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福島第一原発1号機は満身創痍(2)

5月24日、東京電力(以後、東電)福島第一原発の1号機原子炉の鉄筋コンクリートの土台(ペデスタル)について規制庁からの報告を受けて、原子力規制委員会は、珍しく規制庁案よりも踏み込んだ対応を東電に指示した。東電の受け止めは・・・。

スカート:東電「変形確認されない」→規制庁「期待できない」

東電は1号機原子炉の「ペデスタルが座屈した場合でも格納容器貫通部は損傷しない」と4月14日特定原子力施設監視・評価検討会で報告した。

ペデスタル内部が全損していたことが内部調査で分かったことを踏まえての報告だ。(調査動画はこちら→ 2023/4/4(火)福島第一原子力発電所1号機原子炉格納容器内部調査(ROV-A2)の実施完了(2023年3月28日~30日の作業状況)

損傷しないと考える理由は「インナースカートに有意な変形が確認されていない」からというもの。沈下しても30センチしか沈まないと、報告した。インナースカートとは、ペデスタルの鉄筋の内側にグルっとスカートのように設置され、原子炉を支える機能をもつ(下図)。

2023年4月14日特定原子力施設監視・評価検討会
資料 1号機原子炉格納容器内部調査の状況[東京電力]P19    

インナースカートに有意な変形が確認されていない」とはどういうことか。
資料をたぐると(下)、素人目にわかるのは、インナースカートの周りに「ある」はずのコンクリートが「ない」ことだけだ。

2023年4月14日特定原子力施設監視・評価検討会
資料 1号機原子炉格納容器内部調査の状況[東京電力]P16

これに対し、原子力規制庁は「インナースカートを含むペデスタルの支持機能には期待できない」として、「格納容器に開口部が生じる場合も含めて、敷地外部への放射性物質の飛散の影響を評価すること、その結果によって対策を検討する」(資料P1~2)よう求めた。

(なお「格納容器に開口部が生じる」とは、筆者が考えるところ「格納容器が損壊する」ことを、おおごとに聞こえないように工夫した言い方ではないか?)

規制庁「結果によって対策を」→規制委「結果によらず対策を」

この報告を聞いて、原子力規制委員たちは、口々に疑問を口にした。

伴委員は「影響評価せよと言って、東電が数字を出してきたとしても、その数字をそのまま受け止めることはできない。評価結果に関わらず、対策を講じることが重要」と発言。

石渡委員は「インナースカートの材質と厚さ」を質問し、規制庁が「炭素鋼相当のもので30ミリ程度」と答えると、「30ミリ?・・・はーん」と沈黙した。

最後は、規制庁の竹内淳・東京電力福島第一原子力発電所事故対策室長が、「結果によってではなく、結果によらず」と原子力規制委員会から東電への指示を確認をした。

委員会指示を東電はどう受け止めたか?

ペデスタルが座屈しても大丈夫という東電に対して、規制庁が考えた「影響評価の結果で、対策の検討をせよ」という指示案が、「影響を起きるものと想定して対策を」というより厳しい指示になった、と筆者は受け止めた。

そこで、翌日(5月25日)。丁度、月1回の中長期ロードマップの進捗状況の記者会見(動画←そのうちリンク切れすると思われる)があったので、そこで、どのように受け止めたのかを確認しに行った。

すると、「原子力規制委員会の要求は理解している。耐震評価と環境影響評価、さらにそれに対する対策は並行してできる。一方は『耐震評価でもちますか、もちませんか』を評価する。一方は『もうもちません』ということを前提に考えてという要求だが、順番にやる必要はない。並行して行う。地元からは地震が来ても大丈夫かという声がある(から耐震評価もやる)」という受け止めだった。

昨年に次ぐ楽観思考

もう一つ、会見の最後の方で東電の楽観思考について尋ねた。

内部調査を初めて明らかにした昨年6月、東電は、「スタビライザ」という原子炉を水平方向に指示する構造物があるから横には倒れない、燃料が落ちて原子炉が軽くなったから落下しないと楽観していた(2022年6月20日1号機 原子炉格納容器内部調査の状況について)。

その後(昨年10月)、筆者は専門家の指摘を受けて、ペデスタル内部のコンクリートは爆裂、溶融しているのではないかと会見で尋ねたが、東電は内部には健全な部分が残っている可能性にかけて何もしなかった(既報)。

そこで、スタビライザは破壊されていることも「十分想定される」との指摘も合わせ、今はどう考えているのかと聞いた。

すると、「炉内は軽くなっているのは事実」、「スタビライザ以外にも拘束点はあり、全滅しているとは現時点では考えていない。調査の必要性はある」と、最悪な事態とは逆の方向を向いている。また、原子炉が軽くなっても、蓋の上に518トンもある外蓋が水素爆発のショックでズレ落ちてのしかかっていることは今回も考慮していないようだ。

そこで、最後に、インナースカートがあるから大丈夫というのは、昨年と同じ楽観論ではないかと念押しをした。

東電からは「(昨年)当初は、コンクリートも鉄筋もなくなっているかもしれないということも想定しながらの評価だった。実際は鉄筋が残っていた。現実的にはまだ評価しきれないんです」との答え。

楽観思考ではないと言いたかったのかもしれないが、原子炉を支持しているコンクリートも鉄筋もなくなって、原子炉が宙に浮いているとでも思っていたのか?理解できない、不思議な答えだった。

何が一番不思議か

しかし、不思議といえば、より不思議なことはたくさんある。福島第一原発では、解消できない面倒なリスクが次々と現れる。廃炉に向かっている気配さえない。にもかかわらず、政府はGX脱炭素電源法案(の中の原子力基本法案)で、原子力の活用を今回、新たに国の責務にしようとしている。これ以上の不思議はない。

【タイトル写真】

2023年5月25日 東京電力「中長期ロードマップの進捗状況」会見動画より筆者スクリーンショット)。会見場でうっかり写真を撮り忘れたので。

関係ノート
福島第一原発1号機は満身創痍 2022年11月2日


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