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志賀原発で何が起きていたか? ①津波「上昇3m、下降1m」

「令和6年能登半島地震」翌日、時事通信は「北陸電力は2日、志賀原発1、2号機(同県志賀町)では津波による海面変動は観測されなかったと発表した」(1月2日「志賀原発、津波観測されず)と報じた。


「観測されず」→「3m上昇」

1週間後の1月9日、一転して、北陸電力は、2号機取水槽の水位計(赤丸)で約3m、港の物上場の波高計(青丸)で約3m上昇したと発表(1月9日「令和6年能登半島地震による志賀原子力発電所の現況について」)。時間は17:45。2地点の距離は数百メートル。

2024年1月9日北陸電力「令和6年能登半島地震による志賀原子力発電所の現況について
添付資料1

北陸電力「約1~3mの津波が複数回到達」

NHKは1月9日の北陸電力発表として、16:35の1m、17:45の3m、他にも複数回の津波が到達した旨を報道(2024年1月10日「志賀原発 “地震発生後 約1~3mの津波が複数回到達” 北陸電力」)。(今日12日に北陸電力に電話取材したところ、Zoom会見で記者質問があり、そう答えたと言う。)

山中委員長「引き波、押し波があった」

一方、1月10日の今年初の原子力規制委員会では、原子力規制庁が資料p.3で「実際の海表面での津波高さを測定したものではなく、現在詳細調査中」と報告。

山中委員長が「上昇の話はでていたが、下降の話は」と尋ねると、規制庁の山口道夫・事故対処室長が、「資料の中で触れておりませんでしたけれども、事業者(北陸電力)の方からは下降側では、1メートルほどの水位の低下があった」と回答。

規制庁事故対処室長「上昇が3m、下降が1m程度の津波」

山中委員長は「ということはそれなりに、それ相当の引き波あるいは押し波があったと考えた方がいい」かと再質問。山口室長は「おおむね上昇が3m、下降が1m程度の津波があったのではないか」と回答した。

私は移動しながら委員会をiPhoneで聴いていたので、実は、この部分を聞き損ねていた。ただ、資料と報道の違いが気になり、委員会終了直後のブリーフィングに滑り込み、以下のように確認した。

Q:3mの津波の到達時間はどのように認識されているか?
山口室長:今日説明したのは2号機の取水槽のところで水位変動があったということ。これが直ちに津波の到達かどうか、津波によるものかどうか、現時点で確認を取れていませんので、ご質問の「津波の到達時刻」を含めて把握していない。

Q:これから確認するのか?
山口室長:説明を受けていた段階では、取水槽での高さのほか、港の方で波高を取る設備があって、そこはデータを把握していなかったという段階までしか話を聞いていなくて、北陸電力の公表が昨日あったようですけれども、そこによれば、数字が出ているようなんですが、その内容については把握していない。これから北陸電力から話を聞きたい。

筆者による音起こし

記者情報>事故対処室長情報

つまり、この時点では、北陸電力が経産省と原子力規制庁に詰めている記者たちにzoom会見で知らせたことを、事故対処室長は知らない。情報量が逆転していた。

山中委員長「津波があったということはもう間違いない」

この捩れを知らない私は、能天気にその直後に行われた山中伸介委員長会見でも尋ねた。

○記者:委員長自身はこの津波の到達時間についてどのようにお考えでしょうか。
○山中委員長:(略)陸地から近いところの海域での断層が動いたということで、非常に時間が短かったということについてはそうだろうなというふうな理解はしておりますけれども当初はやはり地震の規模だけが情報としては入っておりましたので、津波が生じるということについては考えてはいませんでした。

○記者:短い時間で津波が志賀原発に到達したというふうに認識されたということで間違いないでしょうか。
○山中委員長 到達時間についてはまだ正確に私は把握しておりませんけれども、取水路で水位が変動したということは報告を受けておりますので、正確な到達時間については事務方に確認をいただければというふうに思います。

○記者 先ほど実は事務方さんに聞いたところ、津波とは認識しておらず水位変動があったというふうに答えられてしまいまして、3メートルというのは一般常識的には津波だと思うのですが、そのような認識で大丈夫でしょうか。
○山中委員長 (略)津波があったということはもう間違いないというふうに思っています。

2024年1月10日 原子力規制委員会記者会見録

北陸電力の結論は、発電所は11m、防潮堤・防潮壁は4mなので「影響はない」というものだ。しかし、下図の北陸電力資料の防潮壁付近を拡大してみて欲しい。水位が上昇した地点の1つは防潮壁の内側。もしも、海から3m以上の津波で押され続ければ、噴き上がったり、海水ポンプが破壊して取水・冷却ができなくなったりすることもありえた(原発は稼働しておらず冷却が必要なのは使用済み燃料プールだけだったものの)。

令和6年1月 10 日 原子力規制庁「令和6年能登半島地震における原子力施設等への影響及び対応」p22

津波到達地点の数々の被害

引き波や他の地域で起きた隆起により取水不能になることもありえた。
また、押し波3mと引き波1mのあった地点では数々の被害がでている。

・物揚場コンクリートは、35センチ沈下して段差ができた。

令和6年1月 10 日 原子力規制庁「令和6年能登半島地震における原子力施設等への影響及び対応」p35

・1号機の放水槽(内側)と高さ4m防潮壁(外側)では、基礎が沈下、防潮壁が傾いた

令和6年1月 10 日 原子力規制庁「令和6年能登半島地震における原子力施設等への影響及び対応」p35

 ・1号機の防潮壁の基礎地盤には数センチの空隙ができた。

令和6年1月10日原子力規制庁「令和6年能登半島地震における原子力施設等への影響及び対応」p25とp27

北陸電力が原子力規制庁に報告しただけでも、地盤の異変は他にもある(資料p23)。

繰り返すが、北陸電力は、発電所は11m、防潮堤・防潮壁は4mなので、水位の「影響はない」と結論している。しかし、当初は「海面変動は観測されなかった」から、1週間が過ぎて規制庁への報告でまだ「データを把握していなかったという段階」で、その前日には報道資料で津波を「水位上昇」と称してその一部だけを発表していたというチグハグぶりでは、まだ信じることはできない。

原子炉建屋やタービン建屋の地下水はどうなっているのか、など、福島第一原発を教訓に聞いておかなければならないことが「水」関係だけでもまだあるのだ。

「地味な取材ノート」ではのんびりペースで恐縮だが、②変圧器、③地震動、④使用済み燃料プールで何が起きていたのかなどについても、それは何を意味するのかも記録をしていきたい。

【2024年1月13日加筆】

北陸電力の2023年2月10日資料「志賀原子力発電所の安全対策について」を見つけた。今回の地震で被害を受けた「防潮堤」や「防潮壁」の健全な姿がわかる。これらと比較できる写真(before/after)をきっちり公表したり、資料全16頁で定めた「安全対策」がどのように機能したのかを示したりすることが大切ではないか。

北陸電力2023年2月10日「志賀原子力発電所の安全対策について」p.10

加筆終わり。

【タイトル写真】

2024年1月10日原子力規制委員会の直後の記者ブリーフィング。あまり知られていないが、委員会直後には毎回、このように規制庁担当者が記者からの質問を受ける場が設けられている。筆者撮影。

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