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「適切に廃炉」しているか? 「今は否(いな)」という回答が妥当ではなかったのか?

大事故が起きた時に「それみたことか」と言いたくない。


2023年12月6日、原子力規制委員会が、東京電力に原子炉を動かす技術的能力があるのか遡って議論した時点で、福島第一で「適切に廃炉作業を実施しているのか」という観点で、14件の実施計画違反が報告された(資料p10)。

この時は、10月25日の約44億ベクレル/Lの被ばく事件は「現在検査中」とされ、12月11日の被ばく事件は起きていなかった。そこでその時点の違反評価は「いずれも軽微」とされた。

東京電力ホールディングス株式会社に対する平成 29 年の適格性判断の 再確認に係る原子力規制庁による確認結果(2023年12月6日 原子力規制庁)p10

ところが、12月18日になり、10月25日の事件で身体汚染の濃度が3500cpmとされてきたBさんも実はAさんと同様の10万cpm超だったと東電が明らかにした(既報「濡らしたウェスで放射性物質を拭き取る作業」)。

そこで12月20日の会見で抜けている2件を入れれば16件だと指摘すると、「件数等は手直しがあるかもしれません」と山中原子力規制委員長は他人事だった。(既報)

「おそらく『軽微な違反』に達さない」?

12月27日の原子力規制委員会では、見え消しで10月25日事件は「現在も検査中」とされ、12月11日事件についてはなんの言及もなかった。

東京電力ホールディングス株式会社に対して平成29年に行った 原子炉設置者としての適格性に係る判断の再確認(2023年12月27日 原子力規制庁)p13

これについては、山中委員長自身が委員会で尋ね、12月11日事件については担当官から以下のように回答があった。

岩永宏平・東京電力福島第一原子力発電所事故対策室 企画調査官:本件は確認を進めているが、身体汚染が発生したイコール違反ではなく、起こっている状況が、今、検査の中で、厳しい状態での身体汚染ということもございまして、装備類との関係性を確認しておりますので、おそらく軽微な違反ということには達さないという状態。こういう事案は複数起こっておりますので、それとは一緒にしない形で確認を続けて行っている。

以下、動画をクリックすると該当箇所から開始します

 このことについてはその日(12月27日)の会見で再度尋ねた。前段から含めてコピペする。

○記者 福島第一原発の事故を起こした東電スペシャルというだけではなく、柏崎刈羽原発の場合は、それ自身が2016年に液状化評価が不十分で、基準不適合だったことが発覚し、2017年2月には、免震重要棟の基準地震動の評価が隠蔽されていたことが発覚して、その5か月後に規制委員会が七つの課題を提示して、基本姿勢が出来上がっていったと認識をしています。その3年後に、また不正ID事件が発覚し、1月に報道されるまで、規制庁長官ぐるみで隠蔽していたということが発覚したという流れで来ているのですが、委員長は、本当に適格性が東京電力にはあるとお考えでしょうか。
○山中委員長 今回、改めて許可の段階で、6年前に出した適格性を含む技術的能力がないとは言えないという判断が継続されているかどうかについて、改めて基本姿勢のところに集中して検査をしたわけでございますけれども、その検査に基づけば、その判断を変える必要はないと。委員会でも現地に直接赴きましたし、社長との意見交換も行いました。その上で、検査報告の結果について、特段の異論がございませんでしたので、平成29年12月に出した結論というのは、現在でも維持されているというふうな判断をしております。

○記者 ないとは言えないという判断だったということなのですけれども、あるかないかで言った場合に、先日来、伺っていますけれども、基本姿勢のうち、正確な情報発信についてと、地元をはじめ関係者の関心や疑問に真摯に応えというようなこと、そこの部分だけは、今回の適格性の判断の確認対象から外してしまっているわけですけれども、今回も、東電の社長との意見交換の結果として、様々な組織階層間でコミュニケーションロスが起こりやすい企業体質があり、その改善に取り組むと、今日の資料(P40)にも書かれているわけですが、この二転三転、情報がいつまでも変わって、最後まで真実が分からないというような、こういった体質は、委員長、先日、広報の問題だと言っていましたけれども、これは東電そのものの体質の問題ではないでしょうか。
○山中委員長 基本姿勢の1について、情報発信の項目というのが盛り込まれておりますけれども、これについては検査官もそうですし、規制委員会としても安全上の項目ではないという判断をしております。この点については、前回お答えしたとおりで、その意見は変わっておりません。

