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10年後日本はあるか?

<2023年度予算の概算要求>

2022年8月末で2023年度の概算要求がまとまりました。要求額は約110兆円で過去2番目に大きい金額です。しかも予算がまだ決定しておらず今後追加となる事項要求項目も多数上がっています。今後財務省が項目を精査した上で、今年の12月に2023年度予算案が閣議決定されます。2023年1月からの通常国会で審議され、3月には2023年度予算として承認される見込みです。

ニュースでよく取り上げられるのは防衛費の話です。今までGDP比1%だったものを2%まで持っていくという岸田首相の強い希望の下、今回の概算要求額は6兆円台を見込んでいます。前年は5.3兆円のため、約7000億円増です。

ただ、全体感からすると防衛費は大した額ではありません。110兆円に占める割合で大きなものは社会保障費と国債・利息の返済に当てる国債費です。厚労省の概算要求額は33.2兆円で前年比6320億円増です。国債費は26.9兆円で、前年比2.5兆円増です。この二つの費用だけで約60兆円、全体の半分以上を占めます。社会保障費や国債費も前年と比べると大きく増えているのですが、ニュースにはほとんど取り上げられません。
私見ですが、社会保障費の主なものは年金や医療、介護といった高齢者が増えると自然増するものとなっております。国債費も国債の残高が増えれば自動的に増えます。いくら議論したところで減らす方法がないため、ニュース等で取り上げられないのではないでしょうか。
 
<社会保障費>
 
厚労省によれば、公的年金への依存度が100%の世帯は全体の48%、60%以上から100%未満は27%、60%未満は25%です。約半数の家庭は公的年金を補う所得を有しますが、残り半数にはその道がなく厳しい経済環境に直面します。
1960年代生まれの人が受給する公的年金の額と生涯所得との比率は、所得額の5分位の順に下から78%、58%、49%、41%、31%です。退職所得の柱が公的年金であることは日米共通ですが、アメリカの方が高所得層を中心に依存度が低い状況です。
アメリカでは公的年金を補う退職所得制度が定着しています。退職時期に差し掛かる55歳から65歳の勤労世帯の場合、その41%が個人退職勘定IRAと401Kなどの確定拠出年金(DC)の双方に加入し、25%がIRA、DC、確定給付年金(DB)の三制度すべてに加入しています。尚DBのみの加入は9%で、いずれの退職所得制度にも未加入の世帯は全体の25%がいます。IRAの2021年度末の残高は14兆ドルと過去5年間で7割増加し、DCの11兆ドル、DBの12兆ドルを上回ります。 
 
厚労省は多額の予算を抱えていますが、ほとんど政策による決定権がない予算となっています。厚労省の予算のうち95%以上は年金・介護・医療に当てられてしまいます。年金、介護の単価は年金制度や介護制度の支給金額によって決定され、人数は高齢者人口によって決定されます。医療のうち70%以上は高齢者向けですので、こちらも人数は高齢者人口によって決定されます。少子高齢化が世界一の日本で、人口の3割超が高齢者となっている日本では、この予算は固定費となります。 
 
<国債費>
 
財務省は2022/8/10、国の借金が2022年6月末現在で過去最多を更新し、1255兆1932億円だったと発表しました。2023年3月末までには1410兆円を超える見込みです。国民一人当たりで単純計算すると初めて1,000万円を超え、2003年度に550万円だったのが約20年で2倍に増えました。
財務省の試算では、金利が想定より1%上昇した場合、2025年の元利払いの負担は3.7兆円増えます。GDP比の公的債務残高は200%を超えています。 
 
2022年5月に行われた日本経済学会春季大会のパネル討論会で、パネリストの一人が日本は『衰退途上国になってしまった』と指摘しました。発展途上国が先進国よりも高い経済成長率を続けて先進国に追いついていくのに対して、衰退途上国は低い成長率を続けて世界から取り残されてしまいます。積極財政では成長率は高まらず、ワイズスペンディングが必要です。 
 
現在円安が進んでおり2022/9/7現在で1ドル143円となりましたが、この原因は日米の金融当局による政策に伴う金利差によるものが大きいと言われています。本来であれば欧米の金融当局が利上げを行っている以上、日本も利上げに行えばここまで円安は進まないのですが、国の借金の多さにより国債費をこれ以上増加させることが予算上できないため、金利を抑えざるを得ないのです。残高の増加だけで2.5兆円支払いが増え、金利の上昇で追加で3.7兆円の増加となった場合、総額6兆円の増加で今ニュースとなっている防衛費の全予算が利払いの増加で消えることになります。
 
