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福島第一原発1号機は満身創痍(3)

<これまでのあらすじ>
4月、東京電力は特定原子力施設監視・評価検討会で、福島第一原発の1号機でロボットによる内部調査を終え、原子炉を支える鉄筋コンクリートの台座(ペデスタル)の全周でコンクリートが損傷していたと報告。しかし、インナースカート(ペデスタルの内側にある厚さ30ミリの炭素鋼スカート)が座屈しても公衆に著しい放射線被ばくのリスクを与えることはないと報告した。

5月、原子力規制庁は「インナースカートを含むペデスタルの支持機能には期待できない」とし、原子力規制委員会が「影響を起きるものと想定して」対策を指示した。ここまでが福島第一原発1号機は満身創痍(2)のあらすじだが、今日はその続き。


グルリと回って同じ結論「著しい被ばくリスク与えない」「検討する」

それから2ヶ月。7月24日、特定原子力施設監視・評価検討会で東電は「1号機ペデスタルの状況を踏まえた今後の対応に関する指示への対応状況について」を報告した。

大規模な損壊等に至る可能性は低いとしながらも、万が一大規模に損壊しても、放射性物質を含むダストの発生による線量は、極めて軽微か0.04mSv程度にとどまり、「周辺の公衆に著しい放射線被ばくのリスクを与えることはない」とし、「更なる安全上の措置として機動的対応やPCV(原子炉格納容器)封じ込め機能の強化の検討を進めている」とした。

Before and After 原子力規制委員会の指示

書き方が変わっただけで、指示前と後で、東電の対応は変わっていない。

こちらがbefore指示

2023年4月14日 1号機 原子炉格納容器内部調査の状況について 東京電力

こちらがafter指示

2023年7月24日 1号機 ペデスタルの状況を踏まえた今後の対応に関する指示への対応状況について 
東京電力

山中委員長「建屋に影響する可能性ある」

指示前後とも公衆に対する影響はないが、万が一の対策は「検討する」というもの。

相変わらず、1号機の格納容器の上に乗っている465tの蓋や、取り出すことができなくなっている燃料プールへの影響については考慮されていない。

そこは考えてもらわなければならない。その日の会見で山中委員長に聞くことにした。

Q: 1号炉のペデスタルの件なのですけれども、大きな開口部ができてもダストは飛散しなくて影響ないということだったと思うんですが、大きな開口部ができるほどの、もし衝撃があった場合、1号機の場合は格納容器の上に重さ合計465tの蓋がズレ落ちている状態で、それが100兆べクレルから200兆べクレルという高濃度にあると記憶しています。その衝撃があったような場合、この蓋がそのバランスを崩して、単に原子炉が沈下するだけではなくて倒れて、隣にある燃料プールにも損傷を与える、そういった懸念というのはないんでしょうかということと、あると思うので、それについての検討も指示すべきだったのではないでしょうかという点をお願いします。

山中委員長 当然、ご懸念の建屋に対する影響というのは、可能性としてはございます。したがいまして、今日の項目で言いますと(1)(2)(3)の3番目、いわゆる格納容器そのものが、どういう影響を受けるのかということに付随して、やはり建屋への影響ということをきちっと評価をしていっていただく、あるいは今日、地震計を上部に設置をしてはどうかという提案もいただきましたので、この点、建屋に異常があれば、小さい地震でも、異常の振動ということでモニターできると思いますので、ご指摘のとおり、建屋の影響ということもきちっと評価をするとともに、モニターはしていかないといけないというふうに思っています。

Q: ありがとうございます。(3)に入るということで理解しました。

2023年7月26日原子力規制委員会記者会見録

山中委員長の言った「(1)(2)(3)の3番目」とは、5月24日に原子力規制委員会が東京電力に指示した一つで「ペデスタルの機能が喪失したとして、圧力容器、格納容器に構造上の影響がないかどうかを検討すること」だが(下記の通り)、そこでは「建屋」にまでは言及していなかった。

東京電力ホールディングス株式会社福島第一原子力発電所の1号機ペデスタルの状況を踏まえた対応状況
2023年7月26日 原子力規制庁

しかし、会見で、山中委員長は「建屋に影響する可能性ある」、「ご指摘のとおり、建屋の影響ということもきちっと評価を」「していかないといけない」と述べた。言葉通りなら、東電は「万が一に備えて」「更なる安全上の措置」を検討する範囲が、建屋(燃料プール)にまで広がったことになる。

5重苦の中で先行する大型カバー設置

これを東京電力はきちんと認識しただろうか。翌日(7月27日)の中長期ロードマップ進捗に関する会見(動画)で確認しておこうと出向いた。ところが、いくつもの作業の進捗を聞きながら改めて思った。

津波と地震とメルトダウンによるダメージに加えて、地下水流入と老朽化という5重苦。その中で多くの措置が同時進行している。

現在、衆目を集めているのは、海洋放出ありきで政府・東電が進めようとする約1000基のタンクに溜まりに溜まった汚染水の処理だ。希釈したり、2次処理したりして海洋放出することを急ぐが(既報)、それも含めてあまりに多くの作業が同時進行している。それぞれの関係性や優先順序を、東電はどう考えているのだろうか。

