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「ナトリウム冷却高速炉」事故のための試験で火災発生:茨城県

3月15日に茨城県内の原子力施設でまた火災があったと江尻かな茨城県議がポストしていた。

茨城県の「原子力施設における事故・故障等に関する情報」サイトには、夥しい火災の記録が並ぶ。今回は日本核燃料開発株式会社の研究室で起きたとある。


なぜ水のあるところでナトリウムを?

毎日新聞「日本核燃料開発で火災 ナトリウム処理中にバケツから発火 茨城」によれば、「水を張ったバケツにエタノールの容器を入れ、ナトリウムを加えた瞬間に炎が発生」したとある。原子力規制委員会から請けた事業だという。

日本核燃料開発リリースによれば、ナトリウムの安定化作業で、温度が上がりすぎないように金属製バケツの冷水で冷やしていたと書かれている。しかし、水に触れたら爆発するのがナトリウムなのに、なぜ? 謎だが、日本核燃料開発に電話取材をしようにも、電話がつながらない。

材料研究棟 精密測定室における火災について(速報)添付資料より

そこで、3月18日午前、原子力規制庁の事故対処室に、火災が起きたことはともかく、何をしようとして火災が起きたのかを尋ねると、彼らも日本核燃料開発の発表の範囲しか知らないというので、まずびっくりした。

なぜ今、そんな試験に原子力規制庁がお金を出す?

事業を発注した原子力規制庁技術基盤課に尋ねると、「アルカリ金属の蒸発挙動に関する知見を取得するために、金属セシウムと金属ナトリウムからなる試料を溶融して蒸発させて、蒸発速度を測定する試験を請け負わせていた」という。

さっぱりわからないので、こう聞いてみた。
Q:火災が起きたときのような状態を作るということですか?
A:火災の状況を模擬しようとしたものではない。
Q:火災のような状況を作ろうとして火災を起こしたわけではない?
A:ないです。私たちも請け負わせた担当から、状況を詳しく聞いていない。

Q:事業名は?
A:「令和5年度 ISAACの改良に向けたアルカリ金属 エアロゾル挙動試験」

ここに仕様書を見つけた。
「令和5年度 ISAACの改良に向けたアルカリ金属 エアロゾル挙動試験」

ISSACとは何かを尋ねると、「ナトリウムを使う炉の、ある種シビアアクシデントを模擬したときの解析コード」だという。そしてこの試験は、「そのコードを改良するために、必要になる基礎的な試験データを取得しようとしたもの」らしい。

高速増殖炉もんじゅはもう廃炉なのに?

なぜ、そんな試験が今、必要なのか? ナトリウムを冷却材に使う炉は廃炉が決定した高速増殖炉「もんじゅ」しかない。まさかと思い、直感したままを尋ねた。

Q:高速炉の開発に資するものですか?
A:開発に向けたというより、シビアアクシデント時の安全性を確認するために必要になる安全規制側からの視点、必要になるコードと理解している。
Q:今ナトリウムを使った高速炉がないわけなので、なんでそれが必要になるのか、わからない。

さらに尋ねると、「今、情報を持ち合わせていない」ので、分かれば教えてくれるという。そこで、①冷却材のナトリウムを使う炉がないのに、なんのための試験か。②何をしようとして火災が起きたのか、説明を聞いてもよくわからないので、この2つをわかりやすく教えて欲しいと頼んで電話を切った。

「ナトリウム冷却高速炉」? 直感が外れることを願う

高速増殖炉もんじゅのナトリウムは抜き取られて「タンク内で固体の状態で保管中」(下図)で、2028年度から2031年度に英国に搬出される予定だ。

出典:「もんじゅ」廃止措置の進捗状況」(2023年4月19日「日本原子力研究開発機構)

搬出のための移し替え作業で事故が起きる可能性を考えてのことなら理解できるが、入札説明書を見てみても「もんじゅ」という具体名は出てこない。

入札説明書に出てくるのは「ナトリウム冷却高速炉」であり、やはり、これは日本原子力研究開発機構などが「」から取り組み、実現できていないナトリウム冷却高速炉のことではないか?

すると、これは、岸田政権がGX基本方針で謳う「次世代革新炉」の開発を先取りした安全規制側からの視点による発注なのか? 原子力規制庁が、まだ見ぬ「次世代革新炉」を規制する準備を密かに始めたら、事業者が火災を起こして露呈してしまったということなのか? 原子力規制庁が開発側と足並みをそろえて「ナトリウム冷却高速炉」の夢を見ようとしているという疑いの直感が、外れてくれることを心から願いながら、回答を待つことにする。

火災を起こしたのは東芝・日立系

なお、日本核燃料開発株式会社は、東芝エネルギーシステムズと日立製作所が50%ずつ株を持ち合っている会社だった。

地震大国の日本での原発新増設は止めるべきだが、中でもナトリウムを冷却材に使う高速炉開発に税金を使うことは愚かすぎる。もんじゅ火災に続いて、原発業界の老舗関連企業が起こした火災は、それを改めて明らかにしたのではないか

また、高速炉開発にどれだけの税金が費やされようとしている(私に言わせればドブに捨てられようとしている)のかについては、2023年5月29日に書いた取材ノート「半世紀を過ぎても未完―高速実験炉「常陽」のパブコメ #GX」の、余談:GXで高速炉は「次世代革新炉」もご参照いただければ幸い。

【タイトル画像】

日本核燃料開発株式会社材料研究棟 精密測定室における火災について(速報)」の添付資料より。

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