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「耳かき一杯」取り出せない2号機の燃料ガレキ:福島第一原発

東京電力福島第一原発の困難は1号機だけではない、2号機でも続いている。「耳かき一杯」と原子力規制委員会の更田豊志・前委員長が2020年に表現した数グラムの燃料デブリ(=メルトダウンした核燃料等のガレキ)の取り出しのことだ。


デブリ取り出し構想の始まり

1〜3号機に合計880トンもある燃料デブリを、誰にも被ばくさせることなく取り出したり、処理したり、処理する場所を確保したりする見通しは現在のところない。

が、東電資料で遡る限り、2013年1月「東京電力(株)福島第一原子力発電所1~4号機の廃止措置等に向けた中長期ロードマップ進捗状況(概要版)」には既に「燃料デブリ取出計画」が登場する。被ばく線量の低減、どう遠隔で除染するかなど、燃料デブリ取り出し準備に必要となる技術開発・データ取得を推進するとされていた。

年12月16日、政府の原子力災害対策本部は、「政府・東京電力統合対策室(旧:福島原子力発電所事故対策統合本部)」を廃止、「東京電力福島第一原子力発電所1~4号機の廃止措置等に向けた中長期ロードマップ」の決定や進捗管理などを行う「政府・東京電力中長期対策会議」を設置。この会議の下に「研究開発推進本部」、その下に「燃料デブリ取り出し準備ワーキングチーム」が設置された。

2016年度からデブリ回収技術開発

時計の針を2016年に進める。技術研究組合「国内廃炉研究開発機構(IRID)」は、国の補助事業「原子炉格納容器内部調査技術の開発」を開始。2018年1月には、2号機のペデスタル内の底部全体に、小石状・粘土状に見える堆積物が確認されたとして、原子炉格納容器の貫通孔の一つであるX-6ぺネトレーション(以後、「X-6ペネ」)から調査装置や燃料デブリ回収装置などを入れて、開発技術の有効性を確認することにした。

出典: 自主事業「原子炉格納容器内部詳細調査技術の開発(X-6ぺネトレーションを用いた内部詳細調査技術の現場実証)」令和3年度最終報告 IRID 2022年5月

しかし、計画通りには終わらない。2020年から2023年度まではIRIDの自主事業になった。実施体制を見ると担当が細切れ(IRID資料P4)で、例えばX-6ペネの開放を担当するのは東芝エネルギーシステムズ。燃料を取り出すロボットアーム(*参照)は三菱重工業という具合。2023年度までに試験的取り出しを終えて、関連機器の撤去まで行う計画が(IRID資料P5)、それが無理なことがわかっていた2022年5月に報告されている。

IRID資料P4

致死レベルが相手の作業

格納容器の中は、IRIDらが測定できただけで最大毎時73シーベルト(2012年3月時点。下図の赤囲み)。ミリシーベルトでもマイクロシーベルトでもない。致死レベルだ。

2号機PCV内部調査にむけた X-6ペネ穴あけ及び今後の予定について」 2016年11月24日 p.9

そこで(下図)、原子炉建屋の外に現場本部を置いて、X-6ペネの前に隔離部屋を作り、長いガイドパイプを設置した上で、遠隔で調査を進めるが、これらの設置には人間が近づいて行った。

2号機 X-6ペネ内堆積物調査の結果」P13 2020年11月20日東京電力

短時間で行って戻って交代して被ばく線量を抑える。1日3mSv以下にする計画(公衆の被ばく限度は年1mSv)で、2020年10月28日、30日の段階で最大その半分だったと記録されている。

2号機 X-6ペネ内堆積物調査の結果」P13 2020年11月20日東京電力

ボルト「一部」→「半数以上」固着で5月の予定が10月に

2023年3月30日の廃炉・汚染水・処理水対策チーム会合で、4月までに隔離部屋にX-6ペネの蓋(ハッチ)を開けるための装置を入れて、5月中旬までにのハッチを開けますと報告(資料P5)。

福島第一原子力発電所 2号機原子炉格納容器 内部調査・試験的取り出し作業の準備状況(隔離部屋3の据付作業完了、および今後の作業予定について)」 東電 2023年4月17日

しかし、そこから丸3ヶ月が経過。6月29日になって廃炉・汚染水・処理水対策チーム会合で、ハッチを開ける以前にハッチボルト24本の一部が「固着」していたと小出し情報を発表(資料P6)。翌月7月27日の時点でIRIDが、固着を確認したボルトを「9本」とさらに小出し。

IRID「2号機 PCV内部調査・試験的取り出し作業の準備状況 2023年7月27日」P.6

しかし、10月16日の定例会見で、最終的に固着したボルト数を東京電力新聞の記者に聞かれて「15本」と東電広報が回答。

24本中15本が固着していたために、計画が遅れたのに、東電もIRIDもそのような素直な報告は、問われない限り、行わなかったのだ。

貫通孔「全開」でも、ベットリ堆積物が

ようやく全てのボルトが10月12日までに外れ、X-6ペネのハッチを、角度10度まで開けたと発表。そして10月16日、90度まで全開したと定例会見で撮影画像を発表した。しかし・・・、原子炉格納容器の貫通孔「X-6ペネ」は、「貫通孔」の体をなしていなかった。

福島第一原子力発電所 2号機原子炉格納容器 内部調査・試験的取り出し作業 X-6ペネハッチの開放(開き角度:約90°の全開放)等について」 東電2023年10月16日

こんなにベットリと堆積物が溜まっていることは、2016年にホールソー(穴あけノコギリ:東電、IRID資料「2号機PCV内部調査にむけた X-6ペネ穴あけ及び今後の予定について」P3 2016年11月24日)でハッチの上部に開けた時にわかっていたのに言わなかったのか(おしどりマコさん)、事実を隠蔽していたのか(テレ朝)と定例記者会見(動画←やがてリンク切れに)に参加した記者からは非難轟々。


2016年から続くこの大騒動は、耳かき一杯のため

これに対して、東京電力広報担当は、「X-6ペネ内に斜めに堆積していることはお知らせしていた」と、しれっと回答。

確かに、2023年4月17日資料などで「X-6ペネ内堆積物除去」と書いてあるが、その「斜めに堆積」している図は拡大しても、小さく、薄く、今回のベットリと入口を塞いだ写真とは乖離がある。

2020年11月20日東京電力「2号機 X-6ペネ内堆積物調査の結果」P2

この堆積物やケーブルは上記に書かれた【低・高圧水】【AWJ】【押し込み装置】で除去していくというが、2016年から始まり、これからも続くこの大騒動は、耳かき一杯の燃料デブリを試験的に取り出すための作業なのだ。燃料デブリを取り出すという構想の練り直しが必要ではないか?

*【関係報道】巨大ロボットアームを公開 福島第一原発2号機の燃料デブリの試験的取り出しが目的(2023年7月15日)ANNnews

【タイトル画像】

東電2023年10月16日「福島第一原子力発電所 2号機原子炉格納容器 内部調査・試験的取り出し作業 X-6ペネハッチの開放(開き角度:約90°の全開放)等について」より


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