例えば、1号機では原子炉建屋を覆う大型カバーを、2024年度内に完成させることを考えている。これは、ガレキ撤去で舞い上がるダストの飛散抑制効果を狙っている。

出典:2023年7月27日 東電資料(燃料デブリ取り出し準備)

一方で、先述したように東電は、原子炉圧力容器が損傷しても、ダスト発生による線量は極めて軽微か0.04mSv程度だと評価している。

乱暴な言い方をすれば、大型カバーを設置するなら、ペデスタル挫屈によるダスト飛散は深刻な問題ではないが、もし、燃料プールまで倒壊すれば(可能性は低いと東電は考えているが)、大型カバー内での作業は困難になる。

そこで、1号機の大型カバーの設置(2024年度完成)と、原子力規制委員会から指示された2026年度以降の地下水対策(止水)の関係を聞いてみた。

東電(※)の回答と、続く問答の取材メモは以下の通り。

東電:大型カバーの設置工事の目的は、使用済み燃料を取り出していく際に、オペレーティングフロアにあるガレキを撤去していかなければいけないので、ダストの飛散を防止すること。カバーをかけることで雨水の侵入が防止できる可能性は高まる。地下から入ってくる水の抑制に効いてくるものではない。

Q:そこは理解しているが、地下水が流入することへの恒久的な措置には、周辺が高濃度に汚染されているから着手できないといったことが一つにはあった。ですので、この大型カバーを進めていく上で、高濃度に汚染されたガレキを撤去していくことによって、止水工事の検討がしやすくなるのかどうかについてお聞かせください。

東電:おっしゃる通り。大型カバーを設置するにあたっては、周りの環境改善を行なっています。現在もガレキ撤去などをおこなっていますし、線量の軽減を図っていることもありますし、近くのSGTS配管など線量を上げていると思われるものも撤去していくことになる。ですので、今後、考えていく建屋止水、局所止水を行なっていくにあたっても、大きな影響を与えているのではないか。(筆者メモ:大型カバー設置はSGTS配管撤去と並び、線量低減に寄与して、結果的に止水工事をやりやすくなる環境を与えうるという意味だと解釈)

Q:東電は監視評価検討会の中で2028年を目標に止水工事を検討していく、(一方で)原子力規制委員会は2026年と、2年のギャップはどうするのか。

東電:現在、5、6号機でモックアップをおこなっているが、建屋の局所止水というものをまず検討しているところ。今後、3号機を筆頭にやっていくことを考えているが、いろいろ実証していくことができれば、速やかに進めていきたい。ただ、地下水対策というものはそれだけではなくて、陸側遮水壁の内側だとかは粛々と進めており、我々目標としている2028年に50〜70m3に地下水の汚染水の発生を抑える工事は粛々と進めてまいる。

Q:ペデスタルの状況を踏まえた対応として、山中委員長は、燃料プールへの影響も含めた対応を考える必要があるとの見解を述べたが、大型カバーをつけることとはどういった関係が出てくるのか。

東電:RPVが下に落下することはペデスタルの強度という話になると思う。耐震評価については今後も規制庁と協議を行なっていき、インナースカート等のペデスタルを支持する構造物の強度評価を行う方針として、強度評価結果の説明を順次していきたい。
 もう一つ、先ほど大型カバーという話がありましたが、大型カバーが設置されると、もし、万々が一、ペデスタルが落ちた場合に、飛散を抑制する効果はあるのかなと我々評価しているところです。

東電:松尾から補足させていただくと、先だっての評価検討会を受けて、1号機の格納容器ですとか圧力容器など構造物への影響は今後評価をしてご説明していくという流れになっていくかと思う。詳細については改めてということをご承知願いたい。

2023/7/27(木) 中長期ロードマップ進捗状況について
(動画アーカイブ:そのうちリンクが切れると思われます)

(※)上記「東電」とは、広報担当の高原氏(右から2番目)。4番目が広報担当の松尾氏。3番目の小野明・福島第一廃炉推進カンパニー・プレジデント兼廃炉・汚染水対策最高責任者は横で両氏の回答を聞いていた。

「2023/7/27(木) 中長期ロードマップ進捗状況について」会見アーカイブを筆者スクリーンショット

高濃度ガレキ、高濃度燃料デブリ、高濃度使用済み燃料、地下水流入で増加する汚染水、汚染水から濾し取られる高濃度のドロドロの廃液・・・1号機に限らず、福島第一原発は満身創痍な中、延々と続く事故処理。こられは私が死ぬまでにはもちろん終わらない。原発事故は一回起きるとこうなるのだ。続く。

8月分の「川から考える日本」を書き上げ、原子力規制委員会がお盆の間に、溜まってしまった取材メモをまとめているが、書ききれないほど問題だらけだ。

今日も長い取材メモにお付き合いくださり、ありがとうございました。

【タイトル画像】

7月24日特定原子力施設監視・評価検討会 東京電力「1号機ペデスタルの状況を踏まえた今後の対応に関する指示への対応状況について」より


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