○記者 安全上の問題ではないという理由でわざわざ外す理由が分からないのです。委員長は分かりますか。わざわざ外すことなのでしょうか。
○山中委員長 適格性の判断について、今回検査をしたわけでございますので、その点については、特にそこを見る必要はないという検査官の判断だったのだろうというふうに思います。

○記者 (略)、12月の事案が書き込まれなかった、一切書き込まれていない理由を委員長はどのように理解し、了解されたのでしょうか
○山中委員長 今日、報告の中でもございましたけれども、軽微未満の判断であるという本庁の検査官の見解でございました。私も先週、福島第一原子力発電所に行きまして、検査官とも直接、地元の検査官とも意見交換をさせていただいて、これは12月に起こった身体汚染の事象については、軽微未満の事象であるという意見を現場の検査官も持っておるようでございますし、私自身もそういうふうに思っております。

○記者 最後ですが、軽微未満のものも含めて、軽微も含めて16件あるとして、しかも今日、岩永さんは、汚染事故、被ばく事故は、複数いっぱい起きていますみたいなこともおっしゃっていました。やはりそういった小さな事故の積み重ねが最終的に大きな事故につながるということもありますので、本当によろしいのでしょうかということをもう一度お尋ねします。
○山中委員長 人のミスとか、あるいはトラブルというのは、これはもう本当に現場では起きることだというふうに思っております。我々規制当局としては、安全上の重要度、あるいはセキュリティ上の重要度をきちっと判断した上で対応しないといけないというのが基本的な姿勢だというふうに思っております。軽微あるいは新しい検査制度であれば、その緑という判定が下れば、自律的な改善を事業者に促していくというのが継続的な安全性向上につながるというふうに考えておりますし、それが規制委員会の考え方だというふうに思っております。

2023年12月27日原子力規制委員会会見録

「駆け込み感」なぜ「このタイミング」

しかし、よりによってこんなタイミングで今、なぜ、というのは、多くの記者が疑問視している。

○記者 朝日新聞のササキと申します。 (略)これまでも長い時間をかけて検査をしてきた一方で、今日解除の決定が年末の最後の定例会というところで、ちょっとうがった見方をすれば、若干、駆け込み感というのも否めないかなと思うのですけれども、今日の決定になったというこのタイミングについては受止めはいかがでしょうか。

○山中委員長 これはもう10月、11月の検査の報告の流れからして、規制委員会自身が 現地調査をしたり、あるいは社長との意見交換をしたりということでスケジュール的にはその流れで、こういうスケジュールになったということで、たまたま時期的にはこういう時期になってしまったということでございます。

2023年12月27日原子力規制委員会会見録

惰性でGOサイン 「それが福島の教訓」?

立ち止まりこそすれ、「たまたま」と言える時期ではないだろうと思い、追い質問をした。一方で、燃料移動禁止命令の解除に向けた結論ありきの検査の最中に、原発事業者らの「原子力エネルギー協議会」がバックフィット(規制)の「肩代わり」(杉山委員の弁)として、事業者が自主的に安全対策を行うことも審議され、この日の資料の中で、柏崎刈羽原発もちゃっかり再稼働を前提として議論に加わっていたことも気になった。そこで、その2つをつなげて尋ねることにした。

○記者 度々すみません、フリーランス、マサノです。燃料移動禁止命令の解除のタイミングについてなのですけれども、先ほどもちょっと質問ありましたけれども、委員長、10月の報告の流れでこういったスケジュールになりましたということだったのですが、その最中に起きた、しつこくてすみませんが、被ばく事件を問題とせずに、いわば惰性でこのタイミングにしてしまったということは、東電にとっては悪いメッセージになるのではないでしょうか。
○山中委員長 トラブルというのは、これ何度も繰り返しになりますけれども、どうしても発電所、あるいは廃炉の作業を行う上で起こってしまうものであるというふうに思っております。規制当局としてはやはりその安全上の軽重をきちっと判断をして、自律的に改善ができるような事象であれば、事業者が改善をしていっていただくという、そういう継続的な安全向上というのが我々に必要なところであるし、それが福島の教訓であるというふうに思っておりますので、我々の判断としては、問題がなかったというふうに思っています。