幸いなことに日本国債の半分は日銀が有しているため債権者が文句を言うことはありません。また90%超が日銀の他、日本の金融機関、年金、個人等であり、海外比率は7%しかないため海外の債権者が文句を言ってくるケースも少ない状況です。 
 
<10年後日本はあるか?> 
 
SDGsを中心としてサステナビリティが叫ばれていますが、果たしてこの日本の予算がサステナブルなものかと言われると非常に疑問があります。人口統計的には今後も高齢者は増え続けます。そう考えると社会保障費は増える一方です。一方日本の税収は約30年間横ばいの60兆円前後です。足りないお金を今まで通り国債でまかない続けた場合、日本の負債が日本の資産を超える日がやってきます。
スリランカは2022年7月に倒産を宣言しました。IMFが中心となり再建を進めており、債務免除を日本や中国に求めています。中国は債務を一部免除する代わりに、港等インフラの使用権をほぼ半永久的に独占することにしました。財政が破綻した国を侵略するのは非常に簡単です。守ろうと思ってもお金がないため守れないからです。そう考えると10年後日本はあるのかというのが気になります。
MMT理論もありますが、私は懐疑的です。国とは言え、世界と付き合っている以上、信頼が必要です。理論上は潰れないのかもしれませんが、世界から相手にされなくなり、結果として破綻するのではないかと思います。 
中国は台湾や尖閣諸島を狙い軍事行動を活発化させています。また2012年に尖閣諸島が問題となった時、中国政府のホームページでは、日本を国ではなく中国の省の一部とするという報道がなされました。ロシアや中国は財政健全化には非常に気を使っています。理由はお金がなくなった時に、自国の領土が侵略されることを分かっているからです。日本の国がサステナブルであるためには財政健全化が必須です。
 
<どうやって財政健全化を達成するか?>
 
痛みを伴わない改革は不可能です。確実に痛みは伴います。それでも将来日本が存続するためには、財政健全化をしなければなりません。私が岸田首相だった場合、まずはこの社会保障費と国債費の削減に注力します。
 
社会保障費の『数=高齢者の人数』は変更できません。変えられるのは『単価=年金給付額』となります。当然反発は予想されますが、断行します。まずは総額を規定します。30兆円を上限とします。その上で高齢者で一定以下の所得層に対しては、ベーシックインカムを適用します。そうすることによって高齢者で所得が低い人にもお金が行き渡るようにします。残額を残りの高齢者の人数で割った数で年金給付額を算定します。毎年このような計算方法で社会保障費を30兆円に抑える形にします。必要な人にお金を給付するワイズスペンディングを実施します。
 
国債費に関してはまずは年間予算の総額を規定します。収入の範囲内で支出を収めるのが当たり前です。国債費を除いた支出総額が、税収等の収入の範囲内に収まるようにします。2022年度の収入は65兆円ですので、国債費を除いた支出額総額が65兆円におさまるように省庁に指示します。国債費は27兆円ですので、総額92兆円が2023年度予算の総額となります。現在の概算要求よりも20兆円近く減少できるため、国債の発行は抑えられます。省庁には来年度支出を増やしたければ、税収等の収入を増やすように指示します。各省庁の政策によってどの程度税収が増えたのかを可視化した上で、来年度予算には税収の増加額を反映させます。これを繰り返していくことによって、国債の発行自体を減らしていき、国債費を減少させていくのが筋だと考えます。
 
お金がある時はやりたい事を積み上げていって年度予算にするのは可能です。一方、お金がない時に同じ方法でやってサステナブルを達成するのは不可能だと思います。限られたお金の中でやりくりするのがサステナブルへの道ではないでしょうか。イスラエルとパレスチナの戦争は2000年に渡りますが、理由は限られた土地の奪い合いによるものです。国土を維持するのは国民を守る最低限の行動です。日本も財政難により、中国やロシアに領土を奪われないようにする必要があります。
岸田首相は黄金の3年間を有しています。せめてこのぐらいの施策、実行はしてもらいたいものです。


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