーズ・アプローチを採用

  • 霞が関の取組みを地方自治体に波及させるために、共創アプローチを採用

  • 将来の法令の立案過程を見据えて、立案者がデジタル原則の適合性を確認できるようにするためのプロセスを設計、そのために不可欠な法令自体のデジタル化を進める

  • デジタル化のプロセスを支えるヒトと組織の文化改革に取り組む

見直しプランの詳しい中身は、実際に見直しプランを読んでいただくことにして、この記事では、見直しプランの背後にある哲学を紹介したいと思います。
ちなみに、事務局が公表している、概要をまとめたパワポ資料もあります。

デジタル庁が公表した一括プランの概要説明資料


この一括見直しプラン、全体の哲学を一言でいうと、
「デジタル思考、イノベーター指向」
といえるでしょう。

デジタル規制改革がいかにデジタル思考で進められたかを皆さんにぜひ知ってもらいたいので、この記事は、規制改革の話をエンジニアの皆さんの使う言葉を使いながら説明したいと思います。

エンジニアの皆さんのみならず、起業家の皆さんや経営者の皆さん、オープンイノベーションに携わっている皆さんなど、なるべく多くの人に、
「日本政府もまんざら捨てたもんじゃないな」
と感じて欲しいと思います。

水平スケール型の規制改革

コードで書かれたシステムにはアーキテクチャがあるように、自然言語で書かれた法律にもアーキテクチャがあります。
特に、日本で成立した法律のほとんどは内閣が提出した「閣法」で、閣法はすべて「内閣法制局」という部署の審査を経て国会に提出されます。内閣法制局というのは、各省庁が作った法案が日本の法体系のなかに矛盾なく収まるように、行政から見た日本の法律システムのインテグリティを確保することを仕事とする役所です。
内閣法制局が、法案を微に入り細に入りチェックしているので、日本の法体系はかなり密結合したシステムになっているということができるでしょう。

アナログな社会を前提に、これを統治するために設計された規制システムを、デジタルな社会を前提とした規制システムにシームレスかつ迅速に移行するためにはどのようなアプローチが最善か。
デジタル臨調が見直しプランで挑戦したのは、まさにこのシステム移行の課題を解決することにありました。
これは、医療制度の改革であるとか放送制度の改革であるとか、分野を縦に切って行う従来型の規制改革とは発想がまったく違います。
法令というシステム全体を貫く方針として、いわば法律の下位レイヤーに「デジタル5原則」を置き、これと整合するように上位レイヤーのアプリケーションである法律を書き換えなさいという課題です。しかも、法律というアプリケーションには、これを補完・詳細化する下位法令が無数にあります。そしてその下位法令の下には、更に「告示」「通知・通達」「指針・ガイドライン」が更に枝分かれして存在しています。
日本には法令が約1万本あります。告示も1万本、通知・通達は2万本。全体で計4万本あまり。
とんでもない数のアプリです。
さらにさらに。これとは別に地方自治体が所管する「条例」が、地方自治体ごとに更に無数に存在します。

デジタル庁が挑んだのは、これだけ気の遠くなる数のアプリを改訂することで、アナログシステムをデジタルシステムに更新すること。しかも、どのアプリも止めるわけにはいきませんので、シームレスに、これを3年間でやり遂げなさいというオーダーになります。

一体全体、これをどうやるのか。

デジタル臨調のもとに設けられた作業部会が採用したのは、法律がシステムであり、そこにはアーキテクチャ、つまり個々の法令間、法律・政省令・条例の間にはそれぞれ関係性があることを利用しようというアプローチでした。
作業部会では、法システムに備わっているアーキテクチャに働きかけ、約4万を超える途方もない数の子システムを改修するためのシステムをデザインする、というアプローチを採用することにしました。

そこで意識したのがスケールアウト(水平スケーラビリティ)の発想です。

それぞれの子システムの改修のための課題の共通点を括り出し、一つの改修システムが可能な限り多くの個別課題を解決することができる、そのような改修システムを開発して、法令全体にこのシステムを当て込めば、当て込む法律の数を増やせば増やすほどに取れ高が大きくなっていきます。

そこで作業部会では、法文に現れているアナログな対応を義務付ける文言(ソースコード)を特定し、その文言が各法令の中で達成しようとしている目的(コンテキスト)ごとにこれを分類・類型化し、それぞれにつきデジタル化のためのロードマップをフェーズ化して示すこととしました。
これはつまり、「アナログ規制のデジタル化システム」を開発することにほかなりません。もちろん法律のアップデートですから、システムといってもコンピュータシステムではなく、自然言語で書かれ、人間が創意工夫を発揮して対応しなければならないシステムです。それでも4万超もある個別アプリをアップデートしていく方法として、これは唯一に近い解決策だったのではないかと思います。

スケーラブルな展開が可能なものとして作業部会が着目したアナログ前提のソースコード(法律の文言)は7つ。それが「目視規制」「実地監査」「定期検査」「書面掲示」「常駐専任」「対面講習」そして「往訪閲覧」です。見直しプランでは、まずはこれらにつき「デジタル化システム」を準備することとしました。

デジタル規制改革システムの概要図

第2回につづく


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