○記者 一方でですね、ATENA(原子力エネルギー協議会)の件の質問をさせていただきたいのですけれども、デジタル安全保護系のソフトウェアの共通要因故障対策について、バックフィットではなくてATENAのガバナンスのもとで自律的に行うという件で、これ追加検査をやっている最中に、川内原発とともにですね、柏崎刈羽の6号機、7号機も一緒になってこの対策どうだろうかという議論をしていたわけですよね。これ、一方で検査していますってしおらしくしておきながら、実はもう再稼働を前提としたこのような対策について議論していた、ATENAの中で。これについては非常にちょっといかがなものかと思うのですが、委員長の御見解をお願いします。
○山中委員長 これは柏崎刈羽の様々な安全対策についての御意見、これまでも頂戴しておりますけれども、委員会の立場としては、安全性向上に繋がるような取組については進めていただくということについては否定をしておりません。

○記者 最後ですけれども、今後も高濃度線量下で、高濃度汚染しているものの洗浄や除染ということを担わせられる下請け作業員というのが無数にいらっしゃるわけですけれども、その作業員の方々に、今年について、そして今後についてどのようなお言葉を かけられますでしょうか。

○山中委員長 これは東京電力にも直接意見交換のときにお話をさせていただきましたけれども、やはり協力企業、あるいは下請け企業の職員ともきっちりとコミュニケーションをとって職員の意見を吸い上げて、きちっと対応をしてほしいと。そういう取組はもう既に行われているようでございまして、提案された意見と対応について、掲示をされています。福島第一のサイトに行きますと、そういうのを見ることができます。で、あまりに掲示が小さいので、きちっとそういうのが職員にも見えるようにちゃんと示してほしいということを東電にも指示いたしました。どんどん協力会社、あるいは下請け会 社の人たちについては、環境改善も含めて、東電のもし至らないところがあれば声を上 げていただいて、東電は真摯にそれに対応するという、そういうことを現場でもお願いした次第です。

2023年12月27日原子力規制委員会会見録

間違ったメッセージ

回答を聞いて疑問がさらに湧くことがあっても、実力不足で質問が中途半端に終わることは頻繁にある。しかし、そんな半端な質疑を拾って、突っ込んでくれる記者がいることは、記者会見ならではだ。

○記者 度々すみません、共同通信のタシマです。すみません、先ほど、ミスやトラブルはどうしても起きてしまうものだということで、委員長おっしゃってたのですけれども、ミスやトラブルは絶対ゼロにはならないということは理解できるし、現実そうなんでしょうけれども、だからといって、起こってもいいんだよという間違ったメッセージを送りかねないことに繋がらないかなという危惧を持っているのですけれども、委員長、その辺は改善していく中で、むしろ件数もどんどん減らしていってほしいのか、それとも変わらなくても軽いものであれば、軽いミスであれば、容認といいますか、何かどういう感覚でいらっしゃるでしょうか。

○山中委員長  誤ったメッセージにならないように我々は情報発信していかないといけないというのは、もう御指摘のとおりだというふうに思っておりますけれども、やはり安全について言いますと、やはり安全上の重要度をきちっと判断した上で、違反の程度を 判定をして、自主的に改善ができるレベルであるならば、事業者の自主的改善に委ねた いというふうに思っておりますし、これは継続的安全性の向上というのがやはり事業者にとって非常に重要な取組でございますので、規制委員会が全てに関与をして改善をさせるというのは、逆に弊害のほうが大きいというふうに思っております。トラブルはいくらでも起こってもいいという、そういう誤ったメッセージになるといけませんので、そのようにならないように繰り返し、メッセージを送りたいというふうに思っています。

2023年12月27日原子力規制委員会会見録

しかし、報告を上げたあとでミスが起き、労働安全の面からどのような問題があったのかも明らかにされず、おそらく『軽微な違反』に達さないという程度の判断で、燃料移動禁止命令を解除したのは、間違ったメッセージに他ならない。

また、山中委員長が「安全上の軽重をきちっと判断をして、自律的に改善ができるような事象であれば」よいと16件以上の複数事案が起きていることを見過ごせば、過酷事故が起きたときにはどうなるのか。「今度はたまたま『軽微』ではありませんでした」で済ませるのか?

「適切に廃炉作業を実施しているのか」という問いに、「少なくとも今は否(いな)」という回答が妥当ではなかったのか?

【タイトル写真】

岩永宏平・東京電力福島第一原子力発電所事故対策室 企画調査官 12月27日規制員委員会動画(https://www.youtube.com/watch?v=FziINK_T1ng&t=3282s )より 


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