見出し画像

第二セシウム吸着装置「サリー」の汚染水漏れ:その後

2024年2月7日(水)、第二セシウム吸着装置「サリー」から汚染水が漏れたことについて(既報)、東京電力(東電)は、19日(月)の特定原子力施設監視・評価検討会と21日(水)の原子力規制委員会報告を行った。


東電による問題と対策の捉え方

東電は、漏えい(★量については文末に)が起きたのは、洗浄(パッキン交換を含む点検前に空間線量を下げるために吸着塔に真水を注入する作業=線量低減作業)前に弁を確認しに行った作業員が、弁が「閉」になっていると思い込んでいたからだと説明した。また作業員には「高線量下の作業であることから早く作業を終えたいとの意識もあった」という。

そして、漏えいの原因の一つは、「手順書」に弁を『「開」から「閉」に操作する』と書くべきところ、『「閉」を確認する』となっていたこと、もう一つは、東電社内の「運転部門と保全部門の連携が取れていなかったから」だと説明した。
そこで、次のような対策をとるという。

  • 運転部門が一元的に「閉」の操作をして、点検を行う保全部門に引き継ぐ。

  • 建屋外に出ていたベントの口を、建屋内に入れるよう設備を改善する。

オートベントと手動弁の混在

以下が問題が起きた「手動弁」(=ドレン弁)の拡大図だ。

高温焼却炉建屋からの放射性物質を含む水の漏えいに係る原因と対策」(2024年2月19日、東京電力)
  • オートベント弁は、汚染水が吸着塔から上がるとウキ(赤い部分)が浮いて、自動的に弁を塞ぐ。水が下がればウキが下がり、水素だけがベントラインを通って外へ出る。

  • 水素は、吸着塔内の汚染水が放射線によって分解されて発生するものだ。

  • 手動弁(ドレン弁)は、水素が逃げていくように「開」にしていたが、吸着塔の洗浄時は、左のように「閉」にしなければ、右のようにベントラインを通って汚染水が出ていってしまう。今回はそれが起きた。

高濃度の汚染物質と人間の「境界線」

さて、19日(月)の東電会見(やがてリンク切れする動画)で質疑をして分かったことがある。東電は「バウンダリー」(=高濃度の汚染物質と人間の境界線)を形成しなければいけないという意識を持っていながら、この期に及んでまだ、人手に頼ってバウンダリーを形成しようとしているということだ。本来なら

  • 弁の操作ひとつを間違えば、汚染水が建屋外に出る設計

  • 「運転部門と保全部門のコミュニケーション」が取れていないと漏れる設計

これらを改善して、人間がうっかりしていても、高濃度の汚染物質は閉鎖空間にとどまる設計にすべきではないか?ところが、運転部門が一元的に「閉」にして保全部門に引き継ぐという対策では、漏えいは再発すると考えるのが自然ではないか?

結局、ALPSの配管洗浄作業も同じ問題だった。汚染水が流れていく仮設ホースが暴れてすっぽ抜けた仮設タンクも口が開いていて「開放系」だった(下写真)。

ALPSの配管洗浄廃液を貯めるタンク
(写真提供:東京電力HD株式会社 撮影日:2023年10月25日)

どちらも、バウンダリーを構成するなら閉鎖系の設計ですべきだ(*)。
実際、ALPS配管の洗浄廃液による被ばく事件は、2月21日の原子力規制委員会で「軽微な実施計画違反」と決定したが、最終的な対策としては、今後2年もの月日をかけて、閉鎖系の設計に変更することになった。
(*プラントに詳しい青木一政さんから次のような指摘がありました。「閉鎖系の議論ですが、汚染水かぶり事故については閉鎖系にすべきですが、今回のベント系の場合は、そもそも水素を放出するわけですから、閉鎖系にするとそこで爆発の危険性があります。ベントは水素を大気中に逃がすための機能ですから、閉鎖系にはしてはいけません。今回の問題は運転者と保全者の問題もしかりですが、より本質的には、人のミスを設備でカバーする(つまり遠隔での制御、監視、自動化)のが本筋と考えております」。これはもっともなご指摘なので、私自身の考え方を改め、加筆します。以下は、そのことを念頭に入れてお読み頂ければ幸いです。よろしくお願いします。2月25日、移動中の電車内で加筆。)

ALPSとサリー 事件の共通点<開放系>

そこで、21日の原子力規制委員長会見では、この開放系・閉鎖系の設計の観点から質問することにした。長いが抜粋する。

○記者 (略)ALPS配管の洗浄作業についてなのですけれども、東電の報告によれば、高濃度の洗浄廃液を扱うものが、仮設の開放系の設備で行われていたので、ハウス設置など暫定的な応急措置の後、2年後に実施計画の変更もあり得る設計変更で、閉鎖系の装置にするということなのですけれども、これは危ないものは閉鎖系で行うという、この設計の考え方を正常化するという変更であって、これは、軽微とは言えない違反だったんじゃないかと思うのですが、お考えをお願いします。
○山中委員長 これは、当初から実施計画違反であるということはお話をしてきたとおりでございますけれども、事象の内容等を考えると、軽微な違反であるというふうな判断は、委員の間でも異論がなかったところですし、私自身も、それで問題がなかったというふうに思っております。御指摘の常設か仮設かという問題でございますけれども、常設にしろ仮設にしろ、安全上のきちっとした対策がなされていれば、それはもう特段問題がないというふうに私自身は思っております。

○記者 仮設で開放系だったのがまずいので、常設で閉鎖系の設計に変えるということなのですね。だから、随分違うことになるので、これはやっぱり軽微ではないんじゃないでしょうかという、すみません。もう一度同じ質問になりますが。
○山中委員長 軽微な事案であるという判断には、私自身変更ございませんし、今後、開放系で作業を続けていっていただく上で、安全対策として、例えばハウスを設けるというような対策をきちっと講じた上で作業を続けていっていただければいいというふうに判断でございます。もちろん常設にして、閉鎖系にするというのも一つの改善対策でございますので、それは別途申請をしていただいて、審査をするということになろうかと思いますけれども。

○記者 サリーの件に移らせていただきますが、これも漏えいのリスクがあるベント弁が開放系的に取り付けられていたと、建物の外に出るようになっていたという意味では、これもやはり閉鎖系であるものに今度変えるということなのですけども、同じ種類のミスだったと思いますが、これについてはどのようにお考えでしょうか。
○山中委員長 装置の中で発生する水素を逃がすという、そういう意味においては、開放系にならざるを得ない、そういう装置であるというふうに考えています。そういう水素を逃すという作業の中で、閉じなければならない弁が開かれていたという、そういうことが原因で、直接な原因で漏えいが起きたという、そういう理解でおります。

○記者 先ほど深掘りを、原因についてはしてほしいとおっしゃいましたけれども、やはり高濃度の汚染物質を扱うところで、開放系と閉鎖系が混じるところとか、本来は閉鎖系であるべきところとか、そういった注意点というのがあるように思うのですが、その点いかがでしょうか。
○山中委員長 もちろんそのとおりだというふうに思いますし、高濃度の放射性物質を扱う経路において開放系になる場合には、それなりにバルブの操作等は注意をした上で、作業は行っていただく必要があるかと思います。

2024年2月21日原子力規制委員長会見録

ALPSとサリー 事件の共通点<多重下請け構造>

多重下請け構造の問題についても聞いた。

○記者 (略)同じ作業を6人の方が今回行っていて、サリーで。(略)下請作業員がワンチームで6人で、3社が作業しているという、この視点についてはどのように、委員長はお考えでしょうか。
○山中委員長 これも今後の検査に委ねたいと考えているところですけれども、やはり作業員と、現場の作業員と東電職員とのいわゆる関わりがどうだったのかというのは、非常に重要なポイントかと思いますので、その点については、現場の作業員の行動も含めて検査の中でしっかりと見ていってほしいと思っています。

○記者 その意味では、やはりALPS配管の洗浄の問題と根っこが同じであるような気がするのですけれども、委員長のお考えをお願いします。
○山中委員長 (略)共通点についてもきっちりと探っていっていただきたいというふうに思っています。

2024年2月21日原子力規制委員長会見録

なお、サリーでの多重下請け構造については、以下の配置図に照らして、22日の東電会見で確かめた。

高温焼却炉建屋からの放射性物質を含む水の漏えいに係る原因と対策」(2024年2月19日、東京電力)

・赤の3人が「元請」(アトックス社)で、現場操作室の1人が放射線管理員。
・青の作業員Aさんが1次請(班長)、Bさんも1次請。
・青の作業員Cさんは2次請(班長)。

つまり、弁の「閉」を確認するはずだったBさんとCさんは違う会社。操作室にいたAさん(班長)はBさんと同じ会社で、手順を確認する役目があった。3社が入り乱れる作業現場だった。再度、書いておくが、BさんとCさんは「高線量下の作業であることから早く作業を終えたいとの意識もあった」と東電は説明している。

「福島の復興」という言葉が安易に使われる。しかし、福島第一原発では、いまだに、下請け作業員たちによる「被ばく」と隣り合わせの作業が続いている。しかも、このような複数社で指揮命令系統が入り乱れるチームで。

そのことが、このような汚染水漏えい事件で可視化される。もうすぐ原発事故から13年だ。

★汚染水の漏えい量について(2月26日加筆)

7日当初、東電は5.5m3、220億ベクレル(セシウム137評価)と概算。
19日には1.5m3、66億ベクレル(セシウム134と137の総和)と発表。
木野龍逸氏の「元の汚染水の放射能濃度は?」との質問に、東電は会見で以下を回答した。
・サリーの入口で 
 セシウム:1.18x10の7乗= 1億1800万ベクレル/L
 ストロンチウム90:7.57x10の6乗= 7570万ベクレル/L
・サリーの出口で 
 セシウム:2.19x10の3乗=2万ベクレル/L
 ストロンチウム90: 2.04x 10の2乗=2万400=ベクレル/L
告示濃度限度はそれぞれ以下の通り。
 セシウム137(90Bq/L)
 セシウム134(60Bq/L)
 ストロンチウム90 (30Bq/L)

濃度についてはこちらP4、P16もご参考ください。
その他 回収土壌(30m3)についてはこちらP18、19を。

【タイトル画像】

高温焼却炉建屋からの放射性物質を含む水の漏えいに係る原因と対策」(2024年2月19日、東京電力)より

【訂正とお詫び】
✖️
第二セシウム吸着装置「サリーII」→○第二セシウム吸着装置「サリー」